累計7500万本売れた「豆腐バー」豆腐業界の常識を覆すヒットの理由に迫る!:読んで分かる「カンブリア宮殿」
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4年間で7500万本売れた~「豆腐バー」ヒットの理由
いまコンビニに従来とは全く違った豆腐の人気商品がある。おにぎりやパンの代わりに買う人も多いという「豆腐バー」(192円)だ。その特徴は硬さ。柔らかくてプルプルした普通の豆腐とはまったく違う、硬い豆腐なのだ。
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手軽にタンパク質がとれることから2020年に発売すると大ヒット、累計7500万本も売れた。時間節約のタイパ飯としてオフィスでも人気だ。タンパク質を手軽にとりたいスポーツを楽しむ人にも支持されている。
「豆腐バー」を開発したのは東京・西新宿のアサヒコ。創業は1972年、社員数480人。売上高は126億円(2023年度)。
「『豆腐バー』は毎日1本、お昼に必ず自分で買って食べます。お客さんと同じように自分で買って、昼に食べた時にどう感じるかなと思って食べています」と言うのは、「豆腐バー」の生みの親、アサヒコ社長・池田未央。2018年、マーケティング本部長として、アサヒコに入社。トップとなった今も、社員とデスクを並べて仕事をしている。
目の前に座っているマーケティング部の後藤千絵は「嫌ではないです(笑)。突然社長になられてここに座られたのではなくて、ずっと一緒なので」と笑う。
「社長室には行かないです。ここにいた方が会社のことが全部分かるので。報告を受けなくても、みんなの顔を見てたら『悩みがあるのかな』『順調なのかな』と分かります」(池田)
池田が入社した当時、アサヒコは目立ったヒット商品もなく売り上げも伸び悩んでいた。
「私はアサヒコに『豆腐の売り上げを伸ばしてください』と呼ばれました」(池田)
池田はアサヒコに入社するまでの約20年間、菓子業界で3つの会社を渡り歩き、ヒット商品を連発してきた。
最初のヒットは「キシリクリスタル」。キシリトールのスッキリ感とミルクの甘さが人気となり、のど飴としては異例の10年連続売り上げ1位を記録。さらに、メープルシロップを使った「メープルマニア」という洋菓子は、東京駅のおみやげ売り上げランキング(洋菓子)で5年連続1位を獲得した。まさに「ヒット商品請負人」だ。
〇「豆腐バー」ヒットの理由1~豆腐の定義を変えた
アサヒコに入社してすぐ、池田は、食の多様性などにより豆腐の市場が縮小していることを知った。そしてもう一つ、ある重要なこともわかった。
「豆腐市場は下がっているのに、タンパク質の市場は10年で3倍になっていた。『伸びているじゃん』と思って」(池田)
当時、「サラダチキン」が空前の大ヒット。健康意識の高まりから、手軽にタンパク質がとれると人気となっていた。
大豆を原料とする豆腐もタンパク質が豊富な点に着目した池田。通常の豆腐とは違う、新たなタンパク源としてアピールできる商品を開発しようと考えた。
「お豆腐は伝統食であるが故に、当たり前すぎて、みんな食べる時に『タンパク質をとっている』と考えてなかったと思う。植物性のタンパク源と定義を捉え直せたことが大きいのではないかなと思います」(池田)
〇「豆腐バー」ヒットの理由2~固定観念を捨てた
入社3カ月後、アメリカへ市場調査に向かった池田は、現地のスーパーである光景を目にする。パッケージに「Firm(硬い)」と書かれている。柔らかい豆腐が当たり前の日本とは違い、アメリカでは歯応えのある硬い豆腐が好まれていた。
また惣菜売り場には、バーベキュー味や甘いごま豆腐、メープル味のフライなど、さまざまな豆腐料理も並んでいた。
「豆腐の可能性を殺していたのは私たち自身だと思った。豆腐ってもっと自由に楽しんでいいのではないか。日本でも硬い豆腐があってもいいのでは、と」(池田)
「豆腐バー」開発秘話~立ちはだかった二つの壁
アメリカから帰国すると早速、開発担当者や工場の職人たちに声をかけた。ところが「そんなもの、作れるか」「豆腐を冒涜(ぼうとく)している」……社内の猛反対もあり、開発は池田と当時の開発担当・福光晶子の2人だけでスタートした。
「硬い豆腐を作ったことがないのと、工場に行ってもそれを作れる機械がないんです。ノウハウもまだないのですごく困った」(福光)
硬い豆腐を作ったことのない2人が試行錯誤を重ねた結果、アメリカ視察から1年後、ようやく試作品が完成した。
持ち込んだのは「セブン‐イレブン」。すると、商品化に向けて二つの課題を突きつけられた。食べ応えが実感できるように「サラダチキン」並みに硬くすること。そしてタレがこぼれないようにすることだった。
そこで工夫して、豆腐バー専用の製造ラインを開発する。通常の豆腐は上下2枚の布で挟んでプレスして成形する。一方、「豆腐バー」は通常の豆腐よりも強く圧力をかけて、水分をギリギリまで抜いていくのだ。プレス直後、通常の豆腐は厚みが約3.5cmなのに対し、「豆腐バー」は厚みを2cmまで圧縮。水分を抜くことで硬い豆腐作りに成功した。
味付けも、一般的に豆腐は煮て味付けするのだが、「豆腐バー」はタレのシャワーを数回浴びせる。そして「乾燥することで味を染み込ませます。最後に製品が液だれしないレベルまで水分を調整します」(行田工場長・齋藤直人)。
こうして課題をクリアすると、2020年11月、ついに「豆腐バー」の発売にこぎつけた。
販売はまずコンビニでスタート。池田は豆腐売り場ではなく、「サラダチキン」や「チキンバー」と同じコーナーに並べることを提案した。豆腐ではなく、タンパク質が取れる食品として認識してもらうのが狙いだった。
これが見事に的中し、発売当初は1種類だったが、今ではすき焼き風など11種類に増えた。豆腐バーのヒットでアサヒコの売り上げは上昇に転じ、2023年度には126億円に達した。
「お客様に提案の仕方を変えるだけでこんなに評価していただけるんだと。もっと付加価値があるものをお客さんにきちんと提案すれば、商品が売れる」(池田)
その手腕を買われ、池田は2023年5月、アサヒコのトップに就任した。
「豆腐バー」で世界を狙う~「ぜんぶとうふ化作戦」
フランス・パリ。10月に池田が訪れたのは「シアル・パリ」。約130の国と地域から7000社以上が出展するヨーロッパ最大級の食品見本市だ。
「豆腐バー」は海外でも売られている。4月からはシンガポール、11月から香港・台湾でも販売を開始。その勢いで、次に狙うはヨーロッパの巨大市場だ。
池田はこの日のために新商品を用意していた。
「『スモーク豆腐バー』。本当に燻製しています。ワインに合うように作りました」(池田)
ワイン好きが多いヨーロッパ向けの商品だ。
試食をしてもらうと、「チーズみたい」「おいしい」と、味の評価は上々。だが、かじりつく食べ方には抵抗があるようだ。
「日本でこんなに売れているのだから、ヨーロッパでもバーで攻め込むぞと思ったけど、“世界征服”するにはいろいろ方法を考えないといけない。この形態がバーである必要はないのかもしれないです、ヨーロッパでは」(池田)
一方、日本国内でも市場を拡大しようと進めている新事業がある。
「やよい軒」で客が食べているのはアサヒコの「大豆ミート」を使った「しょうが焼き」だ。原材料が大豆だから、脂質を抑えて植物性のタンパク質をとることができる。肉に近い食べ応えで満足感が得られると、注文する人も多い。
他にも「野菜炒め」「なす味噌」など、「やよい軒」では、3種類の大豆ミートメニューを提供している。
アサヒコが大胆に進めているのは「ぜんぶとうふ化作戦」だ。
「日常で食べるものを全部置き換えていって、『全部豆腐を食べてください』ということではなく、その中でチョイスしながら自分の食生活に合わせて選べるような形にする。それで少しでも植物性タンパク質をとれる機会を増やしていこうと思っています」(池田)
すでにスーパーなどでは大豆ミートを使った料理キットを展開中。「ライフ」セントラルスクエア押上駅前店では「焼肉」「生姜焼き」や「ガパオ」「豆腐のミートソースかけ」から、豆乳で作った「プリン」などのデザートまで、まさに「豆腐のフルコース」を展開している。
さらに一歩先を見据えた新商品も開発中だ。それが液体のようになった「飲む豆腐」。
「豆乳とは違って、ちゃんと豆腐です。豆乳とにがりを固めて豆腐になっています」(池田)
普通の豆腐よりも吸収が早く栄養素を取り込みやすいため、スポーツ時の栄養補給や、災害時の非常食など、新たな市場を開拓しようとしている。
「最終的には究極の制約下である宇宙空間でもお豆腐が食べられるように。今やっていることをどんどん進化させていった先には、月の上というところがあるのではないかなと思っています」(池田)
安売り競争からの脱却~こだわりの「クラフト豆腐」とは
現在、豆腐の平均単価は88円。お手頃価格のイメージが消費者に根付いているだけに、メーカーとしては値上げしづらい状況だ。そんな状況から抜け出そうと池田が進めているものがある。
10月下旬、池田が青森にやってきた。開発中の新しい豆腐に使う大豆を自分の目で確かめようというのだ。
地元農家に見せてもらった収穫したばかりの大豆は「おおすず」という品種。風味豊かで大粒なのが特徴だ。タンパク質が多く含まれていて豆腐に適しているという。
「『クラフト豆腐』というのを作ろうと思っています。クラフトビールのように原料にこだわって、職人たちの腕を使って、アサヒコにしかできない本当においしい豆腐を作ろうと思っています」(池田)
作り方にもこだわる。にがりの量や豆乳の濃度などを一から見直し、ワンランク上を目指すのが「クラフト豆腐」だ。
「クラフト豆腐」の狙いは、低価格に据え置かれた豆腐の現状を変えること。品質の良さをスーパーのバイヤーにアピールし、値上げを認めてもらおうというのだ。
試食をした「ライフコーポレーション」チーフバイヤーの渡辺亮太さんは、「口当たりから違いますね、全然。大豆の風味、香りもしっかり鼻から抜けるような感じがあって、すごく甘さもあって、非常においしかったです」と言う。反応は上々だ。
価格について、池田は「国産の充填(じゅうてん)豆腐と同じくらいの価格で販売したい」と説明する。コストはかかるが、食べ応えがある分、容量を減らすことによって、消費者が手に取りやすい価格を維持していくという。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
入社3カ月後に米国へ出張。豆腐が硬さごとに売られていて、調理法を変えていた。帰国してすぐに「硬めの豆腐」を、社内では「意味不明」。硬くするという発想に対しては「豆腐を冒涜(ぼうとく)する」池田さんは、豆腐は素人。だが熱意は本物。協力者が現れる。しかも次々に現れる。にがりの量や豆乳に入れるタイミング、かき混ぜ方も変え実験に明け暮れた。セブン‐イレブンが興味を示し、20年に「豆腐バー」を発売。7500万本を売った。控え室に女性スタッフが数人いた。夢を共有する仲間だ。夢は、「宇宙」だ。
<出演者略歴>
池田未央(いけだ・みお)1972年、愛知県生まれ。1995年、東京農業大学を卒業後、三星食品に入社、「キシリクリスタル」などを開発。2013年、寿スピリッツに入社、「メープルマニア」を開発。2015年、独立して商品開発のコンサルティング業。2016年、アンリ・シャルパンティエ入社。2018年、アサヒコ入社、マーケティング本部長に。2023年、代表取締役に就任。
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記事提供元:テレ東プラス
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