令和のタコスブームに乗り遅れるな!!
いつの間にかタコス専門店が続々オープン、行列店も! Netflixでは人気シリーズも配信中!
今、都心を中心にタコス専門店が増えているという。それはなぜなのか? そして、これまでとは違うタコスが流行しているだけではなく、日本では新しいタコスが生まれているという。それはどんなタコスなのか?
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■今は世界的なメキシコ料理ブーム!ここ数年、首都圏を中心にタコス専門店が増えている。
タコスナビゲーターでトルティーヤ研究家の吉川孝一郎氏によると「東京都でタコスを提供する店は、2019年に約170店舗だったが、25年夏の時点ではおよそ300店に増えている」という。
海外からも20年に米ロサンゼルスの名店「タコスウェイ」が、24年にはメキシコの名店「ドン・チャバ」が日本に進出している。
なぜ、こんなにタコス専門店が増えているのか。『テキーラジャーナル』発行人で「タコスグランプリ」の主催者でもある目時裕美さんに聞いた。
「今はメキシコ料理が世界的なブームなんです。まず、10年にメキシコ料理がユネスコの無形文化遺産に登録されました。
そして、17年にはディズニーがメキシコの伝統的な祝祭である『死者の日』をテーマにした映画『リメンバー・ミー』を公開します。
さらに19年にネットフリックスがタコスの歴史や魅力、人気店などを紹介する『タコスのすべて』というドキュメンタリーを配信しています。この作品は現在、シーズン3まで作られているほどの大人気シリーズです。
24年にはメキシコ市内にある屋台のタコス店『エル・カリファ・デ・レオン』が、メキシコ版の『ミシュランガイド』で初めて一つ星を獲得しました。
こうしたさまざまな話題の影響で、今、世界中でメキシコの文化に興味を持つ人が増え、メキシコ料理の注目度が上がってきているんです」
メキシコでは屋台でもタコスを売る。昨年、メキシコの屋台のひとつがメキシコ版『ミシュランガイド』で星を得た
メキシコ料理の中でもタコスが特に日本人に人気となっている理由は?
「コロナ禍で外出を控えていたときに、外食の雰囲気を家で味わいたいという人が多かったのでしょう。タコスキットの売り上げがすごく伸びたそうです。
タコスは手巻きずしのように皮(トルティーヤ)に好きな具材を好きなようにのせて食べられるので、日本人にはとてもなじみがある食べ方ですし、食べていて楽しい料理です。
またタコスは見た目が映えるので、若い人たちや芸能人が『タコスパーティをやりました』などとSNSにアップして盛り上がっていました。
すると、外出が自由になったときに『本格的なタコスが食べてみたい』という人が増え、その需要に合わせてタコス専門店も増えていったのだと思います」
スーパーなどで市販されているタコスのキットやスパイスミックス、トルティーヤ、サルサソース。自宅で簡単にタコスが作れるのも人気の一因だ
タコスというと〝パリパリに揚げたU字形の皮にひき肉や野菜をのせたもの〟が頭に浮かぶが、最近ブームのタコスは違うらしい。前出の吉川氏が解説する。
「パリパリに揚げた皮のタコスは、実はアメリカナイズされたもので『テックスメックス』と呼ばれています。
1845年にもともとメキシコ領だったテキサスがアメリカに併合されました。そして19世紀後半から20世紀初頭にかけて、メキシコの伝統料理であるタコスをアメリカ風にアレンジしたものが広がっていったと考えられています。それは皮であるトルティーヤを油でパリパリに揚げU字形にし、ひき肉やチェダーチーズ、レタスやトマトをのせたものです。
しかし、伝統的なメキシコ料理のタコスは少し違います。アメリカンタコスは皮に小麦粉を用いますが、メキシカンタコスはトウモロコシの粉を使っています。
そして、パリパリとした硬い皮ではなく軟らかい。また、その皮にのせる具はなんでも構いません。肉は牛肉、豚肉、鶏肉、チョリソーなどなんでもありですし、野菜もサボテンが入る場合もあります。そこにサルサ(ソース)などをかけるんです。今、日本で人気になっているのは、この伝統的なメキシカンタコスのほうです」
しかも、メキシカンタコスはヘルシーだという。目時氏が話す。
「メキシカンタコスの皮は、トウモロコシで作っているのでグルテンフリー(小麦に水を加えることで生まれるタンパク質のグルテンが含まれていないもの)なんです。
また、メキシカンタコスは野菜だけをのせることもできるので、ビーガンやベジタリアンの人にも人気です。最近は海外から来る旅行者も増えているので、そういった人たちが日本でタコスを食べることも多くなっています。そうしたこともタコスブームを後押ししているのだと思います」
実際に人気店である東京・渋谷のメキシコ料理店「カサデサラサ」に行ってみると、軟らかい皮に豚肉、鶏肉、エビ、サボテンなどさまざまな食材がのせられたタコスが出てきた。
店長の伊藤丈彬氏が話す。
「カサデサラサのトルティーヤは、毎日手作業で作ることで本物の味をお届けしています。また、食べやすいふた口サイズなので、いろいろな種類を楽しめるのも特徴のひとつです」
「渋谷メキシカン カサデサラサ」(東京都渋谷区道玄坂2-25-5 島田ビル2F)の店内は、メキシコ人アーティストが手がけていてとてもカラフル。メキシコにいるような気分になる
迷ったらこれ! タコス初心者には便利な「色々食べれるタコス盛り合わせ」(4種×2個)。カサデサラサのひと品
カサデサラサでオススメのタコス。「エビのフリット アボガド添え」(左)と「豚のオレンジ煮込み」(右)
さらに日本では、メキシコの伝統的なタコスが起爆剤となって、さまざまなものが生まれているという。吉川氏が話す。
「最近は皮のトルティーヤに力を入れる店が多くなりました。7年くらい前まではトウモロコシの粉を買って作っていた店が多かったんですが、ここ数年は本場さながらにトウモロコシを煮るところから始める店が多くなっています。やはり、そこから作ると本当においしいトルティーヤができるんです。
トルティーヤはタコスの土台になるものなので、トルティーヤに力を入れている店はハズレがないと思います。
また、具材に関しても地元の食材を使う店が増えました。例えば、和歌山県には名産であるあんぽ柿やウスイエンドウを使ったタコスを出す人がいます。
北海道・函館には道内の鹿肉や函館で獲れたサバなどを入れたタコスを出す店もあります。タコスの具材は本当に自由なので、日々新しいものが生まれていると思います」
目時氏も進化系タコスには注目しているという。
「日本の食材でいうとしらすやひじき、〆さばなどを使っていたり、黒毛和牛のすき焼き風などを出している店があります。また、中華料理のエビチリや豚肉の角煮などを入れることもあります。どんな食材や料理にも合うのがタコスのいいところだと思っています」
※「タコスグランプリ」とは、タコス協会などが開催するイベント「タコスの日 Celebration Party」の企画のひとつで、イベント参加者が全国から集まったタコス店のタコスを食べて投票で1位を決めるコンテスト
そんな大人気のタコスだが、もしかしたら日本の食卓に根づくかもしれないと吉川氏は言う。
「現在の日本人の主食はお米です。そこに小麦で作るパンや麺類などが加わっている状況だと思います。
しかし、お米は品薄だったり価格の高騰だったり、庶民には手に入れにくい状態が続いています。また、小麦はお米よりも安定していますが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響などで価格が上昇していました。
一方で、タコスの皮となるトルティーヤを作るトウモロコシは、お米や小麦に比べてまだ安価で安定しています。最近は温暖化などが心配されていますが、トウモロコシは高温性の作物なので暖かい場所でも育ちます。また、農林水産省は、北海道で飼料用トウモロコシの生産を推進してもいるんです。
その意味でいうと、タコスが国民の主食とまではいかなくても、もう少し日本人の食卓に上がってもいいのかなと思っていますし、このタコスブームが今後も続いて、日本人の食文化に根づいてくれるといいと思っています」
ちなみに、メキシコ料理に合うお酒といえばテキーラだが、最後にテキーラの正しい飲み方を吉川氏に教えてもらった。
「テキーラといえば悪酔いをするというイメージがある人が多いかもしれません。昔は混ぜ物が入っていたりして、確かに悪酔いすることもありましたが、最近は100%ブルーアガベ(リュウゼツラン)から造られたものをプレミアムテキーラと呼んで、それを飲む方が増えています。テキーラですので、アルコール度数は高いのですが、とても飲みやすいんです。
また、テキーラは一気飲みしなければいけないと思いがちですが、今のテキーラは本当においしいので、そんなもったいないことはしないで、私はチビチビと飲むことをオススメします」
今、日本食が世界でブームになっているが、一方でメキシコ料理の人気もじわじわと高まっている。もしかしたら、今後、日本で生まれたジャパニーズタコスの大ブームが世界的に起きるかもしれない。
そのブームに乗り遅れないためにも、まずは身近にあるタコス専門店に行って、本格的なメキシカンタコスを食べてみることをぜひオススメしたい。
取材・文/村上隆保 撮影/村上庄吾(タコス、店舗) 写真/時事通信社 PIXTA
記事提供元:週プレNEWS
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