日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが『デビルズ・バス』をレビュー!
© 2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion
「死刑になりたいから殺人を犯した(相手は「誰でもよかった」)」という卑怯な殺人者は現代の日本でも時折世間を騒がせるが、16世紀から18世紀のヨーロッパでも「死刑に処されるために」殺人に手を染める人たちがいた。
ただその背景はまるで異なっている。というのも当時のヨーロッパではキリスト教の戒律が絶対視されていたため、少なくとも人々のマインドセットの中においては「自殺する」という選択肢が事実上なかったからだ。
キリスト教では自殺すると自動的に地獄行きなので、それは何としてでも避ける必要があった。そこで、精神的に追い詰められた人々は多くの場合、子供を手にかけることでわざと死刑になる道を選んだ。
「子供は大人ほど罪深くないので早めに死んだら天国に行けるはず」だったからで、これもキリスト教的マインドセットのなせる業だが、当時のとくに女性にはそうやってわざと死刑になる以外に息詰まる世界から脱出する方法がなく、それを「代理自殺」と呼ぶ。
本作は18世紀後半オーストリアの痛ましい「代理自殺」の記録の映画化だが、「宗教的なマインドセット」がどれだけ人間を不幸にするか、ということを描いて興味深い一作となった。
STORY:18世紀半ば、オーストリア北部。小さな村に嫁いできたアグネスは、村になじむことができず、精神的に追い詰められていく。村人たちから狂人扱いされるようになったアグネスは、自由を求めて驚くべき行動に出る......
監督・脚本:ヴェロニカ・フランツ、ゼヴリン・フィアラ
出演:アーニャ・プラシュク、ダーヴィド・シャイト、マリア・ホーフスタッターほか
上映時間:121分
全国公開中
記事提供元:週プレNEWS
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