「各人が最高のエロコンテンツを量産すれば孤独も減らせるかも!」驚異の動画生成AI『Sora2』が示した近未来
イチオシスト

米OpenAIがAI動画生成アプリ『Sora2』を9月30日に公開すると、世界中でSNSに生成動画が投稿され、お祭り騒ぎに
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「動画生成AI」について。
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動画生成AIとしてOpenAIの『Sora2』、Googleの『Veo3』が立て続けに発表された。
すさまじい。数行のプロンプトだけで見事な動画が生成できる。現実との区別がつかない。現在は判別できるよう透かしが入っているものの、おそらく全人類は動画を見るたびに疑う習慣をもつ。認知論的イベントというべき出来事だ。
話を変えるようだが、10年ほど前にミャンマーに行った。そのころスマートフォンが普及し、新興国では大衆がこれまで確認できなかった海外ニュースにアクセスでき、革命が起きるといわれた。
しかし現地で見たのは、若者がFacebookに熱心で、他愛もない投稿に「いいね」したり、恋愛ネタで盛り上がったりするさまだった。ああ人間ってこんなもんなのね、と感じた。
話を戻す。SNSで拡散された最新のAI生成動画を見ると、ありえないシチュエーションのジョーク動画が多い。人類は先端のテクノロジーを使い、大量の電力を消費して、非生産的な活動に興じるのだった。
ただ看過できない問題もはらむ。これだけ知的財産の問題が叫ばれる中、ドラゴンボールの孫悟空、ポケットモンスターのピカチュウ、ハリウッドの有名俳優......としか思えない多数の動画が投稿された。
日本をふくむ各国からただちに抗議が巻き起こり、OpenAIは制限を設けることにした。当然だろう。
しかし私の関心はその先にある。著作権・肖像権侵害はご法度という前提のもと、全人類がツールを得て、動画製作が民主化するとの解釈もできる。脅威を感じる職業人は当然いるが、トータルでは人類の創造性を解放するのだ、と。
19世紀にフランスの詩人シャルル・ボードレールは、写真を「芸術の最大の敵」と呼んだ。機械が自然をコピーするだけだ、と。
実際には、写真は新たな芸術分野として確立し、また写真へのカウンターとして印象派といった芸術運動をも触発した。
あるいは家庭用ビデオデッキが誕生したとき、映画業界はパニックに陥った。著作権の侵害によって映画産業が死滅するとした。しかし裁判でビデオデッキが認められると、良画質で、追加映像まで収められる家庭用ソフトはむしろ映画産業のあらたな収入源となった。
Sora2が映像クリエイターの地位を脅かすとの議論がある。
実際、ニューヨークではAIが生成した短編映画の上映イベントが実施された。音楽制作の現場ではリズムマシンが登場した際、ドラマーの組合から反対の声が上がったが、歴史は繰り返す。
CG製作は外注からAI生成に切り替わっていくだろう。無数の素人クリエイターも参入する。消費者からすれば、良ければなんでもいい。
企業はマーケティングにおけるA/Bテストを即実施でき、顧客ごとにパーソナライズされた数百の動画を作製できる。多言語で従業員教育コンテンツを作製可能なので、世界展開できる企業も増えるだろう。各人が最高のエロコンテンツを量産すれば孤独も減らせるかもしれない。
著作権侵害はダメ。だけど「表現の自由」の次が「表現の無限」というのは面白い。全員が映画監督になった世界で、誰も観客になりたがらない現象が起きるかもしれない。それは「人間的、あまりに人間的」な状況だと私は思う。
写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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