『キン肉マン』大好き作家・燃え殻×爪切男の先月の肉トーク!! vol.49【コミックス派はネタバレ要注意!】
『キン肉マン』大好き作家・燃え殻さんと爪切男さんが8月の連載を激論!
『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが8月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
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●久しぶりにゆでたまご嶋田先生と会ってきました爪切男(以下、爪) 燃え殻さんのラジオ(*)にゆでたまご嶋田先生がゲスト出演した2回、聴きましたよ。
*J-WAVE『BEFORE DAWN』(毎週金曜26:30~27:00)。嶋田先生ゲスト回は、8月29日と9月5日の2回。ラジコプレミアムを登録している方はまだ聴けます
燃え殻(以下、燃) 久しぶりにお会いできて、お元気そうで。J-WAVEのスタッフの人たち、みんな『キン肉マン』世代だから、すごく喜んでくれて。1週目は串田アキラさんの「キン肉マン Go Fight!」をかけて、2週目は宮野真守さんバージョンの「キン肉マン Go Fight!」を。
爪 その2曲がJ-WAVEでかかったの、初かも(笑)。その放送で嶋田先生、おっしゃってたじゃないですか。「僕か(作画担当の)中井くん、どちらかが死ぬまでやる」って。この対談で、我々はずっと「今の『キン肉マン』は数年がかりで物語を閉じる方向に進んでいる」って言ってきたじゃないですか。ゆでたまごとしてのキャリアを、きれいに終えるために。
燃 うん。でも嶋田先生、『闘将!! 拉麺男(たたかえラーメンマン)』の続きも描きたいそうで。
爪 "超人オリンピック"を、今ならもっとおもしろく描ける、という話もしていた。
燃 だから、今描いている本編の『キン肉マン』をちゃんと閉じたあとに、『闘将!! 拉麵男』や"超人オリンピック"を描きたい、ということだよね。
爪 果てしないなあ。
燃 それから、描いていく上で心がけているのが、連載の最後のページは毎回、「結果」を描いて終わる、という話もされていて。
爪 そうですよね。大技がバチーンと決まって「次週に続く」ってなる、毎回。
燃 この技は決まるのかどうか、というところで「次週へ続く」ってなるんじゃなくて、技が決まった状態で終わらせる。それはゆでたまごが発明したんだ、と。
爪 確かにそうだな、言われてみれば。
JC44巻ラスト、ネメシスVSロビンマスクの最終ページ
燃 それは昔の『キン肉マン』から一貫しているよね。技が決まって、物語の結果を見せてから「では次週」っていう。
爪 『キン肉マン』が連載されていた当時の『少年ジャンプ』の漫画とは、逆をやっていたんですね。他はみんな「さあどうなる、来週へ続く」っていうひっぱり方式で描かれていたから。
燃 でも『キン肉マン』がそうなのは、プロレスだから、というのも大きいのかもしれない。プロレスって技が決まったあと、立ち上がれるかどうか、っていうのが大事だから。
爪 ああ、なるほど。
燃 で、収録のあとの雑談で、今のキン肉マン&グレートと時間超人のタッグ戦の話題になったんだけど、「燃え殻さん、あの試合、すごくよくなってきたよねえ」っておっしゃってて(笑)。
爪 はははは。見方が読者だ。
燃 読者と作者が混在してる。
爪 そこはやっぱり、作画の中井先生とふたりでつくってるっていうことなんじゃないでしょうか。自分ひとりでは作品が完結しないから。
燃 ああ、そうか。あ、今の話で思い出したんだけど、ラジオの企画で嶋田先生のおすすめの本『複眼の映像−私と黒澤明』(文春文庫)を挙げてもらって。黒澤明と一緒に『羅生門』や『七人の侍』の脚本を書いた橋本忍が書いた本で、そこに出てくる、共同脚本(*)の話に嶋田先生はすごく共感したんだって。
*数人の脚本家が、同じシーンの脚本をそれぞれ一斉に書いて、脚本全体をまとめる人物が最もよいストーリーを選択。そのくり返しで脚本家のポテンシャルを極限まで絞り出すという黒澤明が生み出した手法
爪 嶋田先生もそうだから?
燃 そう。嶋田先生と中井先生の他に、編集者や、いろんなスタッフがいる。その全員の意見やアイデアが交わって『キン肉マン』ができていくのと近いんだってね。
爪 あと読者もね。嶋田先生がよく言う、3人目のゆでたまごは読者だ、という。
燃 超人募集を続けているっていうのは、そういうことだしね。
爪 サイコマンは編集が推すから、ファナティックとしてもう一度出すことにした、そしたら人気が出たという話もしてましたよね。
燃 その柔軟さがすごいよね。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―第501話 運命に導かれし相棒!!の巻(8月4日更新分)
第502話 鍵穴の向こう側!!の巻(8月18日更新分)
第503話 剝がせ! グレートマスク狩り!!の巻(8月25日更新分)
あらすじ
世界同時五大刻(ごたいこく)決戦、キン肉マン&グレート組(マッスル・ブラザーズⅢ)VSエクサベーター&ガストマン組(インダストリアルレボリューションズ)対決。初代グレート(プリンス・カメハメ)や2代目グレート(テリーマン)を彷彿とさせる言動を示す3代目グレート。キン肉マンのサポート役としても、献身的に支えた結果、ついにあの技をキン肉マンが繰り出す。
爪 8月の連載のほうなんですけど。物語のいろんなところで、『キン肉マンII世』とリンクするようなセリフが増えてきた。
燃 そうなんだよね。
爪 どう物語をリンクさせていくのか、ワクワクしますよね。
燃 あとさ......嶋田先生、今でも中井先生と、実際に技を掛け合いながら考える、って話もされてたじゃない? マッスル・ドッキングはどうやって考えたんだろうなあ、って、読みながら思った(笑)。
爪 ああ。最初は「キン肉バスターとキン肉ドライバーを合体させればいいんじゃない?」って思いついたんだろうけど、今回、そこにプラスアルファが加わって、マッスル・ドッキング・ケミストリーになったし。
燃 だから、前は、たとえばタワーブリッジとか、プロレスラーが実際にかけられる技だったけど、今は現実ではかけられない技を、漫画として突き詰めてるのかな、って。
爪 あ、そうなってきていますよね。ラジオでは、キン肉バスターはWWEでは「マッスルバスター」という名前で使われている、という話もされていましたけど。
燃 それも『キン肉マン』の成果だと思うけど、漫画の中でしか成立しないこと、というのも漫画の魅力じゃない? 最新の『キン肉マン』は、そういう方向に進んでいるような気がして。
アニメの第3シーズンの制作が発表されたじゃない? このシーンをアニメにする時、いったいどうやるんだろう、と思ったな。
爪 あと、燃え殻さんがYouTubeの「ウォーズマンの軌跡」のナレーションを担当した時、新しいアニメの『キン肉マン』の曲を作っているAPAZZIさんが、その「ウォーズマンの軌跡」に音楽を付けた、というので。
燃 ああ、APAZZIさん、この「週プレNEWS」で対談したね。あんなにおもしろい人に会ったのは久々だったなあ。日を改めて、一緒にメシ食いに行ったもん。
爪 この対談を読むとAPAZZIさん、相当な人ですね。『キン肉マン』という作品は、こういう人を惹きつけるのか、それとも『キン肉マン』という作品が、こういうある意味極めた人を生み出すのか。レインボーの池田さんも、子供の頃、キンケシを口の中に入れて。
燃 はははは。そうそう、口の中に入れて、どの超人か当てるっていう。
爪 キンケシを口に入れようと思わないじゃないですか。それに近い恐ろしさを感じた。
燃 すごいおもしろい人だと思ったから、「一緒にメシ行きましょうね」って言ったんだけど、社交辞令で終わることが多いじゃない?
今回はすぐ行くことになって「銀座の焼肉屋に行きましょう! 嶋田先生と来た思い出の焼肉屋なんです! ここで燃え殻さんと一緒に牛丼を食べたくて!」って。久しぶりに会った、あんな人。友達になりたいと思った。
爪 Amazonで原作の『国宝』を抑えて1位になった、『引き寄せの法則を全部やったら、効きすぎて人生バグりかけた話』っていう本があるんですけど。
燃 え、何それ?
爪 角由紀子さんていうオカルト研究家の本なんですけど。その人に近いものをAPAZZIさんに感じました。APAZZIさん、秋元康先生と仕事がしたくて、壁に写真を貼って毎日拝んでた、って話をしているじゃないですか。
燃 うん(笑)。
爪 それ、オカルトの人がやっているのと一緒かもしれないです。オカルトの人って、口に出して言ったことは、だいたい全員かなっているらしいんですよ。
燃 あ、言霊みたいなこと?
爪 うん、言わないとかなわない。それがこの本によると「引き寄せ」らしくて。オカルトの法則では、人物の写真を貼って毎日拝んでいたら、絶対に、自分の生活の中に秋元康が入り込んでくるんですって。願いを口にするだけじゃなく、実際に画像化することで未来がリアルに近づいていく。
燃 (笑)。
爪 貼って拝まないですよね、まず。
燃 うん。そこまで追求しないのが我々凡人の限界なのかも。
爪 アイドルのファンでも、ポスターを貼って「この子に会いたい」って思うのが普通のオタクだとしたら、ヤバめの人は「この子と仕事できる」と思い込むそうなんです。そうすると、けっこう、叶うらしくて。
燃 それ、APAZZIさんじゃん。秋元康の曲を作って、『キン肉マン』の曲を作って。
爪 ねえ。それって、引き寄せてるんじゃないか、という気がするんですよね。
燃 怖い、もう(笑)!
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、『明けないで夜』(マガジンハウス)など多数の著作がある。最新著は『これはいつかのあなたとわたし』(新潮社)。群像Webでは「湯布院紀行」の漫画連載もスタート。また、『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。ラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:30~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』も発売中。ドライバーWebで『横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化。最新著は、『愛がボロボロ』(中央公論社)
取材・文/兵庫慎司 撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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