驚異の加速力に一瞬気が遠くなる⁉ 「ヴァンキッシュ」は英国紳士の皮を被った異次元モンスターカーだった
スポーツカーでも高貴なオーラを漂うのがイギリス車の伝統。それは最新モデルでも変わらない。そのなかでも別格の存在がアストンマーティンだろう。なかでも長い歴史を誇るのがヴァンキッシュで、価格は5000万円オーバー! スーパースポーツモデルとしても注目なだけに、無類のクルマ好きとして知られる松任谷正隆氏がどういった評価を下すのか気になるところ。
編集部(以下、編):今日はゴルフなしです。良かったですね、松任谷さん。
松任谷(以下、松):どういう意味だよ。
編:どうもこうも、意味ないですよ。遠くは年寄りにはきついですよね。
松:年寄り扱いするんじゃないよ。
編:いやあ、それにしてもアストンマーティン、初めてじゃないですか?
松:そうだっけ?
編:少なくとも僕は乗ったことないです。
松:あ、そう。偉そうなくせに案外知らないクルマが多いんだな。
編:松任谷さん、ものの言い方に気をつけないとパワハラで訴えられますよ。
松:誰に?
編:俺に。
松:あ、そう。じゃあ乗せてあげない。
編:あ、そう。じゃあ仕事は中止。
松:ねえねえ、それってパワハラじゃないの?
編:いえ、職権です。
松:職権乱用だよね。
編:そんなことないもん。
松:あらあら。やっぱり子供だね。ぐだぐだ言ってると時間が無くなっちゃうからとっととやろうぜ。
編:子供じゃないもん……。そっちこそ子供のくせに……、ぶつぶつ。
松:で、ヴァンキッシュ様であーる。
編:これってアストンの中ではどういう位置付けなんですかね。
松:意外に複雑なんだよな。もとを正せば1967年に生まれたDBSの直系だと思われる。ただ、初期の頃は12気筒ではなく、6気筒だったけどね。
編:なるほど。
松:初代ヴァンキッシュは73年にDBSの最終ラインとしてネーミングを与えられたらしい。
編:つまり基本はDBSと同じというわけね。
松:ま、ちょっとは違うと思うけどね。
編:あれ? 松任谷さん、知らないんですか?
松:……。
編:12気筒が始まるのはいつですか?
松:アストンマーティン社としては1999年のDB7からということになるのかな。
編:そっちが直系というわけではない、と。
松:まあ、やっぱり市販モデルの最上位ということなら、DBS→ヴァンキッシュと解釈した方がいいんじゃないの? そしてその後ヴァンキッシュが消えDBSになり、DBSが消えヴァンキッシュになったりを繰り返しているのに対して、看板商品はやっぱり今だと12とか、そういう数字シリーズではないか、と。
編:なるほどね。
松:その昔、ウッドはマグレガーと言われていた時代があって、有名なのはMTターニーだったんだけど、DXターニーという上位機種が出たことがあったね。あの関係に似ているんじゃないかな。
編:話を変えましたね? うやむやにされた感じがするけど。
松:でもやっぱりMTターニーの方が俄然人気があった、というところも似ていると思うんだけどね。
編:つまりMTターニーがDB4とか5とか12とか、そういう流れってこと?
松:まあ、そんなところではないかね。
編:でも、これがアストンマーティンですか。僕が見たことのあるアストンとはずいぶんプロポーションが違う感じがしますね。
松:ノーズが伸びたよね。なんだかアメリカ車、と言っても納得しちゃうよね。
編:ダッジ、とかね。
松:この数年でアストンはガラッと変わったんだよ。ようやく古くさい感じは消えたというか、普通のスポーツカーになったというか。
編:でも、その古臭さが個性だったりするわけでしょ?
松:そうとも言える。とくにイギリス車には古き良きもの感はあるよね。これは他の国のクルマにはないものだよな。
編:それにしても、外から見ているだけでも豪華絢爛というか、派手派手しさとは違うけど、この「カーボンふんだんに使ってますよ」感とか、すごいアピールじゃないですか。
松:ディテールにこだわっている感じはするね。このテールパイプとか。
編:ファーストカーがロールスロイス、別荘に行くためのレンジローバー、そして休日用のアストンマーティン、たまにお遊び用にケイターハム、とか憧れますね。
松:買い物用にミニ、とかね。
編:イギリス車はお金持ちだから似合うってクルマじゃないですよね。
松:そうねえ。成金には無理だね。
編:インテリアも、これ、さすがにゴージャスな作りですね。
松:でもさ、作りに関して言えば、他の高級スポーツカーもこのレベルだと思うけどね。
編:でもカラーとか、選べる種類が違うんじゃないですか?
松:あ、それはそうかもね。イギリスはビスポークの国だからな。さて、走るか。初アストンがこんなやつでいいのかな。なにしろ12気筒、835馬力だぞ。慎重にやってくれよ。
編:お任せください。では助手席にどうぞ。
松:助手席は案外クルマが分かるんだよ。ステアリングを握らない分、なんというか骨格をお尻で感じられるというか……。
編:走行モードはこのままでいいですか?
松:そうだな。まずはデフォルトのノーマルから行こう。
編:エンジン音はすごみのある音だけど、室内では割合静かですね。
松:まあ高級車だからね。
編:スポーツカーじゃなくて?
松:まあ、そこらへんは微妙なところだよな。でも、長距離走ることを考えれば、このあたりが落としどころなんじゃない? 充分にエンジン音も聞こえるし。
編:では行きます。
松:まあ、低速では想像通りだな。
編:いい感じですよ。
松:でもね、やっぱりスポーツカーの一体感という意味では少しもの足りないね。逆に高級車と考えても揺すられ感はもっと押さえたいよな。
編:松任谷さん、厳しいですね。僕の方はとても高級感があっていい感じなんですけど。
松:だって、5000万円超と言われているクルマだぜ。もっと劇的なものを期待するだろ。
編:それを聞いてちょっとビビりました。おー怖っ。
松:いいよ。気にせずスピードを上げなさい。
編:ではそこから高速に乗りますね。
松:どうぞ。
〜フォーン……〜
松:おっ、踏んだね。
編:さすがですね。この湧き出るようなパワー。835馬力だから当たり前と言えば当たり前なんですけど、いろいろな感覚がミックスしてますね。
松:ほう、では言語化してみたまえ。
編:得体の知れないパワーですけど、どこか枯れた匂いのようなものも感じます。ビンテージワインの澱のようなものが混じっているのかなあ。それと非常に滑らかなんですけど、荒さのようなものも同時に持っていますね。フェラーリがナイフのような感じだとすると、こちらはバイキングが使っていたような大きな長刀みたいな感覚かなあ。
松:ビンテージワインなんて飲んだことあるの?
編:……ないです。
松:……。
スポーツモードオンで異次元世界に突入!
編:ちょっとスポーツモードにしてみてもいいですか?
松:どうぞ。
編:ほう、あまり大きくは変わりませんね。乗り心地だってそんなに硬くなった感じはしないし、しいて言えば高回転まで引っ張るようになったくらいですかね。
松:ところが、だ。今、目の前を遅いトラックが走っているだろ。あれを追い越し車線に出て一瞬で抜いてみ。
編:はい。あぁぁぁぁ!
松:絶叫ものだろ?
編:運転していて、一瞬気が遠くなりました。これ何ですか? こんなの初めてです。
松:どうやらブーストリザーブ、という仕組みらしいのだが、追い越し加速の時とかに働いてくれるらしい。
編:これはテスラにもないですね。中間加速ではこれがチャンピオンかも。
松:そうだな。品のないドライバーはやたらとこれを使いそう。
編:じゃあ僕は大丈夫だ。
松:……。
編:そこで降りて峠道に入ってもいいですか?
松:いいよ。
〜フォーン、フォーン……〜
編:これ、いい音ですよね。山にこだましますね。
松:うん、これは12気筒って音がするよな。僕の中では8気筒が管楽器だとすると、12気筒は弦楽器のイメージがあるんだよね。もちろん、そうでないものもあるんだけど、これは高周波の感じといい、僕には12気筒らしい音だね。
編:でかいクルマなのに案外小さい感じがします。
松:まあ、そりゃあそうだろう。一応スポーツカーなんだから。そうでなかったらやばいよ。
編:安定感は抜群ですね。
松:まあねえ。
編:あれ? どうかしましたか? どこか問題でも?
松:いや、問題はないよ。ただ、何もかも詰め込みすぎたな、と思わない?
編:素晴らしいじゃないですか。何でもある、ということでしょ?
松:でもさ、相反するものもあるよね。例えば洗練されたスイングで言えば、フレッド・カプルスとかを想像するだろ? でも飛ばすことで言えばブライソン・デシャンボーとかさ、このスイングが同時に存在できると思う?
編:出ましたね。松任谷理論。理論ばかりの……。
松:でも、そう思わない?
編:スイングのことは分かりますよ。確かに飛びを考えるとスイングは変わってきますよね。ドラコンなんかを見ていれば分かります。
松:でもスマートでスタイリッシュに打とうとすると?
編:まあ、そうですね。で、このクルマはその両方を手に入れたと、そういうことですか?
松:そう、とても欲張ったんだよな。
編:で、その結果?
松:これはユーザーが考えることだろうね。このクルマのバランスが好きならばいいと思うだろうし。
編:まあ、このクルマを買おうという人なら、他に何台も持っているでしょうから、それでいいんじゃないですか?
松:そうだな。でもね、最近、この手のバランスのクルマが増えてきているように感じるんだよ。高価格帯のクルマにね。
編:欲張りのクルマですね?
松:楽して飛ぶ、みたいな。
編:こんなに飛んだらやばいですよ。
松:そういうクラブ、売ってない? あったら高くても買うぜ。
編:あるわけないっしょ。
ASTON MARTIN Vanquish Coupe
◆全長全幅全高:4850×1980×1290mm ◆車両重量:1945kg ◆エンジン形式:V12DOHCターボ ◆総排気量:5.2ℓ ◆最高出力:614kW(835ps)/6500rpm ◆最大トルク:1000N・m(102.0kg-m)/2500rpm ◆ミッション:8速AT ◆WLTCモード燃費:─km/ℓ ◆定員:2人 ◆価格:5290万円
写真・文/松任谷正隆
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