世紀の怪作⁉「メガロポリス」公開! 映画で“世界”をつくる男、コッポラとは何者なのか
6月20日、映画「メガロポリス」がついに公開される。
構想40年。製作費170億円、その多くが私財を売って捻出したというのだから、ただごとではない。インディペンデント映画としては空前の規模といえる今作を監督したのは、あのフランシス・フォード・コッポラ。映画界の誰も認める世界的な巨匠だ。

フランシス・フォード・コッポラ、その名を畏敬の念を込めて語らぬ映画ファンはいないだろう。「ゴッドファーザー」「地獄の黙示録」「アウトサイダー」「ワン・フロム・ザ・ハート」……。深い感情のうねりを見せるドラマ、ときに幻惑的なまでの映像美。どれも映画史における確固とした名作(怪作?)というだけではない、作家的なこだわりに満ちた、“世界”をつくりだす映画だ。
そんな彼が長年夢みた大作、「メガロポリス」とはいったいどんな作品なのか?
一言でいえば、スクリーンの中に巨大な都市を作り出そうとした映画だといえるかもしれない。舞台は21世紀の大都市ニューローマ。富裕層と貧困層の格差が広がり、社会が分断された状況を是正するため、理想都市メガロポリスの建設を目指す天才建築家のカエサル・カティリナ(アダム・ドライヴァー)の苦闘を描く。ここでは古代ローマと現在のニューヨークが重ねられ、自らが理想とする世界を築こうとするカエサルと夢の映画を追い求めるコッポラの欲望が重ねられていると言える。
なぜコッポラはこんな作品を作り上げてしまったのか? その答えを探るうえで大きな手掛かりを与えてくれる特集が6月19日(木)発売の『キネマ旬報』7月号で組まれている。
特集は全体で3章構成だ。
まずCHAPTRE1では、新作「メガロポリス」について、監督コッポラ自身の言葉を取り上げて紹介。「芸術家の役割は、現代の生活を照らし、光を当てること、つまり、ヘッドライトとなること」など、作品づくりにおける自身の立ち位置を明かしている。そして、コッポラのこれまでの作品歴をひもとき、興行的失敗による破滅の危機に陥りながらも果敢に映画をつくりづける、情熱と矛盾が紙一重で交錯する歩みを解説。さらに、コッポラの次男で映画監督であるロマン・コッポラ(「メガロポリス」では第二班監督を務めた)へのインタビューも掲載。スタッフとして、家族として、長年ともにしてきたこそ知りうる父親の横顔と、「メガロポリス」に込めた想いについて語っている。なかでも「周囲は父を巨匠と呼びますが、本人は自分のことを常にシネマの生徒ととらえ、学び続けている学徒のつもりなのです」という言葉は印象的。ともすれば、映画のすべてを思うがままにコントロールしようとする誇大妄想的な監督と語られがちなコッポラに、素朴な映画青年のような一面があることを伝える内容となっている。
続くCHAPTRE2では、コッポラの代表作を取り上げ、テーマごとにその魅力を再発見する批評を4本掲載。映画評論家の川口敦子は、家族のドラマとしての「ゴッドファーザー」3部作を。アメリカ文化研究者の生井英考は、ヴェトナム戦争の現実を越えた記憶としての「地獄の黙示録」を。ハリウッド青春映画に詳しい文筆家の長谷川町蔵は、若手俳優たちの揺籃地としての「アウトサイダー」「ランブルフィッシュ」「コットンクラブ」を。批評家の西田博至は、破滅的な快楽としての「ワン・フロム・ザ・ハート」「コッポラの胡蝶の夢」を、それぞれに論じる。4人の個人的な体験もからめた内容で、コッポラ映画の新たな魅力を知るうえでうってつけの読みものだ。
そしてCHAPTRE3は、現代の映画界に確固たる地位を築いているコッポラ・ファミリーと、コッポラゆかりの名監督たちを紹介。世代によっては本人よりも有名かもしれない娘のソフィア・コッポラをはじめ、父親カーマイン・コッポラ、妻エレノア・コッポラ、妹タリア・シャイア、甥のニコラス・ケイジ。ゾエトロープの盟友ジョージ・ルーカスをはじめ、師匠ロジャー・コーマン、ディレクターズ・カンパニーをともに組んだウィリアム・フリードキン、ベルナルド・ベルトルッチ……などなど。さまざまな苦労を重ねながらも、多彩な人々とのつながりによって、映画界の“ゴッドファーザー”として成功を遂げたフランシス・フォードの凄みを浮かび上がらせるものになっている。
これらを読めばコッポラワールドの予習は万全。「メガロポリス」を見終えた後の余韻を味わうのにも最適だろう。
聞くところによれば、本国アメリカでは興行的に不発に終わったという「メガロポリス」。
だが、そんなことは早晩問題ではなくなるだろう。本特集でも語られているように、コッポラは自らの理想の映画を追い求め、ときに無謀な賭けに出て苦しみながらも、結果としてはそれを世界に認めさせてきた。これは壮大な再起への伏線に違いないのだ。
フランシス・フォード・コッポラ監督特集は6月19日発売の『キネマ旬報』7月号にて掲載。
「メガロポリス」原題:Megalopolis
2024 年/アメリカ/英語/138分/カラー
脚本/製作/監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:アダム・ドライヴァバー、ジャンカルロ・エスポジート、ナタリー・エマニュエル、オーブリー・プラザ、シャイア・ラブーフ、ジョン・ ヴォイト、ローレンス・フィッシュバーン、タリア・シャイア、ジェイソン・シュワルツマン、ダスティン・ホフマン
配給:ハーク、松⽵ ◎6月20日(金)より全国にて公開
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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