「追想ジャーニー リエナクト」:異⾊のインナーワー ルド・エンタテインメントの第2弾が登場!
高崎映画祭邦画ベストセレクションに選出された、谷健二監督による「追想ジャーニー」(2022)の第2弾、「追想ジャーニー リエナクト」(2024)が3月21日より「Amazon prime video」「U-NEXT」などにて配信となる。前作と同じく舞台を主人公の人生と捉え、過去と現在の自分が会話しながら、ステージ上で展開する独自の表現方法は今回も健在。演じる松田凌、渡辺いっけいを中心に、新たな追想の旅が始まる。
還暦の脚本家が退行睡眠のよって、30年前の自分に会いに行く!
主人公は次回作の筆が、一向に進まない脚本家の横田雄二(渡辺いっけい)。彼は『退行睡眠 失った記憶を取り戻し、現代人のストレスをなくします』というメールを受け取り、催眠術師による退行睡眠によって、30年前の自分と会いにいく。30歳の雄二(松田凌)は、演劇仲間の峯井(樋口幸平)や中村(福松凜)との舞台公演を控えていたが、初日前日なのに脚本が書き上がらない。そこへ30年後の横田がやってきて、ここが人生の大事なポイントだと話しかける。自分と同じ道を歩むなという横田のアドバイスに従って、雄二は彼の演劇のファンである麻美(新谷ゆづみ)と付き合い始める。その後の雄二は、横田の人生と違った世界線をたどり始める。新たな選択をしたことで、横田は未来を変えることが出来るのか?
違った未来を歩む主人公の、新たな人生の選択とは?
前作「追想ジャーニー」ではスターになるという夢を追い求めながら、48歳になっても売れない役者をやっている主人公が、高校生だった18歳の自分に退行睡眠で会いに行った。二人はいくつかの人生の分岐点へと追想の旅を続け、自分の選択の何がいけなかったのかを話し合いながら検証していった。今回の脚本家・横田雄二も30年前の自分と会うのは同じだが、現在と過去の雄二は60歳と30歳で、前回よりも人生経験を踏んでいる。それだけに大人が若者に考えを押し付ける感じがあった前作よりも、対等な立場で二人の雄二が描かれていく。特に現在の横田が、過去の雄二に麻美と結婚するという、自分が知らない未来を選ばせてからの展開は、二人にとって未知の世界線でドラマが展開していき、彼らは様々な人生の選択を密に話し合って決めていくことになる。
友人への思いが込められた、再会の場面が感動を呼ぶ
また今回は横田雄二ひとりだけではなく、峯井と中村という二人の友人が、彼の人生に大きくかかわってくる。若い頃に三人は互いの才能を認め合っていて、特に峯井は自分がメジャーになって雄二の作品を世に広めると約束していた。しかし実際の峯井は、その数年後に病死した。執筆にかかりきりで、峯井の死に目に会えなかったことが横田には今も心残りで、若い雄二に峯井の見舞いに行けと助言する。峯井は自分が横田のために何もできなかったことを申し訳なく思い、病状が悪化しても彼に知らせなかったのだ。この果たせなかった友人との約束が、作品の大きなテーマになっている。現在の横田が死の床にある峯井と会う場面は、演じた渡辺いっけいの熱演もあって感動を呼ぶ名シーンだ。
芝居経験豊富な俳優陣が、舞台と映画の世界を表現!
映画でありながら、舞台上で横田の精神世界を表現しながら彼の人生が語られていくだけに、演じる主演俳優にも舞台経験豊富な手練れが揃った。30歳の雄二を演じるのは、初舞台の『ミュージカル 薄桜鬼』(2012)に初主演し、その後は舞台『刀剣乱舞』シリーズや『進撃の巨人─the Musical─』のリヴァイ役など、数々の舞台で活躍する松田凌。60歳の横田に扮するのは、状況劇場に参加していた若い頃から現在まで多くの舞台に出演し、映画やテレビでも圧倒的な存在感が光る、名バイプレイヤーの渡辺いっけい。また峯井をテレビの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022)に主演して注目を集め、最近では映画「ネムルバカ」(2025)にも出演している樋口幸平、中村を『ガラパゴス』(2023)や『下剋上球児』(2023)などのテレビドラマで人気を集めた福松凜、麻美を元アイドルグーループ『さくら学院』のメンバーで、現在は女優として活躍する新谷ゆづみが演じている。さらに成長した雄二と麻美の息子・零士役で、ダンス&ボーカルグループ『BUDDiiS』の高尾楓弥が登場するのも見どころだ。
監督は前作に続いて、「映画 政見放送」(2023)でも知られる谷健二が担当。脚本を演劇バトル『演劇ドラフトグランプリ2023』で優勝を果たした劇団『恋のぼり』の作・演出を担当している私オムが、舞台と映像の見せ方を効果的に使って執筆。一瞬で時空を飛び越える演劇の面白さと、演じ手のリアルな人間性を映し出す映画の特性を見事に融合させた作品に仕上げている。
この作品は現在から過去へ人間の体が移動するタイムスリップものとは違い、人生に後悔の念を持つ主人公が、精神世界の中で過去を振り帰っていくことで、これから自分が生きていくための希望を手に入れるのが魅力。その物語のフォーマットと、人生を舞台に見立てた表現方法は、まだまだ続編を作れる可能性があると見た。第1作は売れない役者、今回は執筆に悩む脚本家。とすれば次は、スランプに陥った映画監督あたりが主人公になるのではないか。そんな今後への期待も膨らむ、異色のインナーワールド・エンタテインメントである。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社

「追想ジャーニー リエナクト」
★3⽉21⽇より「Amazon prime video」「U-NEXT」などにて配信
詳細はこちら⇒https://www.journey-movie.net/
2024年/日本/66分
監督:谷 健二
脚本:私オム
主題歌「表紙絵 -samune-」(岸 洋佑)
出演:松田 凌、樋口幸平、福松 凜、新谷ゆづみ、⾼尾楓弥(BUDDiiS)、宮下貴浩、根本正勝 / 渡辺いっけい
© 映画『追想ジャーニー リエナクト』製作委員会
記事提供元:キネマ旬報WEB
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。