針がすくいだす世界 絵画のような刺しゅうから千人針まで
イチオシスト
さまざまなステッチを学んで組み合わせ、図案を選んだリ描いたりして刺し進める刺しゅうは、趣味の世界。でもここに展示されているそれは別次元だ。定型のステッチではなく、絵の具を塗り重ねるように“描いた”絵画のような刺しゅう作品に出合える。東京都美術館で、上野アーティストプロジェクト2025「刺繍―針がすくいだす世界」(東京都歴史文化財団・東京)が開催されている。「刺繍がうまれるとき―東京都コレクションにみる日本近現代の糸と針と布による造形」も同時開催中。2026年1月8日(木)まで。
上野アーティストプロジェクトは、「公募展」に関わるつくり手を積極的に紹介する展覧会シリーズで、今回が9回目。絵画や書の作家の紹介が多かったが、今回は初めて「刺しゅう」という糸による造形に注目した展覧会だ。
5人の作り手による100点を超える作品が展示されており、素人手芸の世界しか知らなかった筆者は、刺しゅうの多様性にまず驚かされた。日本の伝統的刺しゅう技法を継承する平野利太郎氏の作品からスタート。すでに、これは刺しゅうなのかと作品に顔を近づけて目を凝らしてしまうような「サボテン」に圧倒される。絵画を描くように、麻地に毛糸を刺して風景や人物を表すフリーステッチを考案した尾上雅野氏の作品群は、まるでモネやルノワールなど印象派の絵画を思わせるタッチ。子細に見れば、一針一針、さまざまな色の糸が草原の草や女性のドレスの微妙な色合いを作っていて、印象派の「筆触分割」に似た質感を生んでいるのかもしれない。
岡田美佳氏の「かたくりの道」も、目を凝らせば布と糸の技なのだけれど、木立の間を照らす光や、林床に咲くかたくりの花のイメージが、そこを歩く人の視点で絵を見る人を誘い込む一枚の“絵画”だ。ベンガル地方に伝わる布・カンタを研究した望月真理氏の作品は、日本でいえば刺し子のように、刺しゅうとはまた異なるタッチで布に模様が浮かび上がり、素朴な色合いでもその細かい針仕事の集大成に、作者が制作に没頭した時間の長さを思う。
同時開催の展示では、札入れやたばこ入れなど、江戸時代のアイテムに施された繊細な刺しゅうや刺し子の消防服、第2次大戦中の千人針など、日常生活の中にあった近現代のさまざまな刺しゅうを俯瞰(ふかん)できる。
東京都美術館は上野動物園のすぐそば。今なら黄色く色づいたイチョウを楽しむこともできる。12月21日(日)まで「ゴッホ展
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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