業界大手の摘発にみる今後の「退職代行ビジネス」の行方とは? かねてから危ういとの声も‥‥
イチオシスト

大型のラッピングバスを繁華街で展開したこともモームリの知名度を向上させたが、サービス内容は長らく「危険運転」だったようだ
退職代行業界の最大手に、司法のメスが入った。派手なSNS戦略で注目を集め、3年間で3万人もの顧客を獲得していた「モームリ」に、警視庁の家宅捜索が入ったのだ。
「容疑は弁護士法違反。『モームリ』の運営会社は顧客に弁護士を紹介し、紹介料をキックバックさせていた非弁提携の疑いです。本件で警視庁は100人態勢の陣営を構えており、内偵捜査を数か月したうえ、運営会社と提携していた2つの弁護士法人にも家宅捜査を打ちました。
モームリ代表の谷本社長は『今回の家宅捜索を受け、新たな管理体制を構築する』『現在の顧問弁護士との契約を解除すると共に、役員の体制を見直す』とコメントを出しましたが、今後、非弁提携のみならず非弁行為そのものの立証に向けて捜査が進む可能性は高く、存続の危機に立たされています」(全国紙記者)
【代表の止まらぬ承認欲求】職場の人と顔を合わせずに退職できることから20代30代の支持を集め、人気となった退職代行。その中で、モームリは後発のサービスだった。ここが秀でていたのは、マーケティングだ。
「モームリのスタッフが実際に勤務先に電話をかけ、やりとりしている様をYouTubeで配信してバズったのが快進撃の始まり。退職という心理的な負荷がかかる重たいイベントを2万円ほどで代行してくれ、鮮やかに解決してくれるようなイメージの訴求に成功し、動画は数百万回再生されました。これをきっかけにワイドショーや朝の情報番組に出るなど認知度が一気に高まり、気づけば業界の覇者になっていった」(前出の記者)

転職が当たりとなる一方で、「会社に退職を言い出せない」という社会人には、有用なサービスであることは間違いない
勢いづいたモームリはラッピングカーを街に走らせるなど、派手なキャンペーンを展開。顧客は右肩上がりに増えていった。だが、「そもそものスキームが危うかった」と語るのは、ある捜査関係者だ。
「退職代行を行うに当たって、民間の事業者ができるのは『●●さんが退職したいと言っている』という意向を伝えることのみ。これだけで話が済めば別だけど、契約社員の契約期間内退職、代行利用後の賃金未払い、会社に置いてある荷物の搬送、社宅についてなど交渉事が多く、これは弁護士資格を持った人間、もしくは労働組合しかやってはいけない領域なんです。
そこをかいくぐるため、モームリ(株式会社アルバトロス)は『労働環境改善組合』と提携した形を取り、退職交渉を進めていたが、実態は提携ではなく労働組合を自前で保有しているような状況で、これが偽装工作に当たるのは明白だった。2024年11月には東京弁護士会から『交渉が必要になった際は労組が出て、代金は民間業者(モームリ)が受け取る形式は非弁行為に当たる』と声明を出されたほど。退職代行業界の中で彼らは問題児だった」(捜査関係者)
創業者である谷本代表のふるまいも強烈だ。
「社員への当たりの強さは有名で、仕事上でも自分を崇拝することを要求するタイプだったようです。社内で定期的に課される試験では、業務にまつわる設問以外に『社長の犬の名前は?』『社長の誕生日はいつか?』などと、関係ないことまで問われる始末。『退職代行業者なのに退職代行を使って辞めるスタッフが出た』という落語のようなオチがついています」(前出の全国紙記者)
【合法的にできるのは通知のみ】モームリ摘発後も、退職代行業界には多数の企業がひしめき合っている状態だが、合法的にできるのは『通知』だけ。本当に退職代行を必要としている人にとって、この方式はあまりにも心もとない。
「退職代行を利用される方は、精神的に参ってしまっているケースが非常に多い。適切な業者を選ばないと弁護士費用という余計な出費が生じたり、話が前に進まなくなったりする可能性が高いのに、業者を吟味したり比較する余裕がないから『ネットで有名なところにお願いしよう』となりがち。これは非常に危ういです」
そう語るのは、某労働組合運営の退職代行サービスの執行委員長だ。
「労働組合には組合員のために労働に関する交渉権限が付与されており、さまざまな理由で退職したくても出来ない方には組合員になってもらい、私どもが退職をお伝えします。ですが、労働組合運営でも対応できない雇用形態はあります。
例えば、個人事業主や公務員は組合員になれないため対応できません。その場合は弁護士運営の退職代行サービスしか選択肢はありません。退職を焦るあまり視野が狭くなるのは理解できますが、『安いから』『有名だから』というような理由で交渉権のない民間業者に依頼するのは待ってほしい。お金を無駄にしたり、トラブルを大きくしては元も子もないので」(前出の委員長)
退職は人生の一大イベント。「安物買いの銭失い」とならないよう、情報収集は徹底してほしい。
文/新田勝太郎 写真/アルバトロス公式HP、photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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