森岡毅氏が手がけた沖縄初の大型テーマパーク「ジャングリア沖縄」、7月オープンに集まる期待と疑念。経済効果7兆円を主張も根拠は不明!?
沖縄初となる大型テーマパークの開業に、期待と疑念が入り混じっている
「山原(やんばる)」と呼ばれる沖縄本島北部で、「ジャングリア沖縄」が7月に開業を控えている。自然環境を活かしたアトラクションや飲食施設、温泉施設などを備えた沖縄初となる大型テーマパークだ。
「事業計画を主導した株式会社刀の代表を務めるのは、マーケターの森岡毅氏。経営難に陥っていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)をV字回復させた立役者として知られ、丸亀製麺の再建にも関わって名を上げました。
ジャングリアは、その森岡氏が手がけた案件ということで公式発表前から注目されていました。運営会社のジャパンエンターテイメント(JE)社 はそのあたりの事情も踏まえ、都内での会見に地元メディアの出張経費を肩代わりをする〝アゴ足つき〟で呼び込む用意周到ぶりでした。メディアを介して注目度を最大限に高めようとする戦略の一端がうかがえました」(地元メディア関係者)
運営側のこうした思惑は奏功し、「やんばる」に新設されるテーマパークは、全国ニュースとして大々的に報じられ、地元メディアが連日特集を組むほどの注目を集めた。テーマパークの名称である「ジャングリア」の認知も急速に進む結果となった。早くも「日本を代表するマーケター」の異名を持つ森岡氏の手腕が披露された格好だが、地元の期待感は大きい。
■地域振興への大きな期待。莫大な投資額に対してジャングリアの経済効果は?「やんばると呼ばれる県北部は、かねてから経済発展の遅れが指摘されてきた地域です。沖縄観光の定番スポットとなっている美ら海水族館があるとはいえ、年間来場者数は年間約300万人規模にとどまり、地域への波及効果は限定的でした。北部振興は、政府が1972年の沖縄の本土復帰以降、長い米軍統治によるインフラや制度の整備遅れを取り戻すために行ってきた沖縄振興政策でも長らく課題となってきました。そんな事情もあって、国内外からの集客が見込めるジャングリアが地域経済の底上げにつながるのではないかという期待が高まっているのです」(同)
今年1月には、関西大学の宮本勝浩名誉教授(経済学)らが、開園に伴う経済効果の検証結果を発表してジャングリアへの期待値をさらに高めた。宮本氏らは「開園後15年間の県内における経済波及効果」を約6兆8080億円と試算。さらに「粗付加価値創出は約3兆8143億円」とした。
雇用面での相乗効果にも注目が集まる。JE社は、4月に新規採用した41人が出席する入社式を行ったが、7月の開業までには正社員や契約社員、アルバイトを含め1500人の採用を見込む計画を発表している。一方、前出の宮本氏らの試算では「88万1531人」の雇用創出効果を見込んでおり、集客と同時にやんばるの雇用環境改善の牽引役になることを望む声も聞かれる。
ただし、開園前から多くの耳目を引いているテーマパークの船出に不安要素がないわけではない。そもそも運営側が示した破格の経済効果を示す数値は「根拠が薄弱」(前出のメディア関係者)との指摘も出ているのだ。
「関西大の宮本名誉教授らが示した数字は、運営のJE社側から提供された資料に基づいて試算したとの触れ込みなのですが、そもそもその資料がメディアに開示されていないのです。
試算に当たった宮本氏らは開示しない理由を『提供元との取り決め』としていますが、そもそも一方的に公表された数字が信用できるものなのかが判断できない。JE社側は、開業に向けた投資額を約700億円と発表していますが、専門家からは『投資額に対する経済効果の見込額が過大だ』との指摘もあるのです」(同)
■地元生活者にはしわ寄せも
隣接する名護市では、賃貸物件の需給逼迫や家賃高騰も報告されている
さらに、今春には、〝ジャングリア効果〟の余波が思わぬ方面に波及していることも明るみに出た。
「ジャングリアが立地する今帰仁村に隣接する名護市には、名桜大学という公立大学があります。北部地域から離れた那覇市や浦添市といった中南部出身の学生や県外から進学してくる学生の多くは、大学周辺のアパートやマンションで1人暮らしをするのが常ですが、今年は、そうした新入生の30人以上が入学までに入居先を見つけられない事態が起きていたのです。
一因として挙げられているのが、ジャングリア開業に伴う賃貸物件の需要増加。家賃相場が軒並み上昇したことによる引っ越し控えも増え、空き室の確保ができない状況になっているのです」(前出のメディア関係者)
渋滞が深刻化することへの懸念もある。テーマパークへのアクセス道路となっている県道は片側一車線で、県内屈指の人気スポットである美ら海水族館のルートとも重なる。さらにこの県道は、地域内での救急搬送の主要ルートにもなっており、地元紙の報道では、開業後に見込まれる渋滞による救急搬送の遅れも指摘されているのだ。JE社側は混雑具合に合わせて開園、閉園時間を調整する「営業時間変動制」の検討も打ち出しているが、抜本的な対策につながるかは不透明な状況だ。
ジャングリア周辺には、世界遺産に指定されている今帰仁城や美ら海水族館など観光スポットも点在しており、地元民からは渋滞のさらなる激化も危惧されている
そもそもジャングリアは、一時、政府の肝いり事業として進んでいた「USJの沖縄誘致計画」が潰(つい)えた後に急浮上した計画だったのだが、沖縄県内ではその政治的背景への不信感もくすぶったままだ。
「USJの沖縄誘致計画は、当時の官房長官で基地負担軽減大臣を兼務していた菅義偉元首相が2014年の県知事選でぶち上げて注目を集めました。この時の県知事選では、仲井真弘多氏が3期目を目指して出馬。米軍普天間飛行場の辺野古移設の反対を掲げて出馬した翁長雄志氏と事実上の一騎打ちとなった選挙戦で目玉公約のひとつとした経緯があります。
選挙戦は仲井真氏が翁長氏に敗北を喫しましたが、菅氏はその後も自らの懐刀だった和泉洋人首相補佐官を現地視察に派遣する力の入れようで、国家戦略特区などの検討も官邸主導で進みました」(県政関係者)
■背景に漂う政治色結局、このUSJ誘致計画は2015年に運営会社の親会社が変わったことで立ち消えになったが、この時も一連の計画を主導していたのは、刀の森岡氏だった。森岡氏は10年前に一度は潰えたテーマパーク計画を「ジャングリア」として再構築して開業にこぎ着けた格好だ。
「森岡氏は、一度は立ち消えになった計画を10年越しで実現させた。その手腕は賞賛に値しますが、一方で今回のジャングリア開業にも政治色が見え隠れすることを指摘する声もあります。
2021年には国家戦略特区の事業に認定されており、官民ファンドによる出資の支援も受けている。そもそもUSJ計画でバックアップを受けた菅元首相が北部振興策の一環として進めた名護東道路の開発事業は、テーマパークの開業を見越してのものでもあった。今年1月に行われた開業に向けた会見に石破茂首相が参加していたことも、政府との距離の近さを感じさせるものでした。
経済的恩恵をちらつかせながら、普天間飛行場の辺野古移設をはじめとして安全保障政策では強権的な政策を貫くといった『アメとムチ』を使い分ける政府の姿勢への反発は県内で根強い。政治色が濃かったUSJ計画を源流とするジャングリアに対して、反感を持つ人は少なくありません」(前出のメディア関係者)
県民からの多くの期待と、一部の懐疑の声を受けながら今夏の船出を迎えるジャングリア沖縄。「稀代のマーケター」の挑戦は吉と出るか凶と出るか?
文/安藤海南男 写真/株式会社ジャパンエンターテイメント、photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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