映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「アメリと雨の物語」
イチオシスト

子どもと大人の化学反応で、世界は新たな色を帯びる

アメリは生まれたときから植物状態だったが、駐日ベルギー大使の父も、ピアノを弾く母も、あまり心配していない。兄と姉は活発に遊び回っている。変化は突然訪れた。ベルギーから訪ねてきた祖母が差し出すホワイトチョコを口にして、覚醒するのだ。まず歩き、そして走る。初めての言葉をあっけなく口にすると、周囲で驚きと喜びが広がるが、アメリにすれば「とっくに喋れた」。使用人としてやってきたニシオさんとは、すぐに仲良くなった——。1960年代の神戸に生まれたアメリー・ノートンの自伝的小説を映画化した「アメリと雨の物語」は、瑞々しいアニメーションで紡がれていく。
アメリの目の高さで回るコマ、口をパクパクさせる鯉たち、ガラス戸に指で書いた「雨」の文字(息を吹きかけるとくっきり浮かび上がる)。色と線を伴った体験が、世界観をダイナミッ
クに築いていく。だがそれでは計れないものもある。祖母の「死」、そして「戦争」だ。大家のカシマさんは戦争で夫と子どもを亡くし、アメリの一家を敵国人だとして快く思っていない。一方でニシオさんは爆撃で家族全員を亡くしているが、過去のこととして乗り越えている。

大人は世界を理解するための軸を多方向に延ばし、それらを総合するから人々はおおよそ同じ方を向ける。それが「喜ばしい」かどうかはさておき、子どもの曇りなき世界像に、大人の思慮を通過した世界像が波及していく人間というものの不思議を思う。アメリとニシオさんが同世代の少女として抱擁し合う、時を超えた幻想的シーンがある。ニシオさんもかつて少女であり、アメリもニシオさんのように大人になるのだと。人類史にとっては無きに等しい歳の差であり、二人だけの関係性であっても、これが映画として輝くなら奇跡と呼びたい。
文=広岡歩 制作=キネマ旬報社・山田 (『キネマ旬報』2026年4月号より転載)

「アメリと雨の物語」
【あらすじ】
1960年代の日本で、ベルギー人外交官の家庭に生まれたアメリ。2歳半まで動かず声を発さず無反応状態だったが、やがてあるきっかけで自らを「神」だと信じ、魔法のような世界を生きていく。家政婦のニシオさんや家族との日々は冒険であり、発見の連続だった。ところが3歳の誕生日にショッキングな出来事が起き、それがアメリの転機となる──。
【STAFF & CAST】
監督:マイリス・ヴァラード、リアン=チョー・ハン
配給:ファインフィルムズ
フランス/2025年/77分/Gマーク
3月20日(金・祝)より全国にて順次公開
©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma,Puffin Pictures, 22D Music
公式HPはこちら
記事提供元:キネマ旬報WEB
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
