松重豊の熱い思いが詰まった映画ならではの特別な作品「劇映画 孤独のグルメ」
イチオシスト

TV界で独自のポジションを確立して人気を博す、飯テロ(夜食テロ)ドラマ&テレビ東京系深夜ドラマ。その草分けこそ、松重豊主演の『孤独のグルメ』シリーズ。2012年から続く同シリーズの集大成として昨年劇場公開された「劇映画 孤独のグルメ」のBlu-rayとDVDが、いよいよ3月25日に発売される(レンタル同時リリース)。興行収入10億円を突破するヒットを記録した同作のソフト化は、公開から1年以上待ち侘びたファンも多いはず。同シリーズの魅力を熟知した主演の松重本人が監督と共同脚本も務めた本作は、TVドラマの映画化作品の成功例の一つであり、シリーズ未見の方にもぜひお薦めしたい。
フランス、長崎、韓国、東京を股に掛けた、かつてない大冒険

テレビ東京の深夜枠ドラマとして、2012年に放送開始した『孤独のグルメ』シリーズは、久住昌之(原作)と谷口ジロー(作画)による同名漫画が原作。連ドラとしては深夜の30分枠の一話完結で10シーズンと特別編を放送し、近年は大晦日や正月に60~90分枠のスペシャルドラマを放送するのも恒例となっている。『モテキ』(10)、『勇者ヨシヒコ』シリーズ(11、12、16)、『きのう何食べた?』シリーズ(19,20、23)など、数多くのヒット作を生んできたテレビ東京系深夜ドラマは、低予算でもゴールデンタイムのドラマにはできない挑戦的かつアイデア勝負の作風が独自のドラマブランドを確立し、配信での人気も背景に増加した現在の深夜ドラマ界を牽引してきた。そんなテレビ東京深夜ドラマとしても、また、定番ジャンルとなったグルメドラマとしても、その筆頭こそ『孤独のグルメ』であり、当初は深夜枠でひっそりと始まった低予算の街角グルメドラマだったが、いまやテレビ東京の看板ドラマの長寿シリーズとなり、連ドラ初主演に抜擢された松重を人気俳優にも押し上げた。
松重演じる主人公の井之頭五郎は、個人経営の輸入雑貨貿易商。商談で赴く土地の飲食店で食事することが無上の喜びで、好みの店には五郎なりの美学があり、下調べせずその時々に食べたいと思ったものをふらりと立ち寄った店で自由に食す、偶然の出会いを大切にしている。寡黙なおじさんの心の声がモノローグでつぶさに明かされるのが特徴で、空腹を覚えた五郎が商談の前後に近隣の店で一人の食事を淡々と楽しむ姿を撮りつつも、食の感動を独特な表現で伝える秀逸なモノローグにより、平凡な食事風景をエンタメ化してグルメドラマに新風を吹き込んだ。実在する庶民的な店で実際に食べる姿を完食まで撮ったドキュメンタリー的要素もあって、特別な料理でなくても本当に美味しそうに見せる松重の食べっぷりの良さは、見る者の食欲を刺激してお腹が空くため、“夜食テロ”や“飯テロ”とも称され、放送の度にSNSを賑わしている。
今回の映画では、かつての恋人・小雪の娘・千秋(杏)からの依頼で、五郎がフランスに向かうところから始まる。フランスでもいつものように腹を空かせて飛び込んだ店で最高の食事を堪能した後、千秋に依頼された彼女の祖父・一郎(塩見三省)が求める絵画を届けた五郎は、無事に仕事が終わったかと思いきや、一郎から新たな依頼を受ける。子どもの頃に母親がよく作ってくれたスープをもう一度飲みたいので、そのスープの再現か食材集めをしてくれないかというのだ。手掛かりは一郎が語る味の記憶やそこから推測した大まかすぎる素材構成のみで、詳細なレシピはわからない。表面的には寡黙でお人好しに見える五郎は、これまでも断り切れずに雑貨貿易商の範疇を逸脱した無茶ぶりの仕事を受けてきたことはあるが、今回は食材調達という専門外なだけでなく、雲をつかむような話から依頼品を探し当て、調理やレシピの解明まで期待された最難関ミッション。ダメもとでよいならと仕事を受けた五郎は、一郎の故郷の長崎県・五島列島へ向かうことになる。こうして始まった五郎のスープ探しミステリーとでもいうべき旅は、思いもかけない事件や出会いを生み、フランス、長崎、韓国、東京を股に掛けた、かつてない大冒険となっていく。
シリーズの集大成かつこれまで見たことのない新鮮な「孤独のグルメ」

一話完結の連ドラ版は、最後に入る原作者・久住が劇中の舞台となった飲食店を訪ねる『ふらっとQUSUMI』を除いたドラマパートが正味20分の短編で、スペシャル版では正味70分強の中編エピソードも描いてきたが、今回の映画は110分の最長エピソードで、オムニバスでもない。TVスペシャルも連ドラ版とは異なる趣向を凝らした物語を描いてきたが、五郎の食事シーンが中心であることなど基本スタイルは変わらない。しかし今回の映画はこれまでとはかなり異なるスタイルも交えた映画ならではの特別なエピソードで、序盤は基本スタイルを踏襲しているのだが、徐々にTVドラマとは異なるスタイルに変化していき、これまで見たことのない新鮮な展開の物語となっている。食がテーマであることや主人公は変わらないが、井之頭五郎というキャラクターを使ったスピンオフや番外編ともいえ、“井之頭五郎の大冒険”とでも呼びたくなる本作は、いい意味で「孤独のグルメ」であって「孤独のグルメ」ではない、独立した映画として誰もが楽しめる映画だ。
TVドラマの映画化作品は、大雑把に分けると、TVシリーズのファンをメインターゲットにした続編的作品と、TVシリーズ未見でも親しみやすい単独エピソードや番外編的な作品があり、本作は後者といえる。とはいえ厳密には中間的作品や別カテゴリーもあるためすべて二分できるわけではないし、作品内容やターゲット層に合っていればどちらでもよいので、TVドラマの映画化作品に重要なのは、映画として描きたいことや映画でなければ描けないことなど、映画ならではの特別なものがあるかどうか。当たり前すぎる話だが、残念ながらそれが見えない作品も存在するため、TV人気にあやかっただけではないかとか、TVドラマを見ていないと楽しめないだろうと敬遠する方もいるかもしれないが、本作は10年以上にわたって主演を務めてきた松重の企画で、これまでにない新たな挑戦と熱意や愛情が詰まった、映画ならではの特別な作品となっている。
食材を探す謎解きやアドベンチャーに、ラブストーリー的要素も絡み合う、TV版ではできなかったことに挑戦しつつ、シリーズのお約束をあえて破っているところもある。シリーズとしてはかなり異色作だが、それでも本作が「孤独のグルメ」だと言えるのは、やはり井之頭五郎というキャラクターの魅力と、食べるという行為で作ってくれた方たちへの感謝を込めた、食べ物や飲食店への深い敬意があって、五郎と本シリーズを最もよく知る松重が、大事な芯の部分をきちんと守っているから。かなりぶっ飛んだ展開や現実なのかを疑いたくなる“不思議の国の五郎”というようなエピソードがあったり、思わず吹き出してしまうメタフィクション的セルフパロディもあったりするが、先の読めない物語でワクワクドキドキさせつつ最後には静かな感動も呼ぶ一本の映画としてうまくまとめあげている。原点回帰的にドラマの『Season1』第一話とリンクした、ファンをニヤリとさせる目くばせもあり、集大成かつこれまで見たことのない新鮮な「孤独のグルメ」となっている。
主演と監督を兼任する松重の現場風景や作品に込めた熱い思いが伝わる映像特典

本作の企画始動は、シリーズ10年目の節目となる『Season10』を放送した2022年頃。レギュラー俳優は松重だけで、スタッフも少数精鋭のため、長寿シリーズとなったことによりスタッフも様変わりする中、撮影現場で最初から参加しているのは主演の松重だけという状況も多く、今後のスタッフの人材育成や成長も期待して、松重自身が企画したという。最初に監督オファーをしたのは、オムニバス映画「TOKYO!」(08)の一編「シェイキング東京」で組んだこともあって信頼するポン・ジュノ監督だったという。韓国でドラマ版の人気が高いという後押しもあったが、スケジュールの都合で実現できなかったため、いっそシリーズを最も熟知した松重自身が、監督として先頭に立つことを決意したそう。大学進学で福岡から上京した当初は映画監督を志し、バイト仲間だった甲本ヒロトを主役に8mm映画を撮っていたこともあるが、結局完成には至らなかったため、映画監督の夢は二度と持たないようにしていたが、40年以上経って貴重な機会が巡ってきたため、今回の主題歌は甲本ヒロトに依頼したことで、ザ・クロマニヨンズによる主題歌『空腹と俺』も実現したそうだ。
TVドラマの延長線ではない“劇映画”として成立させるべくストーリーを練り込み、コロナ禍で苦境に立たされた飲食店の方たちへのエールを込めた脚本を、シリーズのメインライターの田口佳宏と共に松重自身が手掛けた本作。キャストも自身の好きな信頼する役者にラブレターのつもりで脚本をあてがきしてオファーしたそうで、隅から隅まで松重のこだわりや愛情が詰まっている。興収10億円を超えられなければ、五郎も監督業も身を引く覚悟まであったらしい。3月25日にリリースされるBlu-rayとDVDの豪華版には、本編ディスクと特典ディスクに加え、12ページのブックレット(『まだまだ続く!宣伝日記」、場面写真、あらすじなど)と『2026年4月はじまりウィークリースケジュール帳』も封入。特典ディスクには、メイキング、PR集、舞台挨拶映像集(2025.1.10実施『初日舞台挨拶』、2025.1.19実施『公開記念舞台挨拶』)、特番『孤独のグルメ”が世界へ!劇映画公開記念&韓国の幻の名店一番乗りの旅』(2024年放送)、『井之頭五郎の撮休日』①~④を収録。主演の松重がどんな様子で演出していたのかがわかるメイキングや舞台挨拶などからも、松重の本作に込めた熱い思いを実感できることだろう。
文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社・山田

「劇映画 孤独のグルメ」
●3月25日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray豪華版 価格:10,340円(税込)
【ディスク】<2枚>※本編+映像特典104分
★映像特典★
・メイキング、PR集、舞台挨拶映像(2025/1/10実施「初日舞台挨拶」・2025/1/19実施「公開記念舞台挨拶」)、特番「孤独のグルメ”が世界へ!劇映画公開記念&韓国の幻の名店一番乗りの旅」(2024年放送)、「井之頭五郎の撮休日」①~④
★初回封入特典★
・ブックレット(12ページ)「まだまだ続く!宣伝日記」/場面写真/あらすじ 等
・2026年4月はじまりウィークリースケジュール帳
●DVD豪華版 価格:8,360円(税込)
【ディスク】<2枚>※本編+映像特典104分
★映像特典★
・メイキング、PR集、舞台挨拶映像(2025/1/10実施「初日舞台挨拶」・2025/1/19実施「公開記念舞台挨拶」)、特番「孤独のグルメ”が世界へ!劇映画公開記念&韓国の幻の名店一番乗りの旅」(2024年放送)、「井之頭五郎の撮休日」①~④
★初回封入特典★
・ブックレット(12ページ)「まだまだ続く!宣伝日記」/場面写真/あらすじ 等
・2026年4月はじまりウィークリースケジュール帳
●DVD通常版 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>
●2025年/日本/本編110分
●監督:松重豊
●脚本:松重豊・田口佳宏
●出演:松重豊、内田有紀、磯村勇斗、村田雄浩、ユ・ジェミョン、塩見三省、遠藤憲一、杏、オダギリジョー
●発売元:「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会 販売元:ポニーキャニオン
©2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会
記事提供元:キネマ旬報WEB
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