20勝・谷口徹の涙に感銘 第一線に区切り、次世代へ贈ったエール【現地記者コラム】
イチオシスト
11月30日に幕を閉じた国内男子ツアー「カシオワールドオープン」は、27歳の大岩龍一が今季11人目となるツアー初優勝を飾った一方で、男子ゴルフ界にとって、もうひとつ重要な出来事があった。57歳の谷口徹が、レギュラーツアーに一つの区切りをつける瞬間だ。
大会2日目。首位と5打差の8位タイでスタートした谷口は、2018年の「日本プロ」以来となる勝利を目指してコースに向かった。しかし、1バーディ・4ボギー・1ダブルボギーの「77」とスコアを崩し、トータルイーブンパーの82位タイで予選落ちが決まった。
最終18番グリーン。比嘉一貴、永野竜太郎、佐藤大平、塚田よおすけら多くの選手が見守る中、谷口は涙を流しながらホールアウトした。後輩たちは次々とハグを交わし、「お疲れさまでした」と声をかける。長年ツアーの第一線を走り続けてきた男への、深い敬意が会場を包んだ。
その後、谷口は取材エリアで涙ながらに言葉を紡いだ。
「引退ってわけじゃないですけど、自分で出られないからね。出られなかったら、それは引退かもしれない。日本プロにはまだ出られるから、何も決めていないですけど……。今年は優勝がマストというつもりでやっていたけど、それが達成できなかった。優勝への意欲は、ここ何年もずっと持っていた。それでも、まだやりたい気持ちのほうが強かった。若い選手たちが頑張っている姿を見ることで、ここまでやってくることができた」
昨季の賞金ランキングは154位。今季は生涯獲得賞金上位25位以内の資格で出場し、今大会には賞金ランク136位で挑んでいた。単独4位以上に入ればシード権獲得の可能性も残っていたが、予選落ちでその道は閉ざされた。囲み取材を終えたあと、選手たちとの集合写真、そして胴上げが待っていた。多くの後輩たちに慕われていることが、その光景からもひしひしと伝わってきた。
翌日、谷口は再び会場に姿を見せ、我々報道陣のもとへ歩いてきた。「きのうはありがとうございました。泣いてばかりいて、すみません。本当に涙が止まらなくて…」と頭を下げる。
年齢を問わず多くの選手から慕われる理由が、その立ち振る舞いからよく分かる。「本当に愛されていますね」と声をかけると、再び涙を浮かべ、「自分がどう評価されているのか分からなかったから、本当にうれしかった」と打ち明けた。
その後も報道陣のそばで、さまざまな話を聞かせてくれた。クラブハウスの1階では大会中継が流れており、プレーする選手を眺めながら「前はね…」と成長を見守る表情を浮かべていた。
さらに、取材を受ける若手選手たちの話に耳を傾け、終わると「ナイスプレー」「本当に上手くなったね」「頑張ってね」と声をかけ、拍手を送っていた。その姿は、すでに“次の世代を送り出す側”の人間のようにも見えた。
「いつも勝つためにやってきたし、レギュラーも出られる限りは出たいから出てきた。若い子たちにもいい刺激というか、『自分もああなりたい』と思ってもらえたらうれしいですね。彼らがどう感じているかは分からないですけど…。長く続けられる道筋というか、『まだできなくはないんだよ』という姿を見せたい。そんなことは思いました」
来季の出場権をかけて争われるQT(予選会)には「行かない」と明言した。2018年「日本プロ」優勝資格により、同大会には2029年まで出場可能だが、それ以外は推薦による出場となる。だが、本人はそれに前向きではない。「自分がツアーに出るために、全部できているのかどうか。そもそもツアーに出るレベルの選手なのかが問題。推薦をもらう、もらわない以前の話ですから…」。
“自分で出られないからね”という言葉の裏にあるのは、ツアー通算20勝、賞金王2度という栄光に裏打ちされた、揺るぎないプロとしての矜持だ。長年主戦場としてきたレギュラーツアーは、これで一区切り。だが、再びこの舞台で戦う姿を、多くの人たちが待ち望んでいる。(文・高木彩音)
<ゴルフ情報ALBA Net>
記事提供元:ゴルフ情報ALBA Net
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
