【徹底解剖】新型ルノー グランカングー クルール上陸。日本だけ「観音開き」を採用した理由と7座の哲学
イチオシスト
ルノーが放つ7人乗りMPV「グランカングー」がついに日本上陸。世界で唯一の「ダブルバックドア」を採用した日本専用仕様のエンジニアリングと、459万円の価格に見合う真価を徹底解説する。
日本の道路風景を支配する「ミニバン帝国」。アルファードやノア/ヴォクシーといった国産勢が築き上げた、豪華絢爛かつ至れり尽くせりの城壁に対し、フランスから一石を投じる巨人が上陸した。ルノー カングーのロングボディ版、その名も「グランカングー」、そしてその特別仕様車グランカングー クルールである。
だが、早合点してはいけない。これは単にカングーのボディをストレッチしただけの代物ではない。本日発表されたプレゼンテーションと技術資料を詳細に分析すると、そこには「日本市場への執着」とも言える、ルノーの恐るべきエンジニアリングの哲学が隠されていた。
まずはこのフランス製MPV(彼らはこれをルドスパス=遊びの空間と呼ぶ)のハードウェアと、その背景にある物語を解剖する。
世界で唯一、「日本のために」歪められた設計図
まず、最も驚くべき事実から伝えねばならない。今回導入されるグランカングーには、カングーのアイコンである「ダブルバックドア(観音開き)」が採用されている。
「それがどうした?」と思うだろうか。実は、本国フランスを含む世界中の市場において、グランカングーは「跳ね上げ式テールゲート」が標準なのだ。
全長約4.9mの巨体となれば、リアゲートも巨大になる。狭い日本の駐車場でそれを開閉するのは至難の業だ。ルノー・ジャポンの開発陣はその一点を憂慮し、本国へ執拗なリクエストを送ったという。
「日本市場専用のグランカングーを作ってくれ」と。
プレゼンテーションにおいて、ルノー・ジャポンの担当者はこう語っている。
「日本への導入に時間がかかったのは、日本専用の仕様を開発していたからです。ダブルバックドアを備えたグランカングーは、世界でも日本でしか買えません」
考えてもみてほしい。極東の一市場のために、生産ラインにおけるバックドアのヒンジ構造やロック機構を設計し直すコストを。これは単なるローカライズの域を超えている。フランスの実用主義が、日本の過密な都市環境という「現実」に論理的かつ情熱的に回答した結果なのだ。
延長された420mmの正体:オーバーハングではなく「居住区」を伸ばす
数値を見てみよう。新型グランカングーの全長は4,910mm。標準ボディの5人乗りモデルに対し、420mm延長されている。
ここで重要なのは、その延長分の内訳だ。自動車工学において、安易なロングボディ化はリアオーバーハング(後輪から後ろ)の延長で済ませることが多い。その方がシャシーの再設計が最小限で済むからだ。
しかし、ルノーはそれをよしとしなかった。延長された420mmのうち、実に390mmがホイールベースの延長に充てられているのである。リアオーバーハングの増加はわずか3cm程度に過ぎない。
これにより、グランカングーは3,100mmというリムジン並みのホイールベースを手に入れた。これが意味するものは明白だ。高速走行時の圧倒的な直進安定性と、後席乗員へのフラットな乗り心地である。
さらに、ホイールベースの延長はスライドドアの開口部にも革命をもたらした。標準モデルの650mmに対し、グランカングーは830mm。18cmもの拡大は、3列目シートへのアクセスを劇的に変える。
ルノーは「荷室を伸ばした」のではなく、「人間が過ごす空間を伸ばした」のだ。この設計思想の違いこそが、商用バンの延長ではない、乗用MPVとしての誇りである。
「23kg」の重みが語るシートの哲学
室内に目を向けると、そこには7つの独立した座席が並ぶ。特筆すべきは、2列目と3列目の計5席すべてが独立しており、スライド、折りたたみ、そして「取り外し」が可能である点だ。
昨今の国産ミニバンにおいて、シートは「格納」されるのがトレンドだ。床下に消えたり、壁に跳ね上がったりする。しかし、グランカングーのシートは取り外す必要がある。しかも、その重量は1脚あたり約23kgもあるという。
プレゼンテーションでは、この重さについてあえて言及がありました。
「17インチのスタッドレスタイヤ1本分と同等の重さがあり、非常にしっかりした作りになっています」
なぜこれほど重いのか? それはシートの剛性が、そのまま乗員の安全性と疲労軽減に直結するからだ。簡易的な補助席ではなく、大人が長距離を移動するための「椅子」としての機能を追求した結果、この質量が必要だったのだ。
「シアターポジション」と呼ばれるレイアウトにより、後方に行くほど着座位置が高くなる設計も、3列目乗員を閉塞感から救うための配慮である。
取り外し作業は確かに労力を要するだろう。だが、5つの席をすべて外した時に現れる空間は、なんと3,050L。もはや倉庫である。
「理論上のシートアレンジは1,024通り、走行可能な状態でも243通り」という数字は、ユーザーの知性への挑戦状とも受け取れる。「君ならこの空間をどう使いこなす?」と問われているようだ。
ダウンサイジングターボと「実走」の裏付け
パワートレインは、ルノー・日産・三菱アライアンスとダイムラーが共同開発した傑作、1.3L直噴ガソリンターボエンジンだ。
最高出力131ps、最大トルク240Nm。1.7トンに迫る車重に対して1.3Lで十分なのか? という疑念はもっともだ。しかし、7速EDC(デュアルクラッチ)との組み合わせは、これまでもカングーでその実力を証明してきた。
さらにルノー・ジャポンは、導入にあたり徹底的な実走テストを行っている。
「山道を含む約1,500kmのテスト走行を行い、人や荷物を満載した状態でも、十分に力強い走りが確認されています」
この言葉を裏付けるように、足元にはミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」と、悪路走破性を高める電子制御「エクステンデッドグリップ」が標準装備される。
彼らが想定しているのは、整備されたアスファルトだけではない。泥濘んだキャンプ場や、雪の降る峠道だ。ロードバイクをタイヤを外さずに積み込み、大型犬と共に未舗装路を駆け抜ける。そんな「ヘビーデューティーな週末」を支えるためのスペックなのだ。
結論:これはミニバン帝国への「レジスタンス」である
今回発表された特別仕様車「グランカングー クルール」は、サハラ砂漠の砂をイメージした「ベージュ サブル」にブラックバンパーを組み合わせ、価格は459万円と発表された。発売は2026年2月5日である。
国産ミニバンが「リビングルームの快適さ」を競う中で、ルノー グランカングーは「プロフェッショナルの道具」としての美学を提示してきた。
自動スライドドアもなければ、オットマンもない。あるのは、堅牢なボディ、考え抜かれたパッケージング、そしてフランス流の合理精神だ。
23kgのシートを外して汗をかくことすら、「儀式」として楽しめるような能動的なドライバーにとって、この車は唯一無二の相棒となるだろう。
明後日、我々は屋外のフィールドでこの巨人を実際に連れ出し、その真価を問う予定だ。太陽の下で見る「ベージュ サブル」は、果たして日本の風景にどう馴染むのか。
続報を待たれたい。
写真:上野和秀
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