"山口組分裂抗争"に終止符!? 「ヤクザLINE」で拡散の情報が呼ぶさまざまな憶測
今年1月には神戸山口組の井上組長の自宅に六代目山口組の元暴力団組員が侵入。放火する事件が起している
世界では、アメリカを仲介役とするロシアとウクライナの停戦協議が続けられているが、日本国内でも長きに渡った争いの終焉が間近だという見方が広がっている。
「いよいよ抗争も終わりが見えてきたかもしれんな」
関西に拠点を構えるある組織の幹部はそうつぶやいた。3月下旬、全国の暴力団関係者、警察関係者、さらには裏社会の動向を注視するマスコミ関係者の間で出回った、ある「連判状」についての情報に触れた時のことである。
暴力団関係者らのあいだで、組員の処分などの組織人事、暴力団関係者が関わった事件などの情報を共有するために使われている「ヤクザLINE」なるLINE上のコミュニティが存在する。そこで拡散されたのは、10年以上にわたって続く分裂抗争の趨勢を左右する衝撃的な情報だった。
■抗争終結に向け調停か?「出回ったのは関東の有力団体、稲川会の幹部が山口県に本拠を置く指定暴力団『合田一家』を訪ねたという話です。それだけではなく、訪問予定の組織のリストとして、岡山県内に事務所を構える『浅野組』、福岡市の『福博会』、新体制になったばかりの『旭琉會』も列挙されていました。
さらに、広島の『共政会』『?道会』、香川の『親和会』も"順次回る"とも記されていました。そして何より驚きだったのが、その目的として『連判状を作成して山口組に承認を取って井上、池田に行く』と言うのです。
ここで言う『井上』とは神戸山口組の井上邦雄組長を、『池田』とは池田組の池田孝志組長を指しているとみられます。この二つの組は、日本最大の暴力団、六代目山口組と敵対関係にあることで知られている組織です。つまり、抗争を終わらせるための調停の動きがあることが一斉に伝えられたというわけです」(暴力団情勢に詳しい捜査関係者)
「ヤクザLINE」で出回った情報には「堅気になる者の命の補償はする」との文言もあったことから、一部の暴力関係者は、六代目側から神戸側に突きつけられた「最後通牒」ではないか、との受け止めもあった。前出の幹部もそう読み取った一人である。
「具体的な稲川会の幹部の名前が挙げられていたし、その後も九州4組織の親睦団体である『四社会』の加盟団体には、地域の有力団体『道仁会』側からこの話が伝えられるとの〝続報〟もあった。稲川会といえば、内堀和也会長は六代目(山口組)の中核団体である『弘道会』の竹内照明会長とは兄弟分で、六代目の高山清司若頭とも関係が深い。抗争の仲裁役という大役を受けて抗争の収束に向けて動いた可能性は十分にある」(前出の幹部)
■神戸側の劣勢は決定的日本最大の指定暴力団、山口組の分裂抗争が勃発してから今年で10年の節目を迎える。2015年から続く抗争は六代目組長の司忍氏、同若頭の高山氏の出身母体で、名古屋を本拠とする弘道会を中核とする体制に不満を抱いた組織の大量離脱に端を発する。五代目体制下の主流派だった山健組を率いていた井上邦雄組長を中心として神戸山口組が結成され、当初は「弘道会vs山健組」の様相を呈していた。
しかし、2017年には、井上組長の腹心として抗争の前線に立ち、山健組で副組長の座にあった織田絆誠氏が組織を離脱。神戸側は、織田氏が結成した任侠団体山口組(後の絆會)と六代目側との二正面作戦を強いられることとなった。さらに2020年には、井上組長から五代目山健組を継承した中田浩司組長の指示で、多くの組員が六代目側に復帰。中田組長は、抗争事件の実行犯として逮捕されていたが、裁判で無罪判決を受けて出所した後には六代目側の執行部入りを果たしている。
昨年末、恒例の餅つきに参加した六代目山口組の司忍組長(写真中央)とそれに続くナンバー2の高山清司若頭
「神戸側にも山健組の残党が一部残ってはいますが、劣勢に立たされていることは明らかです。1月には井上組長の自宅が六代目側の元暴力団組員に放火される事件も起きています。
六代目側は、神戸側と袂(たもと)を分かった池田組に対しても攻勢を強めており、2022年には組長が、六代目側が差し向けたヒットマンの襲撃を受けている。六代目側が二組織の弱体化を見越して抗争終結に持ち込もうとしてもおかしくない」(前出の捜査関係者)
■背景には双方の疲弊も一方、六代目側が長年にわたる抗争終結を急がなければいけない理由は他にもあるのだという。それは、警察当局の取り締まり強化による組織の疲弊だ。
「2020年1月には神戸山口組と六代目山口組が、さらに22年12月には六代目(山口組)と池田組がそれぞれ『特定抗争指定暴力団』に指定された。この影響が強烈だった。
公安委員会が定める警戒区域では組員の事務所への立ち入りができなくなり、活動が極度に制限されるようになった。警戒区域以外でも事務所として使っているとみなされれば摘発の対象になるようになった。知り合いの組長なんて、警察ににらまれたおかげで、個人名義で所有していた不動産を任意売却せざるを得なくなっていた。
組の集まりもできなくなったし、事務所当番に入った時の手当てを当てにしていた若い組員も食えなくなって、どんどん辞めていく。抗争が終わって指定が外されないと俺たちヤクザはどんどん厳しい立場になっていく」(前出の暴力団幹部)
ただ、事態がさらに急転したのが、この情報が伝えられてからさらに1週間が経過した頃のことだ。組織同士の調停が不調に終わり、「抗争終結」に結びつくと目された「連判状」が「破談」になったとの〝続報〟が関係者の間で再び出回ったのだ。
事態は一層混迷の度を増している模様だが、そもそもこうした情報が出回る背景には、追い詰められていくヤクザたちの苦境がある。「連判状」を巡る最初の情報には、「社会情勢とヤクザ情勢が悪くなっている」との文言も付されていたのが、何よりの証左ではないだろうか。
文/安藤海南男 写真/時事通信社、関係者提供
記事提供元:週プレNEWS
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