「石破おろし」を静観のあの人が漁夫の利に!? 混迷極まる自民党総裁選のゆくえ
9月7日の記者会見で退陣を表明した石破茂総裁
石破茂首相が9月7日、辞任を表明。9日には、10月4日に総裁選挙が行われることが決定した。
ここまで「石破おろし」の急先鋒になっていたのは、麻生太郎最高顧問。自身が首相在任時に裏切られた石破首相への恨みは根深く、自公が大敗を喫した参院選の直後から「ポスト石破」の政局を作るべく暗躍した。
裏金問題の戦犯で、自民凋落の引き金を引いた「安倍派」残党らの動きも活発化するなかで燃え上がった「石破おろし」の火種は日増しに大きくなり、ついに業火となって政権を焼き尽くした。新総裁を選出するべく、自民は近く総裁選を実施するが、「ポスト石破」レースの行方はどうなるのか。永田町の最新情勢を探った。
■16年越しの復讐劇脅威の粘り腰を見せていた石破首相の電撃辞任表明に、「長老」は「してやったり」とほくそ笑んだのだろうか。
2009年、米国初の金融危機「リーマンショック」の対応を巡って支持率が急落し、窮地に立たされた麻生政権で巻き起こった「麻生おろし」。農林水産相として入閣していた石破首相もこの動きに加わり、閣内の〝身内〟に背後から切りつけられる形となった麻生氏は、この一件以降、石破首相への遺恨を抱え続けたとされる。
あれから16年。複数の議員が総裁選前倒しを求めて解散に追い込まれた当時と二重写しになる光景を目の前に、麻生氏は積年の恨みを晴らそうとするかのような政争を仕掛けた。
「そもそも昨夏の総裁選でも麻生氏は、石破氏が首相の座に就くのを阻止しようと動いていたが失敗した。この結果は、党重鎮としての影響力の低下を印象づける結果ともなりました。
参院選での大敗を受けた責任論にいち早く言及し、『石破おろし』の狼煙をあげた麻生氏にとっては、『今回こそは』の思いもあったのでしょう。前倒しでの総裁選を実現させれば、『石破おろし』の流れを作ったとして、復権もアピールできるという計算もあったはずです」(政治部記者)
■ポスト石破の行方は?10月4日に投票が行われることとなった総裁選には、すでに複数が名乗りを挙げているが、ポスト石破の座を誰が手にするのかについては、いまだ予断を許さない状況だ。
特に注目が集まっているのが、前回の総裁選で、決選投票で敗れた高市早苗氏の動きだ。
「先の参院選での大敗の一因と指摘される、『日本人ファースト』など過激な保守政策を掲げる参政党の主張は、長期政権を築いた安倍晋三元首相をほとんど神格化に近いほどの感覚で支持してきた、いわゆる『岩盤保守層』と親和性が高く、一部の自民支持層が支持に流れたと指摘されています。
リベラル色の強い石破首相を嫌うのもこの層で、党勢を復活させるため、この保守層を取り戻そうと主張しているのが旧安倍派の議員たち。彼らの一部は『安倍元首相の後継』を自認する高市氏を担ぐでしょう。ただ、旧安倍派の前回の総裁選に出馬して存在感を示した『コバホーク』こと小林鷹之氏も出馬を表明しており、そちらにも票が流れることが考えられます」(前出の政治部記者)
さらに党唯一の派閥を抱える麻生氏は、「前回の総裁選後の高市氏の振る舞いに不満を持っている」との情報もあり、高市氏が女性初宰相の座に駆け上がるための大きなうねりを巻き起こせるかは不透明なようだ。
一方で、抜群のメディア露出を誇る"あの人"はどうか。
「小泉進次郎氏が、菅前首相の協力を取りつけていることは確か。菅氏は前回の総裁選では1回目の投票で小泉氏を、2回目で石破氏の支持に転じて石破政権誕生に一役買いました。
麻生氏のように積極的に『石破おろし』を仕掛けるでもなく、参院選後も一貫して静観の構えでしたが、小泉氏を伴って石破首相を訪ねて翻意を促したということは、『次も進次郎を推す』と宣言したようなものです。
政治生活のほとんどを派閥と無縁で過ごし、派閥政治には否定的でしたから『裏金問題』でのダメージもほとんどなかった。健康問題があり、自分が前面に出ることはないでしょうが、自分の手足となって動く小泉氏を首相に担いで『院政』を敷くシナリオを描いているのでしょう」(永田町関係者)
また、「石破氏の電撃辞任で、小泉氏は株を上げる結果ともなった」と指摘するのは前出の政治部記者。
「石破首相が辞意を固める直前に面会したのは、菅氏と小泉氏で、結果的に農水相として閣内にいた小泉氏が石破首相に引導を渡した形になりました。そのまま石破首相が解散に踏み切ったりしたら党の亀裂はより深刻なものになっていたはずで、分裂を回避させたという意味で小泉氏の存在感はより高まったといえます」(同)
ただ、不安要素もないわけではない。
「菅氏や麻生氏といった大御所には目をかけられている小泉氏ですが、そもそも二世議員であり、政治経験も十分とは言えない小泉氏を総裁に擁立することには、若手議員を中心に反感も根強い。決選投票になった場合は、造反票が出ることも考えられます」(同)
こうしたなか、漁夫の利を得る可能性がある人物として名前が上がったのは、意外な人物だ。
「総合的に判断すると、党内外で信頼を集める林芳正氏が有力だといえるのではないでしょうか。出身派閥の旧岸田派は裏金問題でも目立たず、石破おろしも静観して敵を作らなかった。敵がいないことが最大の勝因となるかも」(同)
官房長官という立場もあり、石破おろしには関与してこなかった林芳正氏(左端)。混迷極まる総裁選で漁夫の利となるか?
前出の永田町関係者もこれに同調する。
「国民に対しても影が薄い林氏ですが、党内は言うに及ばず、野党からの信頼も絶大なものがある。官房長官に就任した時も他党の議員から『林さんなら追及もほどほどにしないと』と軽口も出たほど。衆参両院で少数与党となるなか、自民党復権に向けて林氏の調整力に期待する声も出ている」(前出の永田町関係者)
世論の支持をバックに、派閥を壊し、党の基盤をも破壊しようとしていたかのようにも映る石破首相。その後始末を担うのは、一体誰なのか。
文/安藤海南男 写真/自民党ホームページ、首相官邸ホームページ
記事提供元:週プレNEWS
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