サナエノミクスで「株高不況」がやって来る!
イチオシスト

高市総理は安倍晋三元総理の後継を自任し、アベノミクスを範とした経済政策を打ち出している
10月21日、第104代内閣総理大臣に高市早苗氏が選ばれた。高市氏は積極財政派として数々の経済政策を掲げていたが、いったいどんな政策を優先的に進め、今後、株価や為替、物価、賃金はどうなるのか!?
識者いわく、サナエノミクスは短期的には「株高不況」を招き、格差を拡大するんだとか。そんな時代で資産を防衛するには? そして、サナエノミクスに明るい未来はあるのか!?
まず着手するのは物価高対策10月21日、高市早苗氏が内閣総理大臣に選ばれた。同月4日に自民党新総裁に選出されてからの2週間は政界が激しく揺れ動いたが、それと歩調を合わせて、株式市場も激しく上下動。
公明党が連立離脱を表明した直後の14日の日経平均は、直近高値から1750円も下落した。
ただ、最終的に市場関係者は自民・維新の連立政権発足を歓迎。日経平均は21日、史上最高値である4万9316円をつけた。株式アナリストの平野憲一氏はこう言う。
「ここ数日の株価急騰は、高市氏の持論である金融緩和・財政支出拡大の組み合わせへの期待を受けてのもの。株式市場は『アベノミクス再び』のムードに包まれたのです」

日経平均は21日、史上最高値の4万9316円(終値)をつけた
とはいえ、株価がどれだけ上がっても、国民の暮らしが楽になるわけでもないのが悲しいところ。最新の統計である8月分の物価は平均で前年比2.7%上昇となり、生鮮食品を除く食料は前年比でなんと8.0%もの上昇が続いている。
同じく8月の統計で、物価上昇分を差し引いた実質賃金は8ヵ月連続でマイナスを記録し、その減少幅は拡大する始末だ。果たしてわれわれは、高市新政権成立を喜んでいいんだろうか?
まずは高市総理が取ると予想される経済政策を見ていこう。マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆(ひろき・たかし)氏に聞いた。
「新政権はまず、国民の圧倒的多数が求めている物価高対策に着手します。メニューとしてすでに、給付付き税額控除やガソリンと軽油の減税、地方自治体への交付金の拡充、経営難に苦しむ病院や介護施設への支援を口にしています。政府にできることとしては十分でしょう」
物価高対策はさすがに野党も反対できないと広木氏はみる。ただ気になるのは、経済の大きな流れを調整する、財政政策と金融政策の方向性だ。
当初の主張どおり、大胆にかじを切って好景気を巻き起こしてくれるのかと思いきや、どうやらそれは望み薄らしい。第一生命経済研究所で主席エコノミストを務める藤代宏一氏はこう語る。
「昨年の総裁選当時と比べると、財務省に近い麻生太郎氏の支持を取りつけるために、高市氏の財政政策に関する物言いはマイルドになっていました。金融政策についてもコメントは控えめで、いずれも穏健化しているのは明らか。ソフトランディングを図っているということでしょう」
物価高対策は対症療法で、景気浮揚に直結する政策スタンスの変化もない。つまり、インフレとそれに伴う生活感の重苦しさも、続いていくということだろうか?
「残念ながら、その可能性は高いでしょう。賃金上昇もこれまでどおり続くと見込まれますが、高市氏になったからといって実質賃金がすぐプラスになるという話でもない。
この1、2年と同じように、インフレで生活は圧迫されるけれども、株や不動産などの資産を持っている人は、その価格上昇で埋め合わせができる。そんな二極化、つまりは私の造語になりますが、『株高不況』が当面は続いていくと思います」
これでは高市氏の経済政策に賛同して支持した層に、ひよったと思われかねない気がするが......。藤代氏によれば、高市氏には路線変更を行なう政治的な理由があるという。
「産業振興や防衛強化など、高市氏が掲げる政策はどれもお金がかかります。その費用を円滑に捻出するためには、『GDP(国内総生産)比で政府の債務残高を引き下げていき、健全化した分を使う』という理屈をこしらえる必要があるんです。
一方、金融政策にしても、利上げの『景気を悪くする』というイメージにはくみしたくないはず。かといって利上げを遅らせた結果、円安が加速しても困る。となれば日銀に積極的に介入するのは避け、植田和男総裁に任せるという形を取りたいのでしょう」
連立相手である日本維新の会も、財政は健全化、日銀の独立性は尊重する立場と目される。維新の顔を立てる意味でも、当面は財政・金融政策が前政権から大きく一新されるとは考えにくそうだ。これでは積極財政派のイメージとは程遠い。
「おそらく日銀の利上げも容認するはず。2026年1月までの金融政策決定会合において、0.25ポイントの利上げが行なわれる可能性は高いとみます。これを牽制して、円安・インフレ容認と取られるようなまねはしないかと」

高市氏は自民党総裁に選ばれる前は日銀の利上げを牽制する発言をしていたが、今は鳴りを潜めている。日銀の植田総裁(写真)は利上げに動くか注目だ
実際には、小幅の利上げが実体経済に与える影響はごく小さい。現在の政策金利は0.5%だが、1%程度に到達するまでは物価や為替、株式への影響もあまりないだろうというのが藤代氏の読みだ。
ということはこのまま、物価高にも景気にも中途半端な政策が続いていくということか!?
ここで前出の広木氏は、高市氏の経済政策は中長期的な時間軸で評価すべきだと強調する。
「高市氏の政策スタンスは、短期的な物価高の先にフォーカスを合わせているんです。それは日本を成長軌道に乗せることと、結果として物価高に負けないように、賃金を上げていくこと。つまり、実質賃金上昇こそが彼女の考えの核心なのです」
先に解説した高市新政権の物価高対策について、異論が出ているのは確かだ。目下のインフレは円安による輸入物価の高騰が引き起こしており、減税や交付金は円安対策にならないばかりか、お金の巡りを良くして、むしろ物価上昇に弾みをつけてしまうのでないか、と。
ところが、こんな懸念を広木氏は一蹴する。
「物価を無理やり下げる政策を取らないことで、高市氏は成長の芽を摘む愚を犯さずに済むでしょう。むしろアベノミクスでおざなりになっていた成長戦略こそが、高市新政権の看板になるんですよ」
高市政権の経済政策は、長期的には期待できるということだ。
日経平均は7万円にとなれば知りたくなるのが、新政権による成長戦略の中身だ。広木氏には、政策メニューから注目の業種を挙げてもらった。
「高市新政権が実質賃金上昇を実現するには、とにかく生産性を上げる必要があります。その実現にはAIの活用が不可欠。情報処理だけでなく、物理的な動作を伴う『フィジカルAI』の社会実装を推進するでしょう」
フィジカルAIについては、わかりやすい例として自動運転車を思い起こしてほしい。センサーやカメラを通じて、現実の街や道路、対面車両、通行者などの情報を認識して、自律的に走行する。この一連の技術がフィジカルAIだ。
製造業や介護などの現場で、AIを搭載したロボットがリアルタイムに情報を取り込み、最適な行動を取っていく時代がそこまで来ていると広木氏は言う。
「フィジカルAIの普及が本格化すれば、その目となり耳となるカメラやセンサーといった電子部品分野に強い日本には追い風。ほかには地政学的な対応という面で、防衛やネット上の情報を守るサイバーセキュリティにも力を入れると思いますし、エネルギー政策も重要。核融合発電や原発も推進を図るでしょう」


一方、平野氏は成長路線による内需拡大に期待する。
「とにかく国内の景気を良くして、賃金上昇につながる政策を総動員するはず。生活インフラ更新などの公共投資は拡大に向かうはずで、その景気でモノや人が動けば、お金と土地まで動き出します。
つまり建設業と銀行、不動産が有望。さらに、好景気を追い風に企業が収益力増強や省力化の投資を加速させる可能性が高いので、DXやオートメーション化も進むと思います」
平野・広木の両氏が挙げてくれたテーマに関連する銘柄を表にまとめた。続けて平野氏は、日本株の本格上昇はこれからだと強調する。
「日経平均は5万円を突破し、投資家の中ではバブルを懸念する声も聞かれます。でも、それは杞憂に過ぎません。むしろ、日本企業が長年の努力で変革を遂げた姿が、やっと国内外の投資家に正当に評価され始めたのです」
どういうことか。
「政府と東京証券取引所(東証)の旗振りの下、日本企業はこの10年、収益力の増強、配当や自社株買いといった株主重視の姿勢など、経営力の強化に努めてきました。ようやくその成果が認められ、日本の株式市場に資金が戻ってきたのです。
詳しい計算は省きますが、日本株が米国株並みに評価されれば、日経平均は7万円になります。つまり、今の株価は決してバブルではないんです」
どうやら、株価と生活実感の乖離は今後ますます拡大しそうで、「株高不況」の痛みは治まりそうにない。とはいえ広木氏の論によれば、これも必要な〝成長痛〟ということ。痛みの割に合うほどの成長がきちんと果たせるかどうかが、高市新政権の真価を問う論点になりそうだ。
取材・文/日野秀規 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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