「ベイビーわるきゅーれ」の阪元裕吾監督が、 アクションを”ほぼ”封印して初の原作もの、「ネムルバカ」に挑戦
脱力系女子二人のキレッキレアクション映画「ベイビーわるきゅーれ」シリーズで、一躍その名を知らしめた阪元裕吾監督の最新作、久保史緒里(乃木坂46)と平祐奈がダブル主演する「ネムルバカ」が3月20日(木・祝)から公開される。
「ベイビーわるきゅーれ」を彷彿させる、二人暮らしの女子
大学の女子寮に二人で暮らす後輩の入巣柚実(いりす・ゆみ)と先輩の鯨井(くじらい)ルカ。
柚実は料理が得意で倹約家、冷静なのにちょっと天然。古本屋でバイトをしているが、これといってうちこめることがないのが悩みのタネだ。
先輩のルカはインディーズのロックバンド「ピートモス」のギター・ヴォーカル。音楽に情熱を燃やすが、才能の壁にぶちあたっている。バイトは長続きせず常に金欠状態。が、ライブでファンを魅了し、プロへの夢を抱きつづける先輩ルカを、柚実は憧れ、リスペクトしている。
二人は安い居酒屋で飲んだくれたり、ビデオを見たり、それなりに楽しい毎日を送っている。そんなある日、大手のレコード会社からルカに一本の電話が。二人のモラトリアムな生活に変化が訪れる。
乃木坂46の久保史緒里と平祐奈が初共演
後輩の柚実を演じる久保史緒理は乃木坂46のメンバー。アイドルであることはもちろん、ラジオパーソナリティを務めるなど多彩に活躍している。2023年放送のNHK大河ドラマ『どうする家康』で織田信長の娘・五徳役に抜擢。現役の坂道メンバーで初の大河ドラマ出演を果たし、その演技が好評を博した。一昨年スマッシュヒットしたタイムループ映画「リバー、流れないでよ」(23)でも物語の鍵を握る重要な役を担ったほか、今年2月にはダブル主演映画「誰よりもつよく抱きしめて」が公開されたばかり。
「ネムルバカ」では、きっぱりとした物言いが清々しい一方、無防備な寝顔やぐでんぐでんに酔っ払う姿など、硬軟双方の姿を見せてくれるのが楽しい。
先輩のルカを演じる平祐奈は、是枝裕和監督の映画「奇跡」(11)で俳優デビューし、映画「未成年だけどコドモじゃない」(17)「10万分の1」(20)などで主演を務める実力派。22年公開の「恋は光」で浮世離れした女子大生を演じ、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞した。昨年はミュージカル『奇跡の人』で初舞台を踏みヘレン・ケラー役に挑戦。映画では「からかい上手の高木さん」(24)、現在放送中のNHK連続テレビ小説『おむすび』にも出演するなど活躍の場を広げている。今作では、ギター演奏にも挑戦し、ハイトーンヴォイスで熱唱するライブシーンは圧巻である。
「こんな映画が見たい」と思って描かれた原作漫画
原作は、『天国大魔境』などで人気を誇る石黒正数がまだ20代だった、2008年に発表した同名漫画。学生時代、心に渦巻く悶々とした思いを、「こういう邦画が見たい」との思いで漫画に認(したた)めたという。石黒は「ベイビーわるきゅーれ」を見てこう思ったそうだ。
「『ネムルバカ』をこういうふうにしたかったんだよ」と。
これまですべてオリジナル脚本で撮り続けてきた阪元監督にとって「ネムルバカ」は初めての原作もの。自身が映画化することには相当悩んだすえ、「他の作家にやられるくらいなら自分が!」との思いで引き受けたのだという。
監督“らしさ”で原作にリスペクト
久保史緒里扮する柚実は黒髪の長いストレート、平祐奈のルカは金髪。同じ部屋に住む二人の女子がじゃれあう様子や、食べることが好き、意味のありそうでなさそうな日常会話を繰り広げる趣向は、「ベイビーわるきゅーれ」のちさととまひろを彷彿させる。とはいえそれは、元のキャラクターを踏襲している。ゆえに石黒は「ベイビーわるきゅーれ」に強いシンパシーを感じたのかもしれない。
しかーし! 今回、阪元監督は、”ほぼ”、アクション、ヴァイオレンスを封印した。
厳密にいえば、まったくないわけではない。失礼がすぎる言葉の暴力を無遠慮かつ悪びれることなく発した輩に、女子がゲンコツをお見舞いしたる! その程度はある。
柚実のちょっと乱暴(でも結構痛そう)な一面は、阪元監督の原作へのリスペクトと自身のファンへのサービスショットと見た。
阪元裕吾の真骨頂は、“日常を丁寧に描く”ことだ!
では、だからといって「ネムルバカ」が阪元作品らしくないかといえば、そんなことはない。
「ベイビーわるきゅーれ」は、ちさととまひろのキャラクターが魅力的であり、二人のゆるくてコミカルなやりとりが丁寧に描かれていたからこそ、超絶なアクションのはじけっぷりに熱狂させられた。
でも、「ネムルバカ」の柚実とルカはふつうの大学生だ。
殺し屋なんて見たことがないわたしたち観客の、リアルな日常と地続きの世界に生きている。平和ではあるけど悩みや葛藤を抱えながら、友人、仲間を思いやる。そして何より、自分が自分らしく生きなきゃ意味がないんだよ!という普遍的な物語をーー叫ぶように言うのはダサいから淡々とーー緻密に、やはり丁寧に紡いでいく。
「ワルキューレ(戦乙女)」とは対極のタイトルの「ネムルバカ」。
血しぶきや肉塊が豪快に飛び散ることはない。代わりにカメラは、ライブで無心に歌うルカの輝く汗、その姿を見つめる柚実の頬を伝う涙を美しくとらえる。
文=川村夕祈子 制作=キネマ旬報社
「ネムルバカ」
3月20日(木・祝)より 新宿ピカデリーほか 全国にて公開
2025年/日本/106分
監督:阪元裕吾
原作:石黒正数
脚本:皐月彩、阪元裕吾
出演:久保史緒里、平祐奈
綱啓永、樋口幸平 / 兎(ロングコートダディ)
儀間陽柄(the dadadadys)、高尾悠希、長谷川大
志田こはく、伊能昌幸、山下徳久 / 水澤紳吾
吉沢悠
配給:ポニーキャニオン
©石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
公式HP:https://nemurubaka-movie.com/
記事提供元:キネマ旬報WEB
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