ニッポン"軽EVバトル"ついに開幕! 注目はスズキビジョンe‐スカイvs中国BYDラッコ。さらに他メーカーも続々......!?
イチオシスト

スズキ ビジョンe‐スカイ 航続距離は約270㎞を想定。シンプルで使いやすい内装と近未来感のある外観が融合。売れるか!?
ジャパンモビリティショー2025で、スズキと中国BYDがそれぞれ世界初公開した軽EV(電気自動車)コンセプトモデルが大きな話題だ。
いったい何がどうスゴいのか? BYDが軽自動車に参入する理由はどこにあるのか? 果たして軽EVは普及するのか!?
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【中国BYDの軽EVは、 スーパーハイトワゴン!】10月29日から11月9日まで東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されたJMS(ジャパンモビリティショー)2025。その会場でひときわ注目を集めたのが、スズキと中国BYDが世界初公開した軽EVのコンセプトモデル。
スズキが披露したのはビジョンe-スカイ。鈴木俊宏社長は方向性をこう示した。
「通勤や買い物、週末のちょっとした外出など、日常使いに最適な軽EVを目指す」
スズキの開発担当者にも話を聞くと、笑顔で語る。
「今、スズキ車に乗っているお客さまが、自然に乗り換えを考えられるクルマを目指して磨き上げています」
展示車はほぼ市販仕様に近い完成度を誇っていた。では、自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏の見立てはどうか。
「スズキは"ちょうどいいEV"の量産を目指しています。グローバルEVとしてのeビターラは世界市場の動向をスズキが肌感覚でとらえるためのモデルでしたが、ビジョンe-スカイは日本市場の需要を踏まえた商品になるはず」

BYD ラッコ 航続距離はベースモデルで約240㎞、ロングレンジ仕様は約370㎞を想定。2026年夏に発売予定
一方、BYDがJMS2025で初公開した軽EV・ラッコは、会場に衝撃を与えた。その理由は明快だ。スライドドア付きの軽スーパーハイトワゴンという、日本市場の"ドル箱カテゴリー"に真正面から切り込む設計だったからだ。
BYD日本法人社長の劉学亮(りゅう・がくりょう)氏はこう胸を張る。
「今年1月から9月までのEV販売台数で、BYDは世界一です」
その勢いを日本市場にも波及させるべく、ラッコは日本専用車として開発された。同社の乗用車部門を統括するBYDオートジャパンの東福寺厚樹(あつき)社長は、ラッコの設計思想についてこう語る。
「ラッコはBYD初の海外専用モデルです。日本の軽自動車規格に合わせて設計し、左右スライドドアなど、日本のユーザーに支持される装備を多数採用しています」
BYDのこの一手に注目が集まる背景には、日本市場における軽自動車の存在感がある。全国軽自動車協会連合会の資料によると、新車販売の4割近くを軽が占めており、その中でも売れ筋なのがスーパーハイトワゴンなのだ。
つまり、ラッコはホンダのN-BOX、スズキのスペーシア、ダイハツのタントが激戦を繰り広げる市場に真っ向勝負を挑んできたのである。
今回、撮影を担当したのは、関西出身でキャリア30年を誇るカメラマンの山本佳吾氏。スズキとBYDの軽EVについて、忌憚(きたん)なくこう語る。
「ビジョンe-スカイはこのまま市販されるとは思わへんけど、ええ意味でスズキらしくないポップな雰囲気がええ感じや。特に内装はシンプルで飽きがこないし、使い勝手も良さそう。問題は値段や」
そして、JMS2025開催前から話題を集めていたラッコについてはこう続ける。
「名前はちょっとかわいすぎる気もするけど、見た目はプレーンでええ感じ。日本の軽自動車をよう研究してるのが伝わってきたわ。売れるかどうかは正直ようわからんけど、ガソリンスタンドが減ってる地方の"アシ車"にはピッタリやと思う。ただ、ディーラー網の整備やアフターサービスがどこまで信頼できるか、それが勝負の分かれ目やな」
【販売価格は200万円台前半か!?】日産リーフをはじめ、数々のEVを実際に購入して徹底チェックしてきた自動車評論家の国沢光宏氏は、BYDのラッコについてこう語る。
「BYDのラッコは本気です。軽自動車は日本固有のカテゴリーで、海外では存在しない。そんな中で、日本専用に開発してきた。並々ならぬ意気込みを感じますよね」
国沢氏が驚いたのは溶接。
「通常、クルマは両サイドのパネルと屋根を溶接して組み立てますが、ラッコは屋根に高級車で使われるレーザー溶接を採用していました。これはさびの防止や車体強度の向上に効果があり、衝突安全性を考慮している証拠です」
さらにブレーキにも力が入っているという。
「軽自動車の多くはコストを抑えるために安価なドラムブレーキを使いますが、ラッコは前後とも値の張るディスクブレーキを採用。これは安全性と走行性能を重視している証拠です」
一方、桃田氏は日本市場におけるEVの現状と、注目を浴びるラッコの戦略的意義をこう分析する。
「日本でのEVシェアは2%弱と、いまだ低迷しています。その中で主力となっているのは、日産のサクラと三菱のeKクロスEVです。BYDはこれまでドルフィン、アットスリー、シール、シーライオン7と段階的にEVのラインナップを強化してきましたが、エントリーモデルの必要性を強く感じていたはず」
その答えが、日本専用規格である軽への挑戦だった。
「海外の大手自動車メーカーが軽規格に対応するのは初めてのこと。こんな大胆な決断を短期間で実行できるのは、オーナー経営であるBYDならではの強みです」
気になる価格設定について、桃田氏は冷静に分析する。
「ベンチマークとなる日産のサクラの価格が260万円弱スタートです。ラッコは少なくとも250万円以下、できれば200万円台前半に収めたいところ。ただし、100万円台で出すと、市場全体を壊しかねない」
スズキのビジョンe-スカイの価格はどうか。
「EV開発において、スズキが採用しているのは"バックキャスト型"の設計思想です。つまり、まず実用的な航続距離を設定し、そこから逆算して最もコストに影響するバッテリー容量を決定するという手法。これは、価格と性能のバランスを見極めながら、現実的な商品化を目指すスズキらしいアプローチ。当然、ラッコの動向も踏まえた上で、価格は200万円台前半が現実的でしょうね」
【軽EVに立ちはだかる"大きな壁"】ただ、軽EVの普及にはまだまだ高いハードルがある。
実は軽EV販売バトルの先陣を切るモデルが今年9月12日に登場している。ホンダ初の乗用軽EV・N-ONEe:がそれ。WLTCモードで295㎞という航続距離を誇るが、販売最前線の反応は冷ややかだ。
ある関東のホンダ販売店スタッフは、こう本音を漏らす。
「お客さまの反応は鈍い印象ですね。依然としてインフラの問題なども大きく、売れ筋はやはりガソリン車のN-BOXシリーズです。どの店舗も同じ状況だと思います」
ちなみに経済産業省の資料によると、全国の充電口数は約6万8000。EV普及を支えるには、まだまだ足りているとは言い難い。
別の関東の販売店関係者は、価格面の壁を指摘する。
「軽自動車を購入されるお客さまには、"200万円の壁"があります。軽EVの売れ行きは価格が重要ですね」
こうした現状に対し、国沢氏は、ラッコの登場が市場に火をつける可能性を示唆する。
「ラッコの登場で軽の老舗であるスズキとダイハツにも火がつきました。まさに"BYDショック"。今後、価格競争も始まるでしょう」
ちなみに国沢氏は、軽EVが日本のEV普及の入り口を担う存在になるとも語る。
「そもそもEVという乗り物は本来、"生活のアシ"を想定したもの。テスラの登場で加速力や航続距離ばかりが話題になりましたが、普及を目指すなら安価な軽EVがベスト。特に過疎化が進む地方では、『ガソリン給油に往復40分かかる』という声も耳にする。自宅充電ならそれも解決できる。電気なら日本中どこにでもありますから」
桃田氏もこう語る。
「地域移動が主体で、自宅充電が基本となる軽EVは、日本における"EVの最適解"と言えます。ただし、軽EVをきっかけにニッポンでEVが急速に普及するかどうかは未知数です」
実はJMS2025では、ダイハツやホンダも軽EVの試作車をぶつけてきた。そして来年、今回紹介したスズキとBYDの市販モデルが登場する。いよいよ始まる"軽EVバトル"。この戦いが、EV普及の号砲となるか!?
取材・文・撮影/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾
記事提供元:週プレNEWS
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