優雅な「青」の次は、狂気的な「速」だ。ベントレーが日本市場に仕掛ける飴と鞭の戦略
イチオシスト
六本木のど真ん中に、わずか2日間だけ出現した英国のサンクチュアリ。そこで目撃されたのは、花嫁の幸せを願う「サムシング・ブルー」を纏ったベンテイガだった。だが、騙されてはいけない。この美しい白い巨体は、優雅な顔をして0-100km/hを4.5秒で駆け抜ける。これは「愛の物語」であると同時に、物理法則をねじ伏せるエンジニアリングの報告書である。
六本木に舞い降りた、重量級の「青い鳥」
諸君、もし君が愛する女性へのプロポーズを考えているなら、指輪の箱をパカっと開ける前に、もう少し大きな箱――ガレージのサイズ――を確認した方がいいかもしれない。
2月21日と22日のわずか2日間、東京・六本木ヒルズの大屋根プラザで、ベントレーはある特別な「儀式」を執り行った。寒空の下で行われたそのイベントの主役は、日本限定わずか10台という希少な「Bentayga Something Blue Collection by Mulliner(ベンテイガ・サムシングブルー コレクション バイ マリナー)」だ。価格は3,400万円。
「サムシング・ブルー」とは、花嫁が結婚式で身につけると幸せになれるという欧州の古い言い伝え「サムシング・フォー」の一つだ。通常、それはガーターベルトの青いリボンや、ハンカチの刺繍などを指す。
だが、クルー(ベントレー本社)の職人たちは、「それなら、550馬力のV8エンジンを積んだ2.4トンのSUVでもいいじゃないか」と考えたらしい。英国流のユーモアか、あるいは究極の過保護か。いずれにせよ、これほど頼りになる「お守り(プロテクティブ・チャーム)」は、世界中どこを探しても存在しないだろう。
幸福の質量は2,412kg
展示された車両を見て、私はその洗練された仕立てに唸らざるを得なかった。
エクステリアカラーは「Ice(アイス)」。名前こそ冷ややかだが、実物は陽の光を浴びて温かみのある輝きを放つ、極めて上品なメタリックホワイトだ。
そこに、さりげなく「サムシング・ブルー」が添えられる。ボディ下部のストライプやホイールのセンターキャップにあしらわれた青は、決して主張しすぎない。
だが、ドアを開けてインテリアを覗き込むと、そこにはマリナー部門の職人技が爆発していた。
「リネン」と名付けられたクリーム色のレザーに、「グラビティグレイ」の引き締め役。そして、助手席のフェイシアには「ツリガネズイセン(ブルーベル)」の花のモチーフが描かれている。花言葉は「変わらぬ愛」。
なんてロマンチックなんだ。もしこの車内でも喧嘩をするカップルがいるとすれば、それはもはや車のせいではない。二人の相性の問題だ。
スペックについても触れておこう。ベースとなるのは「ベンテイガ アズール」。4.0リッターV8ツインターボエンジンは、最高出力550PS、最大トルク770Nmを叩き出す。
この車は、花嫁を教会へ送るだけでなく、その気になれば追っ手を振り切り、泥道を走破し、大陸を横断して逃避行することだってできる。真の「幸福」とは、いかなる状況でも生き残れるサバイバル能力のことを指すのかもしれない。
「アトリエ・エディション」という提案
会場にはもう2台、興味深いモデルが展示されていた。「Bentayga Atelier Edition(アトリエ エディション)」だ。価格は32,972,900円。
これは、ベントレーのデザインチームが「これが我々の考えるベストな組み合わせだ」と提案する、いわば「シェフのおまかせコース」のような限定車だ。
展示車の「ライトエメラルド」というボディカラーは、深みと透明感が同居する絶妙な緑だった。そして、落ち着きのある「ライトオニキス」。
ベントレーのビスポーク(特注)システムは無限の選択肢があるが故に、時として顧客を迷宮に迷い込ませる。だが、このアトリエ・エディションなら、プロが選んだ完璧な調和を、迷うことなく手に入れることができる。忙しい現代の成功者にとっては、これこそが究極のラグジュアリーかもしれない。
静寂の次は、嵐が来る
さて、美しいレザーとウッドパネルに囲まれて、「ベントレーとはなんと優雅で、平和な乗り物なのだろう」と誤解してしまいそうになった私の耳元で、悪魔的な囁きが聞こえてくるではないか。
ベントレーモーターズ ジャパン ブランドディレクターの遠藤克之輔氏だ。彼は、この穏やかな展示会場の空気とは裏腹に、非常に刺激的な「予告」をしてくれた。
「今年はこのイベントを皮切りに、スーパースポーツの発表も日本で予定されています。ベントレーはパフォーマンスサイドにもスポットを当てて参りますので、楽しみにしていてください」
遠藤氏の言う「スーパースポーツ」とは何か。
鋭い読者ならお気づきだろう。実はこのイベントの直前、ドバイにおいてベントレーは新たなハイパフォーマンスモデルをお披露目している。これは、4シーターのコンチネンタルGT(コアレンジ)やバトゥール(マリナーレンジ)の系譜とは一線を画した、究極の運動性能を持つ2シーターGTモデル(Haloレンジ)である。
「Beyond100+」戦略の下、電動化へと舵を切るベントレーだが、彼らは決して「速さ」への執着を捨てていない。むしろ、電動化技術をターボチャージャーのように使い、さらなる怪物を生み出そうとしているのだ。
幸福と狂気は紙一重
六本木での短いイベントは2日間で終わってしまう。
「サムシング・ブルー」のベンテイガは、今頃どこかの幸運なオーナーのガレージに収まり、その家族を守る鉄壁の城塞となっていることだろう。
今回のイベントは、ベントレーの持つ「女性的な柔らかさ」「職人の緻密さ」を強調するものだった。だが、遠藤氏の言葉が示唆するように、それは嵐の前の静けさに過ぎない。
次は、タイヤスモークとアドレナリンの匂いがする「男性的で獰猛な」ベントレーが、日本に上陸する番だ。
優雅なウェディングドレスを脱ぎ捨てた時、その下に隠されていた筋肉質なアスリートの肉体が露わになる。そのギャップこそが、ベントレーというブランドから目が離せない理由なのだ。
幸福の青い鳥を捕まえた次は、猛禽類を手懐ける準備をしておいた方がいいだろう。
写真:上野和秀
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