うまくやれた? もっとできた? "サナエ外交"デビュー戦スコア速報
イチオシスト

【10月26日 ASEAN関連首脳会議】クアラルンプールで開催されたASEAN関連首脳会議で、高市首相は日本とマレーシアによる包括的パートナー関係を再確認しつつ、台湾海峡の平和と安定の重要性を訴え、力による現状変更を容認しない姿勢を表明した
就任後すぐに多国間外交や首脳会談を立て続けにこなし、華やかな演出で国内の支持を押し上げた高市早苗首相。では、実際の成果はどうで、どんな課題が残ったのか。"サナエ外交"デビュー戦の点数と次の宿題を見ていく。
【垣間見えた外交力は運も味方した80点!】10月21日の首相就任直後から、高市早苗首相は国際舞台へ躍り出た。26日のマレーシアでのASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議を皮切りに、28日には訪日したトランプ大統領と日米首脳会談。
続く30日には韓国でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席し、李在明(イ・ジェミョン)大統領との日韓首脳会談をこなすと、翌31日には習近平国家主席との日中首脳会談まで実現した。
就任からわずか10日。怒涛のスケジュールを走り抜けた〝サナエ外交〟のスタートダッシュは、華々しく見える一方で、実際にはどう評価すべきなのか。
「現時点での評価は80点。まず対米外交では〝安倍外交〟への回帰が明確に示されました」と語るのは、アメリカ現代政治が専門の国際政治学者で上智大学教授の前嶋和弘氏だ。
「安倍外交とは、故安倍晋三元首相の外交スタイルで、端的に言えば涙ぐましいほどの接待外交です。トランプ氏が望むこと、喜びそうなことは徹底してやり、言いたいことは存分に言わせて、おだてて褒めまくる。
その上で、少しでも日本の利益になるよう誘導する、あるいは不利益を避ける。それがトランプ政権に対する安倍政権の基本姿勢でした。
高市政権の誕生で、その路線を当時支えた人材が戻ってきた。トランプ氏に、安倍元首相が使用していたゴルフクラブを友情の証しとして贈ったのも象徴的です。準備期間が短かったにもかかわらず、トランプ氏を喜ばせる仕掛けを次々に用意したのです。
また、会談後に共同宣言を出さず、記者会見すら行なわなかったのも、双方が国内向けに具体性のないフワッとした話で成果をアピールできるという狙いがあったのではないかと思います」

【10月28日 日米首脳会談】迎賓館で署名式に臨むトランプ大統領と高市首相。両首脳は「新たな黄金時代」を目指し、日米同盟のさらなる強化で合意した
フワッとした話とは?
「例えば、先の交渉で日本は5500億ドル(約80兆円)の対米投資を約束しましたが、今回の首脳会談後に外務省が発表した『日米間の投資に関する共同ファクトシート』を見ると、関心を示す日本企業が約10社おり、その事業規模総額は約4000億ドルだと書いてある。しかし、実際には絵に描いた餅に近い計画も多い。
また、米国側が求める防衛予算拡大も、もともと高市首相が望んでいたことでもあるので、トランプ政権の圧力を口実に進めたい意図は明白ですが、現時点で財源の道筋は見えていません。
それでも、安倍外交路線への回帰で、トランプ氏との良好な関係や日米同盟の強化を国内にアピールできれば、船出したての高市政権にとって、まず大成功と言っていい。第2次トランプ政権の誕生以降、『接待外交でトランプという怪獣を懐柔する』スタイルが、世界の対米外交のスタンダードになりつつあります」

【10月30日 APEC(アジア太平洋経済協力会議)】日韓首脳会談慶州で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)では、高市首相が各国首脳と親密にスキンシップを取る姿が話題に。同日の日韓首脳会談では、日米韓の連携の重要性を改めて確認した
台湾や中国問題に詳しい大東文化大学教授の野嶋剛氏も、高市首相の外交デビューは「80点」と高く評価する。
「公明党の連立離脱などで一時は厳しい状況もありましたが、就任直後に華やかなマルチ外交の舞台がそろっていたのは幸運でした。
そこでは実質的な外交の中身である『サブスタンス』よりも、表面的な『パフォーマンス』のほうが重要である場合が多い。菅、岸田、石破ら安倍政権以降の日本外交は、このパフォーマンス面で赤点続きでしたが、高市氏はちょうど大きな外交イベントが連続するタイミングに恵まれた。
基本的には交渉よりも仲が良い雰囲気を演出できればOKという場でしたから、自身の得意とするパフォーマンスを発揮でき、その結果、支持率の引き上げにもつながった。
唯一、実質的な意義があったとすれば、日中首脳会談が実現したこと。中国側は当初、高市氏を『極右』と呼んでいました。中国で『極右』はほぼ犯罪者のようなもの。
そのため首脳会談に難色を示していましたが、今回、『保守強硬派』に中国的には〝格上げ〟され、習近平主席との会見を受け入れた。これは成果と言えるかもしれません」

【10月31日 日中首脳会談】慶州で中国の習近平国家主席と初会談した高市首相。日中両国が共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」の推進を再確認した
とはいえ、不安点はある。
「これまで高市氏がやってきたのは総務大臣や経済安全保障担当大臣などの内政が中心で、外交に深く関わった経験がなく、ブレーンもいない。
高市氏が落選した過去2回の総裁選で示した政策所見を見ると、2021年は外交政策への言及は実質ゼロ。24年もわずか5行ほどで、具体性はありませんでした。
今回の総裁選では多少詳しく外交政策に言及していますが、その中身は安倍政権が提言した『自由で開かれたインド太平洋』の実現、すなわち多国間で対中包囲網を固めるという方針の焼き直しに過ぎなかった。
外交経験もありブレーンも多くいた安倍氏と違い、経験も人脈も乏しい高市氏に同じことができるのか? 『世界の中心で咲き誇る日本』を取り戻すための道筋は見えていません」
一連の外交パフォーマンスで高得点を叩き出した高市首相だけに、今後はその内容に、より厳しい視線が集まりそうだ。
取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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