【政治家の働き方問題】引退を決意した寺田学衆院議員が明かす「苦渋と限界」
イチオシスト

「悲しいかな、国会議員に子育てや介護の現実を理解している人はまだまだ少ない」と語る寺田学衆院議員
世間をにぎわせた高市首相の「午前3時の勉強会」騒動。総裁選での勝利後に発した、「ワークライフバランスという言葉を捨てる」という言葉を、まさに体現した例として取り沙汰されたわけだが、こうした光景は氷山の一角に過ぎない。
与野党を問わず多忙を極める日本の国会議員。時代に逆行するこの過酷な労働環境が、ひとつの家族に「限界」をもたらした。将来を嘱望されたひとりの議員の告白は、国民の実態と乖離した政治家の働き方に鋭い警鐘を鳴らす。
■7期当選議員の突然の引退宣言11月7日、高市早苗首相が衆院予算委員会に備え、同日午前3時に首相公邸に入り、秘書官らと答弁準備を行なった。これをきっかけに、与野党含めた政治家および官僚の「働き方問題」が再浮上した。
高市首相といえば、先の自民党総裁選での勝利直後に放った「ワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働いてまいります!」という発言も物議を醸した。
ウェルビーイングを高める新しい働き方が推進される中、時代に逆行する不見識な発言ととらえられたのだ。

7日未明の勉強会は3時間に及び、警護や事務方への負担も問題に。与党議員からも高市首相の体調を心配する声が上がった
実は、この総裁選の少し前、ある国会議員が政治家の働き方に限界を感じ、今期限りの引退を表明していた。27歳で初当選後、衆院議員を7期20年務める立憲民主党の寺田学氏だ。
妻の寺田静参院議員と「夫婦共働き」政治家として知られていた彼は、なぜ議員の座を辞す苦渋の決断に至ったのか? 10月半ば、政局に揺れる永田町で話を聞いた。
――突然の「引退宣言」に周囲はどんな反応でしたか? 任期が3年も残っているのに次の選挙に出ないということで、当初は不倫スキャンダルを疑う声もあったとか。
寺田学(以下、寺田) そうなんです。「おまえ、絶対なんかあるだろう!」って(笑)。ひどい話ですよね。妻にも「私にまで『男がいるんじゃないか?』って根も葉もない噂が飛び交って迷惑している」と怒られました。
ニュースで引退を知った多くの同僚議員から、連日、激励の電話を頂戴しています。同じ立憲民主党の所属議員からも連絡はあったのですが、不思議なことに多かったのは自民党議員(笑)。
民主党時代に後輩議員だった国民民主党の玉木雄一郎代表からも「寺田さんらしいな」と励ましの声をいただきました。
――子育てや介護と両立させながら、「夫婦で国会議員を続けることは不可能」と語った引退会見は、ネット上でも大きな話題となりました。
寺田 実は妻とは2、3年前から「いずれどちらかが辞めなければいけない」という話し合いは続けていました。
最初は、参院議員1年生だった妻のほうから「限界がきたら私が引く」「あなたが議員として頑張ってください」と強く言われていたのですが、私は私で彼女にしかできない仕事がたくさんあると確信していたので、「できれば君が議員を続けて地元の秋田を盛り上げてほしい」と7月の参院選に出てもらったのです。
幸いなことに再選を果たし、それが私の中で引退を決めた瞬間でした。
――引退を宣言したのは、石破茂前首相が辞意を表明して自民党総裁選が始まろうとしている矢先のことでした。
その後、自民党新総裁に高市早苗氏が選出され、公明党が連立を離脱。史上初の女性首相誕生か? はたまた野党の大同団結で政権交代が起きるのか?という議論が湧き起こり、(インタビュー中の)今も「政局」ど真ん中です。
次の選挙には出ない身からすると、このような騒々しい永田町の風景も以前とは違って見えますか。
寺田 いえ、やはり驚きましたよ。自自公(自民・自由・公明)連立政権ができたのが1999年。私はその4年後に初めて国会議員に当選したので、公明党が政権の中枢から離れた今の政治状況は、初めて見る光景なんです。
私は20年以上、いつ選挙があるかわからない〝常在戦場〟と言われる衆議院でやってきたので、引退を表明したからといって、すぐに「どこ吹く風」というふうにはいかない。慌ただしさは相変わらずです。
【「子供に気を使わせてしまうのがつらかった」】――現在、夫婦共働きの世帯が7割を超えています。日々、子育てに悪戦苦闘する家庭は多いですが、何かと優遇されているようにも映る国会議員も実状は厳しいのですか。
寺田 民間にお勤めの方で、もっと働いているご夫婦はたくさんいると思います。
ただ、何が違うかというと、国会議員の場合、平日に東京で仕事をこなした上で、土日も選挙区のある地元に帰るという生活が基本となります。
しかも、土日の挨拶回りは厳密に言うと公務ではないので、時間をかけようと思えばいくらでもかけられてしまう。選挙のためとはいえ、これが、国会議員が休みを取れない一番の理由かもしれません。
――かなり特殊な仕事ということですね。
寺田 妻が初当選した6年前は、息子がまだ保育園の年長だったので、子供を連れて東京と地元を行き来するのにそれほど支障はなかった。
ですがコロナ禍を経て息子が小学校高学年になる頃には、大好きなサッカーの試合や仲のいいお友達の誕生パーティといった子供の予定と重なることが増えていきました。
そうなると、週末が来るたび、子供に我慢を強いて地元に連れていくか、それとも、妻か私のどちらかが東京で子供の面倒を見るか、という選択に迫られることになります。
どちらか一方は帰らないと、支持基盤である地元から「なぜ帰ってこないんだ」という声が上がる。選挙への影響は少なくありません。

長男(中央、当時5歳)と笑顔で写る寺田氏と妻の寺田静参院議員(左)。(2019年撮影、提供/寺田学事務所)
――まさに、仕事と家庭の板挟み状態ですね......。
寺田 息子は親の状況をすぐそばで見ているので、「僕、誕生パーティ行かなくても大丈夫だよ。一緒に秋田へ行くよ」と言ってくれます。
でも、子供に気を使わせてしまうのは親としてつらい。この頃からですね。妻との間で、今のような生活を続ければ、いずれ立ち行かなくなる、と話すようになったのは。
――共働きの子育て世帯が抱える悩みのうち、「待機児童」の問題は解消されつつあります。一方、子供の年齢が上がるにつれ「小1の壁」(保育園より下校・帰宅時刻が早くなり、親の就業時間とのギャップが生まれる問題)や塾や習い事の負担増大といった問題に直面します。
寺田 実は、学年が上がるにつれて、勉強のことで悩んだり、人間関係がうまくいかなくなったり、少しずつ問題が複雑になってくるんですね。
そういう意味で、思春期の子供こそ親が向き合う時間を少しでも多くつくってあげる必要があると感じています。
小さいときは、シッターさんにお願いすれば身の回りのお世話をしてくれますが、大きくなった子供の心のケアまではしてくれません。
わが家の場合、子供が親に気を使い始めたのを見て、これまで接する時間があまり取れなかったことに申し訳なさを感じるようになりました。
両親が共に国会議員だから、国のために休みなく働いていて子供と向き合う時間が取れませんでした――などと言い訳はできません。
やはり、ワークライフバランスは国会議員でも必要で、仕事と家庭のバランスを取りながら好循環を生み出す働き方を範として示す必要がある。
――国会議員の多くは子育て政策の議論はできても、実際の育児はできていない?
寺田 現実問題として、子育てに関して配偶者に丸投げしてしまう議員がいるのも仕方ない気がします。
私が議員宿舎で子供と一緒にいるとき、ある議員の奥さまが駆け寄ってきて「ウチのダンナは『イクメン議員』をアピールしているけど、実際、家ではなんにもやってないんですよ!」と愚痴っているのを聞いたこともありますし。そのときは「そう言いたくなる気持ちもわかります」と答えておきました(笑)。
【介護問題にも直面】――今年に入ってからは新たにお母さまの介護問題にも直面していると聞きました。
寺田 今は施設に移ったので負担は減りましたが、自分を産んで育ててくれた母が、目の前で少しずつ弱っていく様子を見続けるのはつらい。母親のほうも施設に入るまで葛藤があったようです。
悲しいかな、実は国会議員の中に子育てや介護の現実を理解している人はまだまだ少ない。そして残念ながら、そういう現場で起きていることを知らない人たちが制度設計を議論しているのが現実なんです。だから、どうしてもほころびが生じてしまう。
――気が早いですが、引退後のビジョンはありますか。
寺田 今年6月に超党派で、訪日外国人との共生について考える入管議連を立ち上げました。日本を訪れてビザの問題などで困っているミュージシャンらの相談に乗り、必要があれば解決を図っていきたい。
国会議員として任期いっぱいまで全力で働きますが、教育の多様化、性犯罪の根絶、音楽を楽しむための環境づくりが私のライフワーク。「元議員」になっても、自分に何ができるのか考えていきたい。もちろん、妻をサポートしつつ子供と向き合いながら。
* * *
過度の滅私や自己犠牲が美徳とされた時代は終わった。このまま育児や介護の現実を知る議員が減れば、悪循環は続く。彼の痛切な訴えから目を背けず、国会議員の働き方もいま一度、見直すべきときが来ているのかもしれない。
●立憲民主党・寺田 学(てらた・まなぶ)
1976年生まれ、秋田県横手市出身。中央大学を卒業後、三菱商事に入社し東南アジア諸国を担当。2003年、秋田1区から衆議院議員に初当選。現在、7期目・在職20年。内閣総理大臣補佐官に2度就任。菅直人内閣では東日本大震災に係る原発事故対応等を、野田佳彦内閣では社会保障と税の一体改革を担当。ライフワークは、教育の多様化、性犯罪の撲滅、音楽の振興
取材・文/ヤマザキハジメ 撮影/渡邉りお 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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