【中学受験】1月お試し受験はやるべき?専門家が語る“塾との向き合い方”“本番を迎える親の心構え”
イチオシスト
画像/PIXTA中学受験は、今や都市部における大きなトレンド。令和に入った今、入試形態はさらに多様化し、多くの情報の中で混乱する保護者もいるのでは?
さまざまな選択肢がある中で、わが子の個性を尊重しつつ、最良の選択をするにはどうすればいいのか。
「テレ東プラス」は、「中学受験に正解・不正解はない」と語る受験指導専門家・西村 創氏を取材。豊富な経験から導き出した戦略から親が持つべき心構えまで、リアルなアドバイスを聞いた。
【動画】西村 創氏が語る高校受験の今“無償化”でトレンドに変化?プロ注目の高校は?

中学受験の“向き不向き”と進路のシフト
――そもそも中学受験に関して、子どもの性質上の向き不向きはあるのでしょうか。
「中学受験に臨むスタンスの向き不向きはあると思いますが、性質上の向き不向きはないと思っています。通う塾や目指す学校、目的(教育方針や校風など)によって“中学受験にどんなスタンスで臨むのか”というのはだいぶ変わってくるので、まずはその子に合った向き合い方を探して、そこさえマッチすればどんな子でもトライできます。さまざまな向き合い方があるので、向かないという子はいないと思います。
ただ、公立中に向いていないという子は確実にいます。私立の場合、エリアにもよりますが、首都圏だったら約300校があるので、その子に合った学校を選びやすい。そういう目線で学校を選ぶ方も多いです」
――「公立中に合わない子」というのは、どのようなタイプでしょう。
「得意・苦手の差が大きい子や集団行動が苦手、小学校の時点ですでに大好きなものがあり、それ以外のことにあまり関心を示さない子は、私立の方が向いていると言えます。
私立は学校ごとに得意なカリキュラムやコースがあるので、学校が特に力を入れている分野とその子の関心があるテーマがマッチすれば、子どもの能力も自然と伸びていくはずです。
今は算数・理科入試やプレゼンテーション入試など、さまざまな形態の入試が増えているので、昔よりもずっと選択肢が広がっています」
――小学校1年生から進学塾に通わせるご家庭もありますが、一般的には小学校3年生(新4年生)の2月から中学受験のカリキュラムがスタートします。
夏期講習や冬期講習もあり、約3年間塾に通い続けるわけですが、「塾に通うことを楽しんでいるが、一向に成績が上がらない」「子どもに合っていないかも…それでも塾を変えない方がいい?」など、途中で悩む保護者も。塾との向き合い方についてアドバイスは?
「これも目的によりますが、“楽しく勉強して入れる学校があればそれでハッピーなのか”、“難関校が第一志望で、そこに向かうために勉強をするのか”によって、塾との向き合い方も変わってくると思います。
塾で楽しく勉強をして、そのレベルで入れる学校に行きたいというのであればそのまま通えばいい。一方、偏差値が10くらい上の学校を目指しているのに成績上がらないのであれば、塾は成績を上げるために通っているわけですから、楽しいだけだと意味がない。これは塾を変えるか、塾の使い方を変える必要があります」
――受験校を選ぶ際、高校受験とは違って子どもは未熟ですし、どうしても親の意見が必要になりますよね。「何が何でも!」と最初に決めた志望校まで持っていくのが良いのか、それとも途中で偏差値を下げて方向転換すべきか…という問題もあります。
「私の経験の中で言わせていただくと、“何が何でも”というご家庭は、あまりいないのが実情です。例えば、何回模試を受けても合格の可能性が5%以下という結果だとしたら、一か八か受けてみるかもしれませんが、やはりそこは、現実的に受かりそうな学校を受験プランに組み込むご家庭が圧倒的に多い。ただし、“この学校が無理なら、もう中学受験はやめて高校受験にしよう”とシフトチェンジするご家庭も多いです」
――シフトチェンジするご家庭も多いとのことで、高校受験ならではのメリットを教えてください。
「12歳ではなく、15歳の受験ということで、自分の興味・関心の方向性や社会のことがある程度分かる年齢になってくるので、親の導きだけではなく、自分で学校を決めることができます。高校受験は、ほぼ100%、子どもが受験校を決めますから。
中学受験は早熟な子の方が有利な面がありますが、15歳になると、そこまでの成長差がなくなるので、努力が報われやすい受験になります。試験の内容も学校の授業に近しいものになるので、より自然な形の受験をすることが可能です」
志望校選びの鉄則 距離の重要性
――中学受験で志望校を選ぶ際、何かアドバイスはありますか。
「強いて挙げるとするならば“全滅は避ける”ということでしょうか。合格圏内の学校を受験プランに組み込むご家庭は多いので、“合格したけど進学はせず、公立中に行く”という選択肢もあります。
やはりまだ小学生で幼いですし、2~4年かけて受験勉強をして、受けたところが全部不合格で公立中に行くとなると、かなり自己肯定感が下がった状態で中学に進学することになります。ですから受験プランには、合格できそうな学校を、最低でも1校組むことをおすすめします」
――成功体験が大切だと。例えば、学校説明会や文化祭などで子どもが校舎の見た目や雰囲気を気に入ったなど、感覚的な目線で選んだ場合、その希望を汲んであげた方が良いのでしょうか。
「そうですね、子どもの意見は取り入れるべきだと思います。私は何より本人の気持ちが大切だと考えていて、例えば親が熱心に勧めたところで、本人の勉強のモチベーションがその学校に向かわないことが多い。どのみち上手くいかないのではないかと思うのです」
――通学距離についてはいかがでしょう。
「これは大きいですね。“(学校が)近いは正義”だと思っています。なので、第一志望はちょっと遠くても、第二志望、第三志望は第一志望よりも近い学校にしておくと、例え第一志望が不合格だったとしても、“やっぱり、近い学校で良かったよね!”となる。第一志望ではなかったとしても、わりと満足して通われているケースが多いです」
画像/PIXTA受験直前の過ごし方と親の心構え
――東京や神奈川で中学受験する場合、2月の本番を迎える前に、1月に埼玉で受験を経験させるケースも。これについて、先生はどのような考えをお持ちですか。
「これもご家庭によってさまざまではありますが、一般的には“受験した方がいい”という回答になります。
模試とは違う本番入試の雰囲気を味わう、さらに合格すれば“正式な受験で合格を手にした”という自信もつきます。
あとはやはり、本番ならではの思わぬアクシデントみたいなものがあるんですよね。
例えば、駅での混雑、教室が暑すぎて頭が回らなかった、それこそお腹が痛くなってしまった…など。そういうことを先に経験しておいた上で、2月1日の本番に向かえば、少しは安心感があります」
――3学期に入ると、学校を休ませるご家庭もありますが、どう判断すべきでしょう。
「受験エリア次第ではありますが、これはもう子ども次第。本人が行きたいかどうかという問題だけで、学校に行って友だちに会いたい子は最後まで通った方がいいですし、休みたければ休んだ方がいい。本人の意思に任せればいいと思います」
――いよいよ約2カ月半後には本番を迎えますが、この時期、子どもとコミュニケーションを取る上で、親が心がけることはありますか。
「“子どもの勉強のモチベーションが下がらないようにする”ということでしょうか。勉強を強制することはやめた方がいいですね。これは、この時期じゃなくても言えることですが、睡眠時間を削って勉強させることはやめた方がいいと思います。理想は8~9時間睡眠。7時間を切ったら、赤に近い黄色信号だと考えてください」
画像/PIXTA
――模試の成績がなかなか上がらない場合、親はどのような対応をすれば良いのでしょう。
「もうここまで来たら、模試の結果はあまり気にせず、去問を解いて、“過去の合格最低点と今の点数とのギャップをどう埋めるか”に重きをおきましょう。
合格最低点と実際に取れた点数の差を割り出し、それをどう科目に振り分けて勉強の計画を立てるか…そこを考えてあげてほしいです」
――もしも不合格だった場合、親の対応についてアドバイスをお願いします。
「不合格だったら次はこの学校、合格したらこの学校というのを決めておくのはもちろんですが、わが子に予め“合否を伝えた方がいいかどうか”を確認しておくことも大切です。
実は“結果を教えないで”という子もいます。例えば、第二志望の学校に合格したと分かった途端、安心して油断してしまうケースもありますし、第一志望が不合格だったと分かったら、次の日からモチベーションが保てなくなるケースもある。逆に不合格だったと知ったことで追い詰められて、モチベーションが上がるタイプもいます。その子によって対応も変わるのかなと思います」
――西村先生が監修・解説している書籍『中学受験に挑戦したら、想像以上に壮絶でした』(2025年12月17日発売。KADOKAWA)の見どころを教えてください。
「中学受験とはどういうものなのかが分かる漫画です。かなりリアルな中学受験が描かれているので、“中学受験ってこういうことなんだ。きれいごとではない世界なんだ”ということが分かる一冊になっています。
また、去年出版した『中学受験のはじめ方』(KADOKAWA)は、教科書的に幅広く、中学受験が分かる内容になっています。私のYouTubeを全部まとめて初心者用にリライトした一冊になっているので、中学受験に興味を持った親御さんは、ぜひ読んでみてください」
――最後に、先生から親御さんに向けて、これだけは伝えたいというメッセージはありますか?
「中学受験は、塾選びが大切です。有名だからといって安易に選ばないでほしい。
“この塾に入れておけば、ある程度学力を上げてくれるだろう”という幻想は抱かない方がいいです。
中学受験に、正解・不正解はありません。あくまでただの選択にすぎない。それが『正解だったね』というのは、だいぶ後になって振り返った時にようやく分かることで、近い未来では分かりません。
昨今は“中学受験が過熱している”と言われ、中学受験をしたら勝ち組というような風潮も見受けられますが、例えば大学を受験するにあたっては、どちらが有利不利というのはないんですよ。ご家庭によって受験スタイルはさまざまなので、メディアの情報にとらわれて“何事も決めつけないこと”。子どもをむやみにあてはめないことが大切なのかなと思います」
▲『中学受験のはじめ方』(KADOKAWA)
【西村 創 プロフィール】
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wingsなどで指導歴25年、指導生徒3,000人以上。
大学入学と同時に、栄光ゼミナールや明光義塾で講師のアルバイトを始める。
新卒入社の早稲田アカデミーでは、入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。
駿台ではシンガポール校講師を経て、社歴80年初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。
河合塾Wingsでは講師、エリアマネジャー、教室長、講師研修などを10年以上務める。
また、「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信、オンライン生活情報サイト「All About」の教育・受験ガイド、マイナビが運営する中学受験情報webメディア「中学受験ナビ」の記事監修、全国の中学校・高校でのセミナー講演、書籍執筆などに携わる。
書籍出版10冊(KADOKAWA、PHP研究所他)は全て重版更新中、累計13万超。テレビ・新聞・雑誌などのメディア出演、掲載多数。
◎YouTube「にしむら先生 受験指導専門家」
「保護者のための中学受験3分メソッド」
(取材・文/蓮池由美子)
記事提供元:テレ東プラス
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
