再スタートの切り札は、この"やりすぎ軽"だ! ダイハツ ミライースGRスポーツをサーキット爆走取材!!
ミライースGRスポーツのレース仕様に試乗した山本氏
東京オートサロン2025で注目を集めた、ダイハツのミライースGRスポーツコンセプト。まだ市販前のこのクルマを、自動車研究家の山本シンヤ氏が10時間耐久レースで乗った! 認証不正を経て再出発したダイハツがモータースポーツの現場で汗を流す。熱き"軽"の鼓動を、現場で体感!
* * *
■ダイハツが取り組むモータースポーツ活動――今年1月の東京オートサロン2025で話題をかっさらったのが、ダイハツのミライースGRスポーツコンセプトです。上半期の週プレやりすぎカー・オブ・ザ・イヤーでも堂々の1位でした!
山本 かつてはダイハツ・ミラターボTR-XX、スズキ・アルトワークス、スバル・ヴィヴィオRX-R、三菱・ミニカダンガンなど、背の低い〝軽スポーツ〟が数多く存在していました。しかし今は、背の高い〝ハイト系〟が主流。
そんな中、営業車的なイメージの強いミライースですが、全高が低い車は走りの素性が良い。そこにターボとMTを組み合わせれば、クルマ好きが「これは面白い」と感じる一台になる。
そこでダイハツは、「(ラインナップに)ないなら造ってしまえ!」という発想の下、ミライースGRスポーツコンセプトを東京オートサロンに出展したのです。
――スペックはどんな感じ?
山本 ミライースには、コペン用の直列3気筒ターボエンジンと5速MTが移植されています。加えて、前置きインタークーラーや追加ダクトによる熱対策、ECU(電子制御ユニット)の変更、サスペンションやブレーキの強化、モータースポーツの知見を生かした空力アップデートも加えられています。
――そもそもエンジンって簡単に換装できるものなの?
山本 ダイハツのプラットフォームは、トヨタのTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)思想を取り入れており、軽自動車にも水平展開されています。そのため、コペンのターボエンジンをミライースに載せるのも比較的容易なんです。
実際、こうした〝魔改造〟を楽しむファンは多く、ダイハツ・エッセやミラココアなどにターボとMTを組み合わせて遊ぶ人も。つまり、サードパーティがビジネスになるほどの需要もあるのです。
――なぜ今、ダイハツはこうした取り組みを?
山本 ご存じのようにダイハツはトヨタの完全子会社で、軽自動車を中心にビジネスを展開しています。かつてはサファリラリーで好成績を収めるなど、モータースポーツにも熱心でしたが、その火は消えてしまった。
ただ、社内には「それではダメでしょ!」という声もあり、TGR(トヨタガズーレーシング)と同じく〝モータースポーツを起点としたモノづくり・コトづくり〟を目指す動きがスタート。
2022年には14年ぶりにモータースポーツ活動を再開し、DGR(ダイハツガズーレーシング)として本格的に活動。最初は同好会レベルでしたが、今では正式な組織に昇格しています。
――具体的な活動状況は?
山本 WRC(世界ラリー選手権)や全日本ラリー、TGRラリーチャレンジなど、ラリーを中心に参戦しています。そこで得た知見やノウハウを、量産車にフィードバックするべく日々奮闘中ですね。
――山本さんは今回、そんなミライースGRスポーツのレース仕様に試乗!
山本 週プレやりすぎカー・オブ・ザ・イヤー1位記念と言いたいところですが、実は2024年3月の全日本ラリー選手権・ラリー三河湾でデビューして以来、このクルマを僕はずっと取材し、追いかけてきた。ダイハツ関係者に会うたびに「チャンスがあればぜひ乗せてください」と取材のお願いをしていたんです。
――試乗はどこで?
山本 富士スピードウェイで開催された軽自動車の耐久レース・K4-GP。10時間の耐久レースで、私も評価ドライバーのひとりとして参加しました。
クルマはラリー参戦中のモデルをサーキット向けにセットし直した仕様。さらに、もう一台はノーマルのミライースにターボエンジン+5MTを載せ替えた車両で、2台体制でデータの蓄積と共有を行ないました。
8月14日に富士スピードウェイで開催された耐久レースK4-GPに出場したダイハツの2台
レース直前、山本氏(中央)がダイハツのスタッフらと熱のこもった打ち合わせを展開!!
マシンに乗り込んでシート位置を確認中の山本氏。レース直前の真剣な表情が印象的
――噂の〝やりすぎ軽〟に乗った率直な感想は?
山本 K4-GPはガソリン使用量が制限されているため決勝は燃費走行に徹しましたが、練習走行では「軽い、速い、楽しい」の三拍子。サラッと走って2分30秒前半だったので、ポテンシャルはかなり高い。
車両重量は700kg台前半とコペンより圧倒的に軽いですが、ターボのレスポンスが良すぎて燃費走行には不向きという課題も(笑)。
――軽自動車でサーキットと聞くと転倒のイメージも......。
山本 確かにホンダN-ONEはレースで転倒するシーンもありますが、このクルマにはそうしたそぶりはまったくありません。
ダイハツ車はリアのスタビリティが高く、フロントの反応をあえて穏やかにして、「曲がりすぎない」セッティングにしています。それでも、このクルマはリアに合わせてフロントの調整も絶妙なので、驚くほどスムーズにコーナーを曲がる。
ステアリングを握った山本氏は、「このクルマ、安定感があって速いコーナリングが可能でした」とコメント
――市販化が楽しみです。
山本 今、軽自動車でモータースポーツを楽しむ人には、古くて軽いモデルが人気です。でも、現行モデルでも勝てるポテンシャルのあるクルマが登場すれば、モータースポーツの構造改革にもつながるはず。スズキもアルトワークスを復活させようと思えばできるし、三菱もやりたい気持ちはあると聞いています。
若者が手軽に買える、そんな〝軽の身の丈スポーツモデル〟が登場すれば、クルマ好きの裾野を広げる存在になるはず。
10時間耐久レースに挑んだダイハツスタッフと山本氏(右端)。市販化が待ち遠しい一台である
――しかし、ミライースGRスポーツの市販化アナウンスがない理由は?
山本 僕は正直、「明日にでも出すべき!」と思っています。でも、現行ミライースのデビューは2017年と古いため、恐らく次世代モデルでの展開になる可能性が高い。
――残念無念(号泣)。
山本 ダイハツは認証不正の問題がありました。ユーザーからの信頼を取り戻すにはクルマで証明するしかありません。そういう意味では、ミライースGRスポーツはもちろん、コペンの次期モデルも気になる。
個人的にはムーヴやタントなどのハイト系モデルにもGRスポーツを展開してシリーズ全体で盛り上げ、〝もっといい軽の自動車づくり〟を進めるべき。トヨタの群戦略と同じように、ダイハツにもぜひ本気で取り組んでほしいですね。
撮影/山本シンヤ
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。