日・米・中・台・韓の半導体世界大戦! 王者TSMCの弱点、日本に復活チャンスも...業界人が語る覇権争いの歴史と未来
イチオシスト

写真は建設中のラピダスの北海道千歳工場。衰退したといわれがちな日本の半導体産業だが、工場の施工やウエハーなどの分野ではまだまだ強力!
何かと話題になることの多い半導体関連ニュースですが、業界の中の人はどう考えているのか?
中の人としてXから半導体情報を発信する情ポヨさんに業界の歴史、これからの展開を聞いてみました!
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謎の半導体エンジニア・情ポヨさん。「ポヨが口癖、趣味はアイドル」の緩い語り口ながら、業界最新事情に精通した分析は、専門家や官僚をもうならせる。
テレビや雑誌の出演依頼も多いが、「アイドル見に行く時間が取れなくなるポヨ」と断り続ける情ポヨさんをなんとか説得。今や世界経済の最重要ジャンルとなった半導体の歴史と未来を聞いてみた。
■日本の半導体産業は復活したのか?――新興企業ラピダスの立ち上げなど、日の丸半導体復活を目指す動きが活発です。
情ポヨ 日本の半導体産業の最後の栄光はプレイステーション2(2000年発売)ですね。
プレステ作るなら半導体も自前で作ろうぜと、ソニーはCPU「エモーション・エンジン」を開発し、長崎工場で量産しました。並列計算性能ではパソコン用CPUをぶっちぎる高性能だったんです。
――その黄金時代から20年、もう技術の伝承は途絶えているのでは?
情ポヨ 辛うじて残ってます。IBMやインテルなど米国からの帰国組、東芝などで働いていた人たち、壮年エンジニアがラピダスに結集しました。
それこそ、工場を24時間体制で爆速施工する、その後は派手に夜の街に繰り出すなど、イケイケの業界ムーブも伝承されてます(笑)。

――なぜ国産半導体が復活したんですか?
情ポヨ 2020年の半導体不足が大きいです。それまでも日の丸半導体復活を考える人はいたのですが、政府のバックアップがなさすぎて盛り上がらなかった。そこに「半導体不足で自動車が造れない、大変だ」となって、政府主導の巨大プロジェクトが動き出しました。
――世界一の日本半導体が衰退したときにもっと騒いでおくべきだったのでは!?
情ポヨ 半導体って"産業のコメ"というじゃないですか。あらゆる産業の基盤になる重要物資という意味ですが、どこにでも売ってて安く買えるものという意味でもコメと同じ扱いだったんですよね。
コメは価格高騰してから備蓄米だ、増産だ、輸入だとか騒がれましたけど、半導体も輸入できないとなってから騒がれ出したんです。
それまでは、役人も経営者も「輸入すればいいじゃん」という人が多かった。半導体メーカーの中の人は作り続けたいと思ってましたけど、PS2の特定用途ニーズが減少し、汎用CPUは既製品を輸入すればOK、設計だけして作るのは台湾TSMCにお任せという路線になりました。
TSMCは当時、日本メーカーが自社工場で作るより製造コストが安かった。日本が一番儲かるには、半導体は設計だけ、製造は外注というのが最善だったんですよ。

90年代から台頭した台湾のTSMC。当初は日本メーカーの下請けに徹していたが、現在では日本をしのぐ存在に躍進した理由とは!?
――レストラン経営がしんどいから、レシピだけ作る料理研究家になる的な考えですね。なぜ、TSMCはそんなに安く作れたのですか?
情ポヨ 自動化のメリハリですね。日本は全部の工程を自動化しようとしたんですが、むしろ人間よりも高くなっちゃうことも。
一方、台湾は元が取れる自動化はやるけど、人海戦術でいけるところはそのままで、きっちりとコストを見極める。それで日本を打ち負かすコスパを実現したんですよ。
その後、技術の進展や人件費の上昇に応じて、少しずつ自動化の工程を増やし、世界一自動化を極める企業になりました。
そして今でも、先端技術導入タイミングの見極めはシビアにやっていますね。半導体製造装置で一番金がかかるのはEUVリソグラフィ(極端紫外線露光装置)。「人類が作った中で最も複雑な機械」といわれるほどで、ドデカくてお高い。1台数百億円です。
造れるのはオランダのASMLだけなんですが、生産効率が高くなるASML製の最新機種が出てもTSMCは即買いしません。一番コスパの良い時期を見極めてから購入しますね。


――韓国メーカーもコスト管理には厳しい?
情ポヨ 韓国や台湾の半導体メーカーは、現場の判断で工程を削ってコストカットしてます。日本だと「事故の責任は誰が?」と、偉い人が現場の提案をなかなか認めない。こういった判断ができるのは、トップが優秀で技術を理解していることが大きいです。
――日本ももともとは世界一になるぐらい優秀だったのに。
情ポヨ 日本は優秀です。半導体って必ず不良品が出るので、歩留まりをどれだけ上げられるかが腕の見せどころ。日本は検品、改善を繰り返し、歩留まりを上げ、米国の半導体を追い抜きました。
でも、時代が進むと、新製品が出るまでの時間が短くなり、日本流のねちっこい歩留まり向上だけじゃ通じなくなっちゃった。不良品に対して寛容な台湾や韓国と、日本の差も大きいですね。
■半導体バブルはこれからが本番――アメリカも半導体復活を目指しています。
情ポヨ 頑張ってますが、人件費の問題が大きい。給料が日本の3倍だけど、そこまで給料を上げても現場で働くエンジニアが足りません。
トランプ大統領になって移民規制が厳しくなったことが影響していますね。海外から優秀なエンジニアを連れてくるのも難しくなり、とにかく人材が足りないのが現状です。

半導体を最も必要とするメーカーであるアップル。同社のようなスマホ製造企業のロードマップから今後の業界動向がわかる!?
――世界の国々が半導体製造に大金を突っ込んでますが、バブルですよね?
情ポヨ まだバブルじゃないです。半導体って企画してから完成するのが5年後ぐらいなんですよ。
メディアに出回るのは「来年のiPhoneはすごい!」程度の情報ですけど、中の人たちは5年以上先のロードマップを見ていて、AI半導体の進化が続き、どんどん増産されることを知っています。それを考慮すると、30年代からが本当の半導体バブルじゃないかと思いますね。
――そのロードマップが白紙になったりは?
情ポヨ その可能性はゼロじゃないですが(笑)、今の勢いで続くと考えるほうが自然です。現状では、需要に対してTSMCの製造能力が限界に達していて、もっと作りたいのに作れない状況なんですよ。白紙どころか、逆にロードマップよりも上振れの可能性までありますから。
■爆速開発がお家芸。中国の半導体事情は?――20世紀から半導体の王者は米国、日本、そして台湾・韓国と移り変わってきましたが、気になるのが中国の事情。現在、中国政府は半導体を海外に依存しないで済むように全力支援。その結果、中国版NVIDIA、中国版インテル、中国版TSMCなど代替企業が続々と登場中ですよね?
情ポヨ 遅くとも50年には中国が半導体の覇者になっていると、業界ではいわれてますね。
米国による半導体規制は、中国に先端半導体の設備を売らない、外資が中国に工場を造っちゃいけないという内容です。
今後、米国とその同盟国は中国製半導体を使ってはダメという規制も出てきそうなんですけど、こうした規制では中国半導体産業は潰せません。せいぜい発展を遅らせるだけ。それぐらい中国企業の開発スピードが速い。むしろ規制以前よりも速くなっているほどです。
従って、米国と同盟国は時間稼ぎをしつつ、なるべくリードを守る。そして、どの企業も2位争いに向けてシェアを拡大するために立ち回っていますね。
ただし中国側もしたたかで、規制されていない企業が設備を輸入する、外国企業を買収するといった"裏道"で必要なものはほぼほぼ入手していると聞きます。EUVリソグラフィだけは手に入らなかったけど、1世代古い露光装置を使って、なんだかんだで相当なレベルの製品を作っている。

米国による規制があったが、開発・技術力はトップクラスをキープする中国のファーウェイ。規制後は開発スピードが爆速進化中
――最新の設備以外で中国企業に必要なモノとは?
情ポヨ 結局、最後はノウハウなんです。製造装置さえあればいいわけじゃない。インテルやサムスンが、TSMCと同じ装置を買っているのに追いつけないことからもわかりますよね。
同じ製造装置を使ってもどれだけ歩留まりを上げられるかが"秘伝のタレ"的なノウハウです。これを守るためにTSMCも必死です。
――そんな中、TSMCの機密情報を取得しようとした東京エレクトロンの台湾人社員がスパイ容疑で捕まる事件もありました。
情ポヨ あの事件は見せしめの要素が強いのでは。今までも機密情報をこそっと持ち出すのはよくあったようです。業界では、「設備が壊れたから明日までに改善案ね。ただ、何がどう壊れたかは機密だから教えられない」みたいな無理ゲーは日常茶飯事なんですよ。
ただ、そこで「機密情報扱いだけど、見ていいよ」ってやるとスパイ容疑になっちゃう。今まではなあなあで許されていたことも、きっちり取り締まっていくという意思表示です。
――ラピダスのためにスパイしたという台湾メディアの報道もありましたが?
情ポヨ それは無理筋な話です。TSMCとラピダスでは技術が全然違うので盗んでも参考にならない。
ラピダスは米IBMの微細化技術をライセンス供与してもらって作ってますが、TSMCは自社技術。同じ料理といっても、フレンチと中華ぐらい違う。スパイしても参考になりません。
IBMは自社での量産をやめた後も、技術だけは研究していました。これまではサムスンにライセンスしていましたが、サムスンが自力路線に切り換えたので、ラピダスに売ったという流れです。
■日本の半導体の明日はどっちだ?――日本の半導体メーカーが"料理研究家"になって衰退していったという話をしてましたけど、IBMも同じなんですね。日本がそのレシピをもらう流れとは皮肉です。最後の質問です。日本は半導体業界でどう立ち回るべきでしょうか?
情ポヨ チャンスはあります。IBMの技術をもらっても、ぽっと出の会社が先端半導体を作れるのか?と危ぶまれていましたが、この課題はクリアできそうですから。

半導体業界の歴史、これからの展開を語ってくれた情ポヨさん。Xアカウント【@Johoshushupopo】から半導体業界の内情をつぶやく、業界歴30年のドルヲタおじさん。語尾は常にポヨ。「これまでメーカーから怒られたのは1回だけポヨ」
――おおっ(喜)。
情ポヨ でもね、昔の日本半導体メーカーの衰退を見てもわかるように勝負は買い手がいるかどうかです。TSMCやサムスンといった大手と真正面から戦っても勝てません。落ち穂拾いというか、小さなニーズを積み重ねられるかが勝負です。
一方、王者TSMCにも弱点が見えてきました。世界的企業になってから入社した若い世代が幹部になり、古参がやってきた「どんな要求にも応じます!」というご用聞き根性が失われつつあり、大企業ならではの怠慢路線になっています。
TSMCの新世代の人々は落ち穂拾い的な仕事をどこまで真面目にこなせるか疑問で、ラピダスにとってはそこがチャンスです。
ただ、最終的にラピダスの生死を決めるのは、お客になる日本企業です。例えば、日本発で日本語ベースの生成AIが世界的にヒットすれば、それに特化した半導体の需要が世界的に高まります。
そういう新興ビジネスがないと、ラピダスがどれだけ頑張っても無理ゲーなんです。日本企業が一丸とならなければ勝ち目はありません。
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そう日本半導体の未来を熱弁すると情ポヨさんは席を立った。「近場にドルヲタが集まる飲み屋があるのでここで失礼するポヨ」と、夜の街へ消えていった。
聞き手/高口康太 写真/アフロ AFP/アフロ ロイター/アフロ AP/アフロ
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