霊能者の妹が、姉の不審死の謎に迫るミステリーホラー 『視える』
イチオシスト
飯塚克味のホラー道 第138回『視える』
盲人を主人公にした映画は傑作が多い。ジャンルとしてはサスペンスやスリラーが多く、近年では『ドント・ブリーズ』(2016)がベストだろう。また中国と日本でリメイクされた韓国映画『ブラインド』(2011)も完成度が高かった。大作では配信用の『バード・ボックス』(2018)がスケールも大きく衝撃的。クラシックではオードリー・ヘプバーンの『暗くなるまで待って』(1967)など、挙げ出したらキリがないほどだ。だが本作はミステリーとホラーのジャンルミックスを行い、低予算ながら極めて質の高い映画に昇華させている。
映画はドローン撮影の広大なショットから始まる。湖から森を越え、ある古い屋敷にカメラはたどり着く。そこでリフォームに励む女性ダニーが登場する。夫の精神科医テッドは仕事が忙しく、そこには来られない。一人きりの夜に突然、男がやって来て「屋敷に別の人間が入っていったから開けろ」と言ってくる。そして映画はダニーが亡くなって1年後に飛ぶ。ダニーの妹で盲目の霊能力者ダーシーが、テッドが新たな恋人と暮らす屋敷に、木製の不気味な人形と共にやってくる。ダーシーの目的とは?
本作には派手なVFXや、特殊メイクを駆使した見せ場がある訳ではない。だが、霊がいるとしか思えない空気感の作り方が巧みで、最後まで緊張感を持続させてくれる。本作を手掛けたのはアイルランド出身のダミアン・マッカーシー。本作は長編第2作にあたる。両親がレンタルビデオ店を経営していた上に、父親が猛烈なホラーファンだったため、「よく『ポルターガイスト』(1982)や『エイリアン』(1979)など80年代の映画を観せてくれた」んだとか。非常に恵まれた環境としか言いようがないが、その影響は確実に実を結んだと言えよう。他に監督に影響を与えた作品群は『ウィッカーマン』(1973)、『ハロウィン』(1978)、『13日の金曜日』(1980)、『リング』(1998)とのことなので、作品を見る時は元ネタを考えてみるのもいいかもしれない。
キャストはダニーとダーシーをアイルランド出身のキャロリン・ブラッケンが演じ、とても同一人物とは思えない演じ分けを見せてくれる。夫のテッド役にはイギリス出身のグウィリム・リー。『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)でギタリストのブライアン・メイを演じていたと言えば思い出す人もいるかもしれない。その他の俳優陣もアイルランドやイギリス人を起用しており、ストーリーの先読みをさせない。有名どころがいないことが本作には却ってプラスになっている。
あと忘れてはならないのが、ダーシーが屋敷に持ってくる不気味な等身大の木製人形だ。母親が魔女からもらったと劇中で言われているが、その言葉に真実味を感じるほどの気味の悪いデザインで、一度見たら忘れられない姿になっている。もしかしたらフィギュアにしたら、欲しがるコレクターも出てくるのではないかと思わせるほど映画の中で異彩を放っている。
アイルランドの空気と土壌が生んだ、新感覚のホラーとして必見の本作。音響効果も素晴らしいので、是非映画館での鑑賞を薦めたい。間違いなくダミアン・マッカーシー監督は、数年後に大きな作品でブレイクするはずだ。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
視える
2025年11月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
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記事提供元:映画スクエア
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