作家・吉田修一×監督・大森立嗣の渾身の再タッグに役者たちが応えた「湖の女たち」
「さよなら渓谷」の吉田修一(原作)×大森立嗣(監督)の10年ぶりの再タッグで、介護施設での不審死事件をきっかけに、それぞれの罪や欲望が浮かび上がるさまを描いたヒューマンミステリー「湖の女たち」。そのBlu-ray&DVDが11月8日(金)に発売された(レンタルDVD同時リリース)。
湖畔の介護施設での事件を発端に明かされるグロテスクな歴史の暗部とインモラルな性愛
琵琶湖近くにある介護療養施設『もみじ園』で、100歳の寝たきり老人が不審な死を遂げた。殺人事件であるとにらんだ西湖署の若手刑事・濱中圭介(福士蒼汰)とベテランの伊佐美(浅野忠信)は、容疑者とみなした当直の職員・松本(財前直見)への強引な追及を繰り返す。その陰で圭介は、取調室で出会った介護士の豊田佳代(松本まりか)に歪んだ支配欲を抱き、圭介に執拗に脅され続ける佳代も、極限の恐怖の中で内なる倒錯的な欲望に目覚めていく。
一方、東京からやってきた週刊誌記者・池田(福地桃子)は、17年前にこの地域で発生し、西湖署が隠蔽してきた薬害事件を取材するうち、もみじ園で死亡した老人と旧満州で行われていた残虐な人体実験との関連性を突き止める。思いもよらない方へと舵を切る殺人事件の真相と、自らを破滅へと追いやるかのように密会を重ねる圭介と佳代の行く末は――。
湖畔の介護療養施設での不審死事件を発端に、闇に葬り去られようとしていたグロテスクな歴史の暗部と、綿々と連なる優性思想に基づいた“生産性至上主義”がもたらす、現代の非道な犯罪。さらには、社会通念を逸脱した男女のインモラルな性愛を、重層的な構造と壮大なるスケールで描き、「この世界は美しいのだろうか」という深遠な問いを観る者に投げかける本作。今年5月に劇場公開されるや文字通りの「賛否両論」の嵐を巻き起こした衝撃作だ。
「パレード」「悪人」「横道世之介」「怒り」など、これまで数多くの小説が映画化されてきた作家・吉田修一と、「日日是好日」「MOTHER マザー」「星の子」など、多様なジャンルの作品に挑み続ける映画監督・大森立嗣監督による2度目のタッグは、モスクワ国際映画祭審査員特別賞ほか、国内外で多くの賞に輝いた「さよなら渓谷」以来、10年ぶりとなる。
今回は、コロナ禍に発表された吉田の小説に感銘を受けた大森監督が、新潮社の「波」に書評を寄せたことに端を発し、吉田の方から大森監督に映画化への提案がなされたという。大森監督はその提案を「吉田修一からの挑戦状である」と受け止め、人間が背負う罪の重さと、何があろうと決して揺らぐことのない世界の美しさを描くことに、果敢にも挑戦したのだ。
そんな類まれなる野心作である本作においてダブル主演を務めたのは、福士蒼汰と松本まりか。二人が演じる圭介と佳代は、刑事と容疑者という立場でありながらも、道徳的な通念を踏み外していくキャラクターであり、身も心も剥き出しでさらけ出す覚悟を要求される難役だ。福士は「頭の中身を一度全部取り換えられたくらいの衝撃を受けた」と語り、松本も「もはや頭で理解することを諦めていた」と壮絶な撮影を振り返るほど、渾身の演技で体現した。
また、薬害事件のトラウマを引きずる圭介の先輩刑事、伊佐美に扮した浅野忠信が、大森監督をして「度肝を抜かれた」とまで言わしめるほどのただならぬ凄みに満ちた存在感を発揮。さらに、記者らしからぬイノセントさをまとう福地桃子や、言われなき罪を問われようとも信念を貫こうとする財前直見。虚ろな眼差しの老婆と化した三田佳子らが、幾多の謎や罪に触れる“湖の女たち” を演じ、この上なく濃密でスリリングなアンサンブルを披露している。
およそ2時間に及ぶ特典映像にはメイキングやイベント映像集、鼎談インタビューも収録
特典として、2023年秋に琵琶湖の北部で行われたおよそ1カ月に及ぶ撮影のクランクインの様子から、気温7℃、水温16℃の中、手錠をした状態でボートから真っ暗な湖に飛び込む過酷な撮影の舞台裏。そして、それぞれのオールアップの際のコメントが収められた30分のメイキングのほか、Blu-rayにはイベント集(完成報告会・完成披露試写舞台挨拶・公開記念舞台挨拶)に加え、福士蒼汰×松本まりか×大森監督による鼎談インタビューも収録。
いずれの映像も本編の理解に役立つ非常に興味深い内容ではあるが、なかでも鑑賞直後の観客に向けて実施された公開記念舞台挨拶には、原作者・吉田修一から届いた手紙がMCによって読み上げられるシーンもあり、登壇者たちの緊張が手に取るように伝わってくる。感極まった様子の松本が「私は罪深いことをしてしまった」と涙ながらに語る場面には、生身の肉体をカメラに晒す役者の知られざる心の内が垣間見え、こちらまでグッときてしまった。
メイキング内には、取り調べ室で福士扮する圭介が、松本演じる佳代を見上げる場面の目線の動かし方を大森監督が丁寧に演出する姿も収められ、実在感を伴う役者の芝居が特徴的な大森組の秘密の一端に触れることができる。インタビューによれば、浅野が本作で体現している伊佐美像は大森監督がもともとイメージしていたものとは違ったそうだが、途中から浅野が自ら作ってきた伊佐美に乗っかることにしたのだという。その結果、思いもよらない独特なニュアンスの「世界は美しいんかなー」が生まれ、「『やられたなー』と思ったね」と監督が語る姿も印象的だった。そのほか、福士と松本と大森監督が「一番罪深いと思う登場人物」の名を明かす鼎談も見逃せない。その日の気分や体調によって世界の見え方が変わるように、映画や小説の感じ方も様々な要因によって左右される。好きなタイミングで何度も鑑賞できるBlu-rayやDVDで、本当に「世界は美しいのか」確かめて欲しい。
文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社
『湖の女たち』
●11月8日(金)Blu-ray&DVD 発売(レンタルDVD同時リリース)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray 価格:6,050円(税込)
【ディスク】<1枚組>
★映像特典★
・メイキング
・イベント集(完成報告会・完成披露試写舞台挨拶・公開記念舞台挨拶)
・対談(福士蒼汰×松本まりか×大森立嗣監督)
・予告集
●DVD 価格:4,620円(税込)
【ディスク】<1枚組>
★映像特典★
・メイキング
・予告集
●2024年/日本/本編141分
●原作:吉田修一『湖の女たち』(新潮文庫刊)
●監督・脚本:大森立嗣
●出演:福士蒼汰、松本まりか
福地桃子、近藤芳正、平田満、根岸季衣、菅原大吉
土屋希乃、北香那、大後寿々花、川面千晶、呉城久美、穂志もえか、奥野瑛太
吉岡睦雄、信太昌之、鈴木晋介、長尾卓磨、伊藤佳範、岡本智礼、泉拓磨、荒巻全紀
財前直見/三田佳子
浅野忠信
●発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©2024 映画「湖の女たち」製作委員会
記事提供元:キネマ旬報WEB
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