"メルセデス帝国"が完全復活!? サッシャ×中野信治×浅木泰昭【F1日本GP直前プレビュー!!(前編)】
イチオシスト

今年からFODでF1中継を担当する中野氏(左)とサッシャ氏(右)。中央の浅木氏を含めた3人の話題の中心はホンダの動向。「日本GPで明るい光を見せてほしい」と口をそろえる
2026年シーズンのF1世界選手権がついにスタートした! 今年はマシンの大きなレギュレーション変更に加え、アウディやGM(ゼネラルモーターズ)が新規参戦し、レッドブルと提携するフォード、そしてホンダも5年振りにワークスとして参戦するなど見どころが多い。
開幕から2戦連続でメルセデスがワンツーを決め、ライバルを圧倒しているが、今週末に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催される日本GP(決勝3月27日~29日)は果たしてどんな展開になるのか? 苦闘するアストンマーティン・ホンダの復調はあるのか?
フジテレビの動画配信サービスFODでF1実況を担当するサッシャ氏、元F1ドライバーの中野信治(なかの・しんじ)氏、元ホンダ技術者の浅木泰昭(あさき・やすあき)氏の3人に今シーズンの見どころと、日本GPの展望を2回にわたって語ってもらった!
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【新レギュレーションのF1は面白い! 】――今年は大きなレギュレーション変更があり、マシンだけでなく、戦い方も変化しています。開幕からの2戦を見て、率直な感想は?
サッシャ ドライバーにしてみると、エネルギーマネージメントばかりが重視され、新レギュレーションによって(ドライバーが)操作されているとか、人工的なレースだと感じるところがあるのかもしれません。でも、見ている側としてはすごく面白かった。
結局、レースに何を求めるか、ということだと思うんですよ。追い抜きが多くてエンターテイメント性があるレースを見たいのか、コツコツと技術を積み上げたものでストイックに順位を争うレースを求めるのか。
両方とも間違っていませんが、このSNS全盛の時代はドラマチックでわかりやすいほうがファンに支持されると思います。ハプニング的なことを含めていろんなことが起こり、追い抜きも増え、スリリングな展開になっています。時代の空気感にも合っていて面白かっというのが僕の感想です。

今シーズンの大きな見どころになっているのがスタート。フェラーリが毎戦、圧倒的な強さを発揮しているが、ミスをすると最後尾まで順位を大きく下げるというケースも見られる
中野 見ている側の意見としては僕もサッシャさんと同じですが、やっている側は全然違うと思います。エンジニアやメカニック、ドライバーそれぞれの立場で賛否両論、いろんな意見があるのは当然だと思います。
ただ2戦が終わった今の段階で、すべてを判断するのは時期尚早ですし、これだけ劇的にレギュレーションが変わって、いきなり正しい答えが見つかるわけがないんです。エンターテインメントとしての面白さを残しつつ、チームやドライバーたちの満足感もあるレースというレベルに一気に持っていくのは不可能だと思います。
危険なところは真っ先に解決していかなければならないですが、それ以外の部分で新たな問題があれば調整していけばいい。そうやって進化してきたのがF1だと思います。その変化の第一段階としては、少なくとも外から見ている側としては、決してネガティブなものではないと感じました。
サッシャ スマホでたとえると、OSが変わって新しいデザインになったけど、まだバグがある......そういうところじゃないですか。今後、アップデートしていくうちに、どこかいいところに落ち着いてくると思います。ただ最初の印象としては「このニューデザインのスマホはカッコいいじゃん」っていう感じです。

「まだ改善すべき点はありますが、開幕2戦を見る限り新レギュレーションのF1は面白い!」と語るサッシャ氏
浅木 パワーユニット(PU)という観点で言うと、私はレースを楽しんで見るだけの心の余裕がなかったです。
ホンダが新たに組んだアストンマーティンがメルセデスやフェラーリに負けることは想定していましたが、まさか開幕前のテストさえ満足にできず、シーズンが始まった後もまともに走ることができないとは......。後輩たちを悪く言いたくはないですが、プロの仕事とは言えません。
逆に新規参戦のアウディ、フォードと組んだレッドブル・パワートレインズは、それぞれトラブルでリタイアするマシンはありましたが、開幕戦では両チームともに入賞を飾っています。大したものだと思います。
【メルセデスの時代がまた始まる】――開幕戦のオーストラリア、続く中国GPはともにメルセデスがワンツー・フィニッシュを飾りました。
サッシャ 開幕前からメルセデスが強いと予想されていましたが、あらためて彼らのすごさを感じますね。2014年にハイブリッドのレギュレーションが導入されたときも、メルセデスは圧倒的な強さを発揮。14年から21年まで前人未踏のコンストラクターズ選手権8連覇を達成し、帝国を築き上げました。
そのメルセデスを倒すために浅木さんたちホンダとレッドブルは頑張ったわけですが、メルセデスの時代がまた始まるのかなという思いがあります。
でも昨年、ドライバーとコンスラクターのダブルチャンピオンを獲得したマクラーレンはメルセデスのカスタマーです。レッドブル・ホンダが一矢報いていた時代はありましたが、長い目で見ると2014年からメルセデス帝国が続いているとも言えますね。
浅木 メルセデスは2014年にハイブリッドのレギュレーションが導入された頃から、すごいなとは思っていました。技術力の高さだけでなく、レギュレーションを作るところから自分たちが何をやったら勝てるかという戦略に加え、政治力もある。勝つためのプロフェッショナル集団という印象がありますね。
――メルセデスのマシンの印象はどうですか?
中野 すごくバランスの取れたマシンに仕上がっています。PUにばかり注目が集まっていますが、走行データを見ていると、コーナーリングのスピードが速いですし、昨年に比べるとしっかりとフロントが入っています。マシンの動きを見ると、どんなサーキットでも速そうですね。
フェラーリのマシンもフロントがしっかりと入って、よく曲がっています。昨年まではピーキーな動きをしていたのですが、今年のマシンは扱いやすくなっているように見えます。フェラーリ移籍2年目のルイス・ハミルトン選手が元気を取り戻してきているのは、そこが大きいと思います。

「メルセデのマシンの動きがいい」と語る中野氏。PUの出来だけでなく、車体性能も良くバランスのいいマシンに仕上がっているという
――日本のファンが気になっているのがアストンマーティン・ホンダです。天才デザイナーのエイドリアン・ニューウェイ氏がマシンを手掛け、ワークス復帰するホンダがPUを作り、ドライバーには2度の世界チャンピオンに輝いたフェルナンド・アロンソ選手がいる。開幕前から日本のファンの期待値は上がっていましたが、いざフタを開けると、PUの振動問題で完走さえままならないというレースが続いています。
サッシャ 前に中野さんが「ニューウェイさんがチーム代表をやっている時点でアストンマーティンはちょっと追い込まれているのではないか」という話をされていたんですよね。
中野 そうですね。だからニューウェイさんがチーム代表に就任すると昨年 11 月末に発表された時点で、「ああ、人材が不足しているんだろうな」という印象を受けました。チームをまとめるパワーと経験のある人がいないから、そのポジションにニューウェイさんが就くしかなかったのかなと。
でもニューウェイさんがトップに立った瞬間、本来はマシン開発の方に集中しなければいけなかったのが、開発とは別の政治やチーム運営に時間と労力を割かなければならなくなったことで、いろいろと難しい部分が出てきているようにも感じます。
――開幕戦ではニューウェイ氏がホンダを非難するようなコメントをして、メディアの注目を集めていました。
サッシャ ただ、ホンダがPUのアップデートをできるように、わざと問題を大きく見せているという説もありますよね。今年は6戦ごとに各メーカーのPUの性能を分析し、競争力が大きく劣っているメーカーに対しては、追加のアップグレードの機会が与えられたり、テストの時間も延長されたりすることになっていますから。
【なぜ悪夢は繰り返されたのか】浅木 ニューウェイさんがそこまで考えを巡らせているのかはわかりませんが、やっぱりレッドブルという組織の中で天才的な能力を持った彼が存分に能力を発揮できたのは、周囲の力が大きかったのかもしれません。天才がパっとひとりいても、チーム内がぐちゃぐちゃになってしまう可能性もあったんだなと感じています。

「ホンダの技術者の能力の高さはタイトル獲得で証明できている」と語る浅木氏。「今、ホンダに問われているのは開発の方向性を導くリーダーの能力だと思います」
ホンダをかばうわけじゃないですが、ひょっとしたらホンダも多少のとばっちりを受けた可能性もあります。開幕前のテストのときにマシンが間に合わないということは、ギリギリの日程で何かを変更してくれと言われた可能性も感じるわけですよね。
でもニューウェイさんに「理想的にはこうなんだ」と言われて、ノーと言えなかった。自分たちの能力を超えたことやるという判断をホンダがしてしまったのではないかと、私は推測しています。
レッドブル時代にもニューウェイさんと一緒に仕事をしていましたが、そのときは「ホンダに対して無茶を言うな」と周囲が口を酸っぱくして言っていたわけですよね。日本人はなかなか断れないんだろうから厳しい要求はするな、マクラーレン・ホンダのようになってしまうからと。その点、レッドブルはいろいろ考えてくれていたんです。

空力の鬼才と呼ばれるニューウェイ氏(右)はマシン開発を行いながら、昨年末からチーム代表も務める。しかし低迷するチーム事情もあり、代表を退任しマシン開発に専念するとの噂も出ているが......。
サッシャ ホンダとレッドブルのパートナーシップを先導してくれたフランツ・トストさん(レーシングブルズの前代表)は日本人の気質をよくわかっていましたからね。
浅木 そうですね。2015年にマクラーレンと組んで復帰した際も車体の空力性能を優先し、"サイズゼロ"と呼ばれる非常にコンパクトなPUを開発しましたが、トラブルが続出してうまく行きませんでした。
あの時も理想を追求し、時間とお金を無駄にし、結果的にチームやドライバーにも迷惑をかけました。同じようなことを繰り返しちゃダメです。

元ホンダ技術者・浅木泰昭氏の初の著書『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』。F1の話題だけでなく、技術者としての生き方や組織のマネージメントについても語られており、ビジネス書としても楽しめる一冊
取材・文/川原田 剛 撮影/樋口 涼 写真/熱田 護(F1)
記事提供元:週プレNEWS
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