【東映チャンネル】横溝正史の金田一耕助スペシャル・幻の作品「惡魔が来りて笛を吹く」など、金田一耕助映画の源流がわかる大特集!

推理作家・横溝正史が1946年に生み出した、日本を代表する名探偵・金田一耕助。以来約80年、彼が活躍する小説は、数多くの映画やテレビで映像化されてきた。11月の【東映チャンネル】では、2024年2月にフィルムが発見された幻の映画、1954年版「惡魔が来りて笛を吹く」の初放送をはじめ、片岡千惠蔵が金田一を演じた作品4本に、高倉健や西田敏行が主演した2本の作品を含め、【横溝正史の金田一耕助スペシャル】と題して、6作品を放送する。
原作のイメージとは違った、スーツ姿の金田一耕助が活躍

これまでに作られた金田一映画は、大きく二つのタイプに分けられる。一つは「犬神家の一族」(1976年)に始まる、市川崑監督&主演の石坂浩二が作り上げた、ヨレヨレの着物と袴を身に着け、もじゃもじゃ頭でフケをまき散らすといった原作の描写に近い金田一耕助。以降の作品は何本かの例外はあるが、ほぼヴィジュアルイメージは石坂金田一の影響下にある。
もう一つのタイプは初代・金田一耕助俳優の片岡千惠蔵が登場した1947年から、高倉健主演の「悪魔の手毬唄」(1961年)に至る、現代的なスーツ姿の金田一。千惠蔵や高倉健の東映作品以外でも、この間に作られた映画では、金田一耕助はスーツ姿で現れる。このことは最初に演じた片岡千惠蔵のイメージが、いかに強かったかがよくわかる。今回の特集は、石坂浩二スタイルを踏襲した西田敏行の金田一が登場する「悪魔が来りて笛を吹く」(1979年)を除いて、こちらのタイプの金田一映画だ。
「多羅尾伴内」のスタイルを取り入れた初代の金田一耕助

では、なぜ原作とは見た目が違う金田一耕助が生まれたのか。片岡千惠蔵が金田一を演じた作品は7本。今回の特集ではフィルムが現存する、『本陣殺人事件』を原作とする「三本指の男」(1947年)、1949年に公開された「獄門島」と「獄門島 解明篇」を102分に再編集した「獄門島 総集篇」(1950年)、「惡魔が来りて笛を吹く」(1954年)、「三つ首塔」(1956年)のシリーズ4作品が放送される。「三つ首塔」以外は松田定次監督、比佐芳武脚本で、これに主演の千惠蔵を加えたトリオは、1946年から「多羅尾伴内」シリーズを作って人気を得ていた。元義賊で変装が得意な名探偵・多羅尾伴内が活躍するこのシリーズは、千惠蔵の七変化が見どころのアクション主体の作品。ミステリ好きだった比佐芳武は、雑誌に発表されたばかりの『本陣殺人事件』を読み、このトリオで今度は本格推理物が作れると映像化権の獲得に乗り出した。
そして「多羅尾伴内」のミステリ版、「金田一耕助」シリーズが生まれた。それだけに二つのシリーズには、いくつか共通点がある。最初の「三本指の男」で金田一と知り合った白木静子(最初に演じたのは原節子)は、その後も彼の助手として登場。また千恵蔵の金田一は拳銃を携帯していて、時には悪党に発砲することもある。「多羅尾伴内」にも美人の助手がいて、主人公は二丁拳銃の名手である。しかし物語の設定や事件の展開はかなり原作を尊重していて、千恵蔵の金田一は「多羅尾伴内」と『横溝正史ワールド』のハイブリッド作品と言える。また脚本家の比佐芳武は意図的に原作と犯人を変更していて、どの映画も最後に原作ファンが驚く大どんでん返しが待っている。
原作とは犯人が違う、映画独自のミステリ!

1954年版「惡魔が来りて笛を吹く」を例にとると、宝石商で起きた毒殺事件の犯人と疑われた椿元子爵が自殺。しかし彼の妻が彼とそっくりの人物を目撃し、金田一に調査の依頼が来る。そこからの展開は砂占いで現れる『悪魔の紋章』のトリック、密室殺人、事件のカギを握る神戸での惨劇など、基本的には原作に近い。神戸で金田一が殺された尼のことを説明するシーンで音声が飛ぶ部分があるが、同じ原作を映画化した西田敏行主演版も合わせて観れば、人物関係に戸惑うことはないだろう。ただラストは、原作と別の真犯人にたどり着く。『呪われた血』がテーマの原作とは犯人の動機が別で、西田敏行版と比べると作品全体の印象が違っていて面白い。
千惠蔵のシリーズが終了してから6年後に作られた「悪魔の手毬唄」(1961年)には、サングラスをかけてジャケット姿の、スポーツカーを運転する高倉健の金田一が登場。しかも彼は『警視庁嘱託』の探偵で、連続殺人のヒントとなる手毬唄は、ラジオから流れる流行歌にアレンジされている。ヴィジュアルも含めた現代的な金田一のイメージや、犯人を原作と変更していることなど、これは初代・千惠蔵のシリーズを踏襲した作品だ。
GHQの下で作られた、初期のシリーズ2作品

もう一つ注目してほしいのが、「三本指の男」と「獄門島 総集篇」。当時の日本は連合国軍の占領下で、千惠蔵は時代劇の製作をGHQに禁じられたために、〝多羅尾伴内〟や〝金田一耕助〟など現代劇のヒーロー役に、自分の活路を求めた。さらにこの2本では、閉鎖的な田舎で連続殺人が起こる。その調査に乗り出すのは、アメリカ帰り(原作の金田一もアメリカ滞在の過去がある)の颯爽とした探偵だ。日本の封建的な社会が遠因になっている陰惨な事件を、アメリカナイズされた名探偵が解決する。その対比に、作り手は新時代のミステリ映画を見つけようとしたのではないか。つまり金田一のスーツ姿は、時代が求めたヴィジュアルイメージでもあったのだ。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社 制作部・山田
(「キネマ旬報」2025年11月号より転載)
● 東映チャンネル【横溝正史の金田一耕助スペシャル】
「惡魔が来りて笛を吹く」(1954)※TV初、東映チャンネル初
放送日時11/2㊐20:30-22:00、11/11㊋24:00-25:30、11/15㊏11:00-12:30、11/29㊏17:30-19:00
1954年/81分/白黒
監督:松田定次 脚本:比佐芳武
出演:片岡千惠蔵/三浦光子/千原しのぶ/杉葉子/喜多川千鶴/原健策/加賀邦男/佐々木孝丸
◎片岡千恵蔵が金田一耕助を演じるシリーズ第4作。長らくフィルムが所在不明となっていた幻の作品。事件の発端は昭和25年1月に起きた天銀堂の大量毒殺事件。当時、捜査ので容疑者の一人としてあがった元子爵の椿英輔は三カ月後に自殺。その後、金田一耕助の前に椿の令嬢美弥子が現れ……。
「悪魔が来りて笛を吹く」(1979)
放送日時11/2㊐18:00-20:30、29日㊏15:00-17:30
1979年/136分/カラー
監督:斎藤光正 脚本:野上龍雄
出演:西田敏行/夏木勲/宮内淳/斉藤とも子/鰐淵晴子/池波志乃/梅宮辰夫/浜木綿子
◎本作での名探偵・金田一耕助は西田敏行。舞台は昭和22年、「父はこれ以上の屈辱に耐えていくことができない。ああ、悪魔が来りて笛を吹く」と謎の遺書を遺して椿英輔子爵が失踪。それを境に、椿邸では謎の人物が吹くフルートの音とともに次々と奇怪な殺人事件が発生する。
「悪魔の手毬唄」
放送日時11/3㊊21:30-23:00、11/13㊍18:00-19:30、11/21㊎13:30-15:00、11/29㊏19:00-20:30
1961年/85分/白黒
監督:渡辺邦男 脚本:渡辺邦男/結束信二
出演:高倉健/北原しげみ/小野透/大村文武/八代万智子/山本麟一/永田靖/神田隆
◎横溝正史の原作を、高倉健の金田一耕助で映画化したミステリ。流行歌手の和泉須磨子が、帰郷の途上、何者かによって惨殺された。死体のかたわらのトランジスタ・ラジオからは彼女の新曲〈鬼首村手毬唄〉が流れていた。この殺人事件解決のため、鬼塚村に現れたのは名探偵金田一耕助だった。
「三本指の男」 ※ソフト未発売
放送日時11月2㊐22:00-23:30、14日㊎13:30-15:00、30日㊐15:00-16:30
1947年/73分/白黒
監督:松田定次 脚本:比佐芳武
出演:片岡千惠蔵/原節子/杉村春子/風見章子/宮口精二/賀原夏子/三津田健
◎名探偵・金田一耕助がスクリーンに初めて出た作品。原作は『本陣殺人事件』。謎の「三本指の男」から、縁談を邪魔しようとする脅迫状が届くが、強気の新郎は挙式を強行。やがて、新郎新婦の眠る離れで二人の惨殺死体と金屏風に血染めの三本指の手形が残される。
「獄門島 総集篇」 ※ソフト未発売
放送日時11/3㊊18:00-20:00、11/16㊐22:30-24:30、11/30㊐16:30-18:301950年/102分/白黒
監督:松田定次 脚本:比佐芳武
出演:片岡千恵蔵/喜多川千鶴/三宅邦子/小杉勇/大友柳太朗/斎藤達雄/千石規子
◎名探偵・金田一耕助を片岡千惠蔵が、金田一の良き相棒といえる磯川警部に大友柳太朗が扮している。獄門島という瀬戸内海の孤島を舞台に、旧い因習によって三姉妹が次々と殺されていく事件の謎に金田一が挑む。
「三つ首塔」 ※ソフト未発売
放送日時11/3㊊20:00-21:30、11/19㊌13:30-15:00、11/30㊐18:30-20:00
1956年/83分/白黒
監督:小林恒夫/小沢茂弘 脚本:比佐芳武
出演:片岡千恵蔵/高千穂ひづる/南原伸二/中原ひとみ
◎片岡千惠蔵主演の金田一耕助シリーズ第7作。9年にわたるシリーズの最終作。怪奇な伝説を秘める三つ首塔と、10億円の遺産相続をめぐる連続殺人事件とが交錯する中で、金田一耕助と助手の白木静子は、事件の真相へと近付いていく……。
放送日時の詳細は東映チャンネルの公式HP をご覧ください!
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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