新型EV「EZ-60」で目指すマツダの必勝戦略
イチオシスト

誰が見てもマツダ車とわかるEZ-60。滑らかなフォルムに9つのエアダクトと立体的なシグネチャーウイングを組み合わせた新世代のEV
中国市場の荒波に挑むため、マツダは長年の"自前主義"すら自ら壊した。その象徴が、重慶長安汽車との協業で生まれた話題の新型EV「EZ-60」。
自動車研究家・山本シンヤ氏がマツダの本拠地・広島で開発陣を直撃。実車に触れ、その魂をじっくりと確かめてきた。果たしてEZ-60は、マツダの未来を照らす一台になりえるのか!?
【ユーザーに寄り添うが、マツダの魂は捨てない】これまで一貫して電動化の「マルチソリューション」を掲げてきたマツダ。しかしスモールプレイヤーゆえ、〝自前主義〟にこだわりすぎるとビジネスが成立しにくい場面もある。
特にEV(電気自動車)開発は自動車メーカー各社の悩みどころ。収益化は難しい。中国市場のように普及が進む地域では小手先の戦略は通用せず、クルマづくりの根本から開発スピードまで見直しを迫られている。
そんな中、昨年の上海モーターショーで初公開された中国向けEV第2弾EZ-60をマツダの本拠地・広島で取材した。
第1弾EZ-6に続き、企画・開発・製造は重慶長安汽車との合弁会社「長安マツダ汽車」が担当。外野からは「中国向けのお手軽モデル」と揶揄する声もあるが、現地取材を通じ、筆者は逆に「どのマツダ車よりもマツダらしさが濃い」と感じた。

2024年4月の上海モーターショーでお披露目されたEZ-60。中国でのお値段は約250万円スタート。安っ!!
外観は、一瞬でマツダとわかる低重心のプロポーション。中国向けCX-4に近いクーペ調だが、グリルレスのシャープなライト、往年のポルシェ928やいすゞ・ピアッツァを思わせるふくよかなリアフェンダー、アイコニックSP風リアランプなど、未来感と個性のバランスが巧み。「新型CX-5もこれくらい攻めてもよかった」と思えた。
空力設計も抜かりない。フロントからボンネットへ抜けるエアダクトは、1995年東京モーターショーのRX-01コンセプト(次期RX-7と噂されたコンセプトカー)のアイデアを30年越しに具体化したものだ。
インテリアは26.45インチで5K高精細の巨大スクリーン、メータークラスターレスHUD(ヘッドアップディスプレー)、デジタルアウターミラー、23スピーカーなど、機能面では既存マツダ車とは別物。しかし水平基調の静かなデザイン、インパネとドアの連続性、仕立ての良い素材には「マツダらしさ」が宿る。

コックピットには26.45インチのスクリーンと、世界初の100インチ裸眼3DのHUDを備え、近未来感ギンギン
プラットフォームやパワートレインは長安汽車のリソースを活用する。しかし、サスペンションやEPS(電動パワーステアリング)、車体補強など〝走りの味〟はマツダ独自。一見すると第7世代商品群とは逆のアプローチだ。
パワートレインはEV(航続距離約600㎞)と、1.5Lエンジンで発電するレンジエクステンダー型のEREV(航続約1000㎞)の2本立て。同乗試乗したER(エクステンデッド・レンジ)EVは自然さを重視し、ペダル操作に応じたリニアな加速が印象的だ。
フロントにエンジン、リアにモーターを搭載するEREVは、前後重量配分50:50と素性がいい。アクセル・ステアリング・ブレーキの連携が自然で、Gベクタリングコントロール(マツダが開発した車両運動制御技術)不要の一体感あるハンドリングだ。快適性重視のセットでも応答性は高く、動きは穏やかでも芯がある。
乗り心地はマツダの上級モデルCX-60/CX-80を軽く上回る。リアサスペンションの仕事が良く、過度に締めず、どんな路面でもフラット。後席もショーファーカーとして十分使え、「センティア(かつてマツダが販売していた最上級セダン)がよみがえったらこんな乗り味か」と思わせる完成度だった。
【制約下でこそ生まれる〝マツダらしさ〟】開発を担当したマツダの小澤裕史(ひろし)主査はこう語る。
「すべて自前ではコストでもスピードでも勝てません。中国のユーザーニーズは独特で、従来の常識も通用しません。そこで〝ご法度〟だったことと、〝マツダらしさ〟の両立を目指しました」
近年のマツダは理想の追求が先行し、ユーザーとの間にわずかなズレが生じていた。たとえるなら「うまいから食え」と信念を持ちすぎて差し出す料理のようなもの。正しさはあっても、受け手の気分や状況への配慮が足りなければ共感は広がらない。とりわけ中国市場のように価値観とスピードが大きく異なる環境ならなおさらだ。
EZ-60は、そうした従来の〝掟〟をあえて乗り越え、ユーザーに寄り添う方向へかじを切った。その上で、マツダの魂そのものは、むしろいっそう濃く磨き上げた。

EZ-60の開発主査、マツダの小澤裕史氏(右)の運転に同乗し、特濃取材を敢行する山本氏(左)
取材後、お好み焼きを食べながら思った。マツダは制約の中でこそ名車を生む。
マツダの歴史を振り返ると、フルラインロータリー構想の挫折後に登場したFFファミリア、無謀ともいわれた5チャンネル体制とバブル崩壊という逆風の中で生まれた初代デミオ、そしてフォード傘下という中で数多くの制限を抱えながら開発された初代アテンザとアクセラ。
いずれも厳しい制約下で誕生したモデルだが、むしろ、だからこそ強いマツダらしさを宿していた。自由度が大きすぎた近年のCX-60は、多くの要素を盛り込みつつ熟成不足でつまずいた。
EZ-60は、どこで造ろうと、どんな素材でも、魂と軸がブレなければマツダ車になることを証明するモデル。それは、自前主義に固執しない新しいマツダの象徴でもある。協業と既存資産を最大限活用し、少ない投資で電動車を生み出す「ライトアセット戦略」。
その思想を体現した存在であり、現在の技術オリエンテッドなマツダに問題提起する〝反逆児〟。このクルマを〝中国専用車〟という枠に収めるのは惜しい。日本や欧州でも十分通用するモデルである。
撮影/山本シンヤ
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
