対照的な構えなのにどちらも“パットの名手” 菅沼菜々と鈴木愛に共通する「重芯」で打つ技術とは?【四の五の言わず振り氣れ】
イチオシスト
昨年でツアーから撤退した上田桃子やルーキー・六車日那乃などを輩出する「チーム辻村」を率いるプロコーチの辻村明志氏が、パットの名手の共通点を教えてくれた。
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鈴木愛プロで50センチ、菅沼菜々プロが15センチ。一体、なんの数字でしょうか。ボクの目測ですが、パットにおける、体とボールとの距離です。鈴木プロはさしずめ青木功プロタイプで、ややハンドダウン、トゥ側が浮いた構えになります。一方の菅沼プロは、ツマ先にヘッドがぶつかるのではないか、と思うほど。構えはハンドアップ。ヒール側が少し浮きます。
2人ともパットの名手と呼ばれる選手です。パットに型なしとはよくいわれ、ボールとの距離はもとより、ヘッドタイプ、握り方や軌道……と十人十色です。ただ、どんな型でも構いませんが、名手と呼ばれる選手には共通点があることを忘れてはなりません。それは構えは違っても、確実に芯で打っている、ということです。
多くのパターには重心を示す目印があり、それをボールの中心に合わせて打つ人も多いはずです。ちなみにこの目印は、あくまでフェース面の左右の重心であり、実は“あなたの芯ではない”というのが、今回のテーマです。
一般にパターのライ角は、平均で69~70度とされています。みなさんが芯だと思っている目印は、こうした設計上の重心でしかありません。鈴木プロと菅沼プロが同じパターを使ったとして、同じ所で打つでしょうか。トゥ側の浮く鈴木プロは目印からややヒール側で、逆にヒール側の浮く菅沼プロはややトゥ側で打つはずです。少なくとも、構えが異なる2人が刻印された目印で打つとは思えません。2人ともコロがりは悪くなるでしょう。となると刻印された目印は、パターの設計上の重心であって、2人にとっては毎回打っている“芯”ではないのです。
パットの名手に共通するのは、パターに刻印される目印でなく、あくまでも自分の芯を持ち、その芯で打つということです。もちろんプロの場合、ハンドダウンタイプはフラットに、ハンドアップタイプはアップライトにライ角を変えて、より芯を刻印に近いポイントに移す調整をする場合もあります。しかし、パターの設計上の重心は、必ずしもあなたが毎回打っている芯ではない、というボクの説を否定するものではありません。鈴木プロのようなハンドダウンのタイプの人が、フェース真ん中の目印で打とうとしたら、コロがりのいい球を打つことはできないのです。
パットに型なしというのは、見方を変えればパットの名手は、独自の型を持っているということです。型がないのではなく、型にこだわり、それを貫いているに他なりません。それは構えであり、握り方であり、毎回同じ所で打つという再現性の高さでもあります。
刻印がパターの設計上の重心だとしたら、ボクは自分の打ち方による芯を“重芯”と書いて表現したいと思っています。それを知り、そこで打つことこそが自分の型であり、それを貫き通せる人がパットの名手と呼ばれる人たちなのでしょう。
上田桃子選手は調子が悪くなると、少しボール位置が遠くなるクセがありました。わずかですがハンドダウンになります。もちろん数ミリの世界です。後方から見ているボクは、そんなとき、ボールを数ミリだけ近づけさせました。すると、どうでしょう。絶好調時の打音とボールのコロがりがよみがえってきました。いつも打っている箇所で打ち抜く感覚がよみがえることは、非常に大事なことです。
さて、アマチュアの方を見ていると、芯であるかどうかにかかわらず、毎回、同じポイントで打てていない人が多いことに驚かされます。ボクが見る限りアマチュアは、足の位置を決め、目でラインを読み、そしてパターを置く順番の人が多いようです。しかしプロはパターをソールして、次に目でラインを確認、そして最後にスタンスを決める人がほとんどです。プロの方法だと、同じライ角、構えで構えられるメリットがあります。アマチュアは決まった自分の本来のアドレスできちんと毎回構えられて、同じ個所で打っているかどうかを常にチェックすべきでしょう。
さて、毎回、同じ場所で打てない人には、フェースバランスのパターをオススメします。指にシャフトを乗せたとき、フェース面が上に向くタイプです。これは慣性モーメントが高く、左右の打点のブレに強いからです。ただ、ボクの個人的な意見としては、自分なりの型を追い求めた方が上達が早い気がします。そして、アマチュアがプロに勝てる可能性が最も高いのがパットです。技術を追求した者勝ちですよ。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子、六車日那乃らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』877号より抜粋し、加筆・修正しています
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