3バックで格上に勝てない森保ジャパン......ブラジル戦の「合格ライン」はどこだ!?
アメリカ遠征では長距離移動に加え、時差も体感するなど本番を想定して動いた森保監督
9月のアメリカ遠征では1分け1敗と振るわなかった森保ジャパン。長年、日本代表を取材し続けるスポーツライターのミムラユウスケ氏が、"歴代最強"との呼び声も高かったチームが抱える深刻な問題点を明かす。
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■日本代表は世界の舞台へと〝戻ったばかり〟サッカー王国との戦いではすべてが白日の下にさらされることを忘れてはいけない。
10月14日、日本代表はブラジル代表を味の素スタジアムに迎えて親善試合を戦う。南米のチームは、日本で試合をする際に時差ボケやコンディション不良に苦しむケースが多いが、今回は違う。彼らは4日前に、日本と時差のない韓国で親善試合を行なってから来日するため、良好なコンディションが期待できる。
だからこそ、今回の試合は来年6月に控える北中米W杯の試金石となる。優勝を目標とする日本代表が本当に力のあるチームになれたのかを測る、最高の機会だ。
確かに、森保一監督が率いる日本代表は世界最速で北中米W杯の出場権を獲得した。2次予選から含めると「W杯予選の初戦から9連勝を飾った世界で初めてのチーム」となり、最終予選の最中には日本代表史上最長となる28試合連続得点も記録した。この成績だけを見れば、〝歴代最強〟と感じるかもしれない。
しかし、実情は違う。というのも、北中米W杯は史上最多の48ヵ国が出場するからだ。日本代表が「ドーハの悲劇」で出場権をあと一歩で逃した1994年のアメリカW杯では、出場国はわずか24ヵ国。当時と比較して、最終予選に参加できる国が増え、レベル自体が下がった。今回の最終予選での成績など、W杯本番を占う上でほとんど参考にならない。
先月、日本代表は北中米W杯開催国のアメリカに遠征し、メキシコ、アメリカと親善試合を行なったが、アジア以外の国と対戦するのはおよそ1年10ヵ月ぶりだった。アジア諸国としか戦えないスケジュールを組まれていた日本代表は現在、世界の強豪と対戦する舞台へと〝戻ったばかり〟なのだ。
■亀裂が走った3年4ヵ月前の完敗FIFAの算定する国別ランキングで19位につける日本代表は、10月10日に37位のパラグライと、14日に6位のブラジルと対戦する。
今のブラジルが興味深い相手なのは、捲土重来のためにカルロ・アンチェロッティと今年5月に契約したばかりだからだ。アンチェロッティ監督は世界最高レベルにある欧州チャンピオンズリーグで単独最多5回の優勝経験を誇り、イングランドをはじめとした欧州5大リーグすべてのリーグ戦を制した歴史上唯一の指揮官だ。
ブラジル代表は今回の南米大陸予選では不調にあえぎ、5位で予選突破を決めた。そんな屈辱を受け、今は本大会に向けて目の色を変えてチームの再建に取り組んでいる。
ただ、ブラジルとの対戦が大きな意味を持つのは、彼らが優勝候補の一角に挙げられる強国だからというだけではない。
2022年6月のブラジル戦では手堅い相手の牙城を崩せず、枠内シュート0本に終わった
実は、日本代表には約3年4ヵ月前の忌まわしい記憶がある。カタールW杯まで半年を切った2022年6月、今回同様に日本代表はブラジル代表をホームに招いたが、シュート総数4本、枠内シュート0本に終わった。スコアこそ0-1だったが、90分の大半を守備に費やした完敗だった。
ところが、その結果以上に問題となったのは、この試合を通して、監督やコーチに対する選手の不信感が高まったことだ。
ブラジル戦に向けた戦術ミーティングや試合後の振り返りミーティングの内容の乏しさについて、選手たちから不満が噴出。「ブラジル相手にどう戦うのかというプランがほとんど提示されなかった」「『え、これだけ?』と口にしたくなるようなフィードバックしかなかった」との声が漏れてきた。
そして、その2試合後、チュニジアに0-3と完敗を喫して、選手の不満が爆発。危機を嘆く選手たちのコメントが次々と伝えられた。中には、「カタールW杯はもう期待できないから、次のW杯で頑張りたい」という若手の声まで聞こえてきた。
最終的に危機的状況を乗り越えられたのは奇跡的な出来事があったから。当時すでにベテラン組に数えられながら、若手選手とも分け隔てなく話せた原口元気が危うい空気を察知し、この状況を森保監督に共有すべきだと副キャプテン遠藤 航(当時)に進言。それ以降、遠藤とキャプテン吉田麻也(当時)は監督の元を何度も訪れ、選手たちの声を届けつつ、監督に打開策を出すよう提案した。
このような過程を経て、最終的にチームはまとまっていったのだが、内部崩壊や監督のリコール問題に発展してもおかしくなかった。だからこそ、今回のブラジル戦でその過ちを繰り返してはならないのだが......不安は募る。
■「攻撃のアイデア不足」という問題点というのも、選手たちがすでに不満をため込んでいるからだ。
先月のアメリカ遠征では、メキシコに0-0で引き分け、アメリカに0-2で敗れた。アメリカ戦では、メキシコ戦からスタメン全員を入れ替えたが、その采配についてメディアやファンから森保監督へのバッシングが湧き上がった。
そして、アメリカ戦の試合終了直後、森保監督は過酷なスケジュールを組んだことを選手に直接謝罪。その後もメディアを通して、反省の弁を繰り返した。
ただ、本当の問題は過酷なスケジュールではない。日本代表が国内組で戦う東アジアE-1サッカー選手権を除き、先月のアメリカ遠征を含めた大半の代表戦を現地取材している筆者の見解は異なる。
アメリカ遠征では、練習時間をかなり確保できたものの、戦術練習をあまり行なわなかった状況について、一部の選手たちから〝しらけムード〟が感じられたのだ。
そして、戦術面でのつくり込みの甘さについて問題視するような意見が選手から上がった。具体的には、「効果的なカウンターを仕掛けるための練習やプランが感じられなかった」という不満だ。
W杯で優勝を目指すのであれば、格上から勝利をつかまなければならない試合はいくつかあるはずだ。森保監督自身も、ポテンシャルが日本よりも上のチーム相手に、ある程度は守備に回る時間が出てくると予想している。
もっとも、守備に回る時間が長くなっても、簡単に失点することはないという自信が選手たちにはある。そして、そう思えるようになったのは前回のW杯から成長した点だ。
しかし、そこからいかにして攻撃に転じるかのアイデアがないことが問題なのだ。
■格下を圧倒した3バックの限界そして、先月のアメリカ遠征であらわになった問題点がもうひとつある。昨年9月から始まったW杯最終予選で本格導入した3バックの限界だ。アジアのチームが守備を固めてきたとき、その守備網を崩すための布陣として森保監督の肝いりで採用された。
実際、最終予選の初めの2試合ではこれがはまり、中国に7-0、バーレーンに5-0と得点ラッシュに沸いた。しかし、それは日本の攻撃的3バック導入当初はまだ、相手が有効な策を見いだせていなかったからに過ぎない。
今年に入ってからはその威力が半減。3月、6月、9月の6試合(国際Aマッチデーではない時期に行なわれた東アジアE-1サッカー選手権を除く)を戦ったが、そのうちFIFAランキングで日本よりはるかに劣るバーレーンとインドネシア以外に対しては2分け2敗。しかも、なんと無得点だった。攻撃的フォーメーションとして導入された当初の勢いはなく、あっさりと対策されてしまった。
それどころか、昨季は所属クラブでそれぞれ10ゴールを記録した三笘 薫と堂安 律の良さがこのシステムでは消えているのだ。日本屈指の得点力を誇るふたりのサイドアタッカーが守備で体力を浪費する展開が見られるようになり、メキシコ戦ではその傾向が顕著だった。
もしも、3バックに今後もこだわるならば、得点力のあるふたりには「シャドー」と呼ばれるセンターフォワードの背後を任せるべきだ。サイドでは守備に回る時間が長すぎる。逆に、彼らのサイドでの起用を続けたいのであれば、守備の負担の少ない4バックへの変更を検討すべきだろう。
昨季、プレミアリーグで2桁得点を記録した三笘。本職ではないWBでは守備に回る時間が多い
昨季に続き、今季も五大リーグ所属の日本人で最もゴールに絡む堂安。適性はシャドーか
筆者は森保監督に忖度しない〝変わった記者〟であるため、記者会見の際に監督に質問すると、逆質問をぶつけられてかわされることも少なくない。だが、メキシコ戦を受け、サイドアタッカーの攻撃力が消えている点を問うと、監督はあっさり認めた。
「おっしゃられるとおり、三笘だけでなく、個々の良さをできる限り出させてあげられるようなシステムや戦術を考えていきたい」
果たして、今回のブラジル戦でそれができるかどうか。強豪相手にどう戦うべきか、その方向性が見えてこなければさすがに厳しい。
ブラジルと地力の差があるのは間違いないが、10回戦ったとして、最低2回、あわよくば4回勝てると思わせるような戦いを今回のテストマッチで見せなければならない。
それができないのなら、戦術面でのアドバイスを送ることができるアドバイザーやコーチの招聘を本気で考えないといけないだろう。選手の不安や不満がすでに高まっているのだから。何より、W杯までの実戦の機会は、今月の2試合を含めたとしても、7試合程度しかない。残された時間はあまりに短いのだ。
果たして、森保ジャパンはブラジル相手に希望を抱かせるような戦いを見せられるのか。そんな点に注目すると、サッカー王国との一戦をより楽しめるかもしれない。
取材・文/ミムラユウスケ 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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