「高市国会」野党が狙う急所 支持率80%超えでもほころびだらけ!? 自民と維新の連立を破談に追い込むふたつの法案とは?
イチオシスト

高い支持率で好スタートとなった高市国会
トランプ大統領との初会談を"いい感じ"にこなしたことなどが評価され、高市早苗首相は内閣支持率82%という絶好のスタートを切った。
しかし、国会での答弁にフェーズが移ると、なんだか雲行きは怪しくなってきたようで......。そんな政権の隙を野党は見逃さない。各党が国会でどう戦うのか、その戦略に迫った!
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【高市首相は「タコ」なのか?】高市新内閣のスタート後、初の本格国会論戦となった衆参代表質問――。
野党党首からの質問に対する首相の答弁は低調だった。直前の外交ウイークでトランプ米大統領や中国の習近平国家主席らを相手に見せた力強さや明快さは影を潜め、「検討する」「真摯な議論を重ねたい」といった曖昧な物言いが目立ったのだ。
全国紙の政治部デスクがこう苦笑する。
「この日の首相はどこかドンヨリとした印象でした。よく言えば無難、悪く言えば凡庸。予算委員会での論戦を前に、野党に言質(げんち)を取られたくなかったので安全運転に出たのでしょうが、高市首相らしい切れ味が消えたようでどうにも残念でした」
ジャーナリストの鈴木哲夫氏もこううなずく。
「高市首相がきっぱりと言い切ったのは、ガソリン暫定税率の年内廃止くらい。それ以外は質問に立った立憲民主党の野田佳彦代表が『答えをずらされた』と不満をこぼしたように、慎重な物言いが多かった。
そのガソリン暫定税率の廃止も、すでに与野党6党で合意した内容でしかない。率直に言って、高市首相の演説から目新しいものを見つけることはできませんでした」

立憲民主党の野田佳彦代表は、高市首相の代表質問の答弁について「きちんと答えていなかった」とバッサリ
野田代表から「トランプ大統領を今もノーベル平和賞候補として推薦するのか?」と問われたときも、高市首相はこんなふうに受け流している。
「ノーベル賞委員会が審査資料を少なくとも50年間は開示しないとしていることを踏まえ、推薦の事実、およびこれを前提としたお尋ねに、お答えすることは差し控えます」
典型的なお役所的答弁だ。高市首相のあまりの歯切れの悪さに、議場内に「ええ~っ」という声が湧き起こった。
元経産官僚の古賀茂明氏は、代表質問での高市首相の安全運転ぶりを見て、「彼女はトランプ大統領と同じく、『TACO(タコ)』と称されるような首相かもしれません」と話す。
TACOは今年5月、世界の金融界で大流行したワード。「Trump Always Chickens Out(トランプ オールウェイズ チキンズ アウト)」の頭文字を取った造語で、「トランプは強いことを主張するけど、最後はビビって取り消すよね」という意味だ。
「中国に配慮して毎年欠かさなかった靖国参拝をやめたり、積極財政策の下、赤字国債の発行も辞さずと強弁していたのに、首相になると『責任ある積極財政』と言い直し、赤字国債の話題に触れなくなったり、高市首相もトランプ大統領と同じく、最後になると批判にビビって持論を封印してしまうシーンが目立ちます。そういえば、高市首相の名字の頭文字もTですね」
【高市政権を揺さぶるふたつの法案審議】そんな高市首相の弱点を見て取ったのか、野党が今、手ぐすね引いて準備している臨時国会での"追撃砲弾"があるという。立憲関係者がこうささやく。
「自民と日本維新の会が共同提出を予定している衆院定数1割削減法案と、立憲が10月31日に出した食料品消費税ゼロ法案のふたつです。うまくいけば、この2法案の審議を通じて自民と維新の連立を破談に追い込むことができるかもしれないのです」
どういうことなのか? まずは議員定数削減法案から説明しよう。
この法案は「身を切る改革」を掲げる維新が、自民と連立する絶対条件として高市政権に突きつけたもの。もし、維新にとって最も重要なこの法案が仕上がらなかった場合、維新は自民と協力する大義を失い、連立から離脱するほかなくなる。
ただ、この法案は、成立はおろか、提案ですら生易しいものではない。自維は法案作成に当たり、比例区を中心に50議席減を想定しているとされる。
「比例区を50も削れば、公明党、国民民主党、参政党、れいわ新選組、共産党など、比例議員が多い政党は壊滅的なダメージを受けます。
その一方で、小選挙区での当選が多い自民、立憲、維新などのダメージは軽微で済む。定数削減は本来、小選挙区制を中選挙区制に変えようといった選挙制度の話とセットで論議するべきです。
しかも、定数削減は議員の身分に関わる問題でもある。こんなデリケートな問題を自民と維新だけで決めて法案提出なんて、ほかの政党が納得するはずがない。
高市首相がいざというときに味方に回ってくれると期待する、右派の参政までもほかの野党とスクラムを組み、激しく抵抗するはず。実際、参政の神谷宗幣代表は断固反対を表明しており、法案審議の大荒れは確実でしょう」(前出・鈴木氏)
また、自民にとってダメージが軽微とはいっても、前回衆院選の票数を基にシミュレーションすると、定数削減により、次期衆院選では16人から18人の比例議員が落選するというデータもある。
「このため、実は自民内部でも定数削減法案には慎重な議員が少なくないんです。へたをすると自民から造反議員が出て法案提出に至らずという事態もありえます」
それでは、食料品消費税ゼロ法案はどうか?
「この法案は野党にとって攻めどころです。というのも、食料品消費税ゼロは高市首相自身がこの5月に、『国家の品格として減税をやるべき』と力説したばかりの肝いり政策のひとつだったからです」(前出・古賀氏)
ちなみにこの食料品消費税ゼロ法案、代表質問では高市首相は「事業者のレジ改修に一定の時間がかかるなどの課題にも留意が必要」と、しれっと前言を翻して慎重姿勢へと転じている。古賀氏が続ける。
「高市首相は本心では減税をやりたいはず。でも、財務省の反対が強くて慎重姿勢になっているのでしょう。
そこに野党が予算委員会で『食料品消費税ゼロはあなたの持論のはず。財務省の抵抗に負けず、一緒にやろう』と言えば言うほど、高市首相は財務省解体を叫ぶイケイケの右派支持層などと財務省の間で板挟みになる。
それが負担になって、場合によっては減税をやりたい官邸サイドと財務省の間で内輪バトルになるかもしれない。そうなれば、政権は弱体化します。野党はそこまで計算して食料品消費税ゼロ法案で高市首相を揺さぶってくるはずです」
【野党の結束は公明党がカギを握る?】自維連立を破談に追い込む野党の動きの中で、キー政党になると目されているのが公明党だ。自民との連立を離脱した当初こそ、「選挙応援は人物本位。これからも自民候補を支援することもありうる」(斉藤鉄夫代表)と、連立復帰の含みも残していたが、ここにきて野党に徹しようという動きが見える。
「決定打となったのはふたつ。ひとつは連立解消早々に、自民側が公明候補のいるすべての小選挙区に自民候補を立てるとぶちまけてしまったこと。
もうひとつは高市首相の所信表明で、公明連立離脱の原因となった政治とカネの問題にひと言も言及されていなかったことです。
それ以降、『中道改革の軸として新たな一歩を踏み出す』というセリフが公明幹部の決まり文句になった。公明党の母体である創価学会の学会員の多くが、このセリフこそ自民との決別宣言だと受け止めています」(創価学会の機関紙『聖教新聞』関係者)
こうした公明の覚悟に、前出の鈴木氏が言う。
「野党がまとまれば自民を上回り、政権を奪取できるというのが立憲の主張。野党第1党だけに、この主張はこの臨時国会でも続くでしょう。
ただ、野党は多様で、例えば立憲と国民民主は相性が悪い。立憲と参政については政策は水と油ほど違う。その野党をまとめることができるのは、穏健中道のポジションで23年間の与党経験を持つ公明しか思い当たりません」
前出の政治部デスクもこう言う。
「以前より減ったとはいえ、公明には600万票前後の組織票がある。この票がどの野党も欲しい。公明の支援を受ければ、その候補の当選確率は飛躍的にアップしますから。
それがわかっているだけに、各党とも距離を縮めたいと、公明の言うことにはまじめに耳を傾ける。立憲の野田代表などはあからさまで、『公明はまさに中道。立憲も中道のど真ん中に行きたいので親和性がある』と、リップサービスまがいの秋波を送っているほど。
立憲が音頭を取るより、公明が音頭を取るほうが、はるかに野党がまとまる確率が高いんです。それだけにこの臨時国会で公明がどう動くか、注目されます」
8割超えの支持率を叩き出し、ロケットスタートと言える船出となった高市政権。野党の攻勢をかわし、これからも高支持をキープできれば、その先に待つのは早期解散のシナリオだろう。
しかし、自維連立崩壊のリスクは今もくすぶっており、その航路は安泰とは決して言えない。
臨時国会が終わる12月17日には、その趨勢(すうせい)が見えてくるだろう。
写真/共同通信社
記事提供元:週プレNEWS
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