往復ほぼ3万円! 不安すぎる「激安中華系航空」タイ・バンコク便搭乗記
復路の上海-成田便はバスによる搭乗。通常、日本では大型機へのバスを使った搭乗はありえない
円安と航空運賃の高騰で高根の花となりつつある海外旅行。かつて"良コスパ"で人気を集めたタイ・バンコクでさえ日本の航空会社では往復10万円超えも珍しくない。
しかし、そんな状況にあって機内食や預け入れ荷物も無料で「往復ほぼ3万円」という破格の航空券が存在した。不安と期待が入り交じる中、実際に激安中華系航空のバンコク便に搭乗し、その実態に迫った。
■謎の激安中華系航空券円安と航空運賃の高騰で、海外旅行のハードルが高くなったことは、改めて言うまでもないだろう。
かつては「安・近・短」の代表的な渡航先で、JALやANAなど日本のフルサービス航空会社(FSC)を使っても5万~6万円ほどで往復できたタイ・バンコクも、今や両社とも10万円超が珍しくない。タイムセールなどを活用しても、7万円台を割るのは難しい状況だ。
また、バンコクに向けては国内外の格安航空会社(LCC)も飛んでいるが、その往復運賃は機内食などオプションをすべて省いても4万円台がやっと。荷物を預ければたいてい5万円をオーバーする。
そんな中、バンコクまで「ほぼ3万円」で往復できる航空会社が複数ある。しかも機内食や荷物の預け入れも無料のFSCというから驚きだ。
その実態を探るべく、8月中旬、航空券の価格比較サイトにアクセスし、9月中の東京-バンコクの往復運賃を調べてみた。日程により最安値に高低はあるものの、安い時期には確かに「ほぼ3万円」の運賃がズラリと並ぶ!
これらを運行するのは、中国東方航空など、中国資本のFSCだ。日程によりどこが最安かは変わるものの、他国の追随を許さない運賃水準だ。
しかも、日本の航空会社の運賃が一気にハネ上がる3連休や飛び石連休でも、その値上がり幅はわずか。
いずれの便も、北京や上海、広州など、中国国内での乗り継ぎが必要で、直行便より時間はかかるが、それでもこの安さは魅力的だ。
しかし、なぜこれほどまでに安いのか。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は、その背景として中国国内での航空会社同士の競争を指摘する。
「中国市場では、中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空の三大キャリアが激しく争っています。この3社は自社勢力の拡大を目指し、国内外に多数の便を飛ばしていますが、その一部には座席が供給過剰となる路線もある。
そうした路線の座席を埋めるべく、ほぼ利益なしでも、このような『中国国内で乗り継ぐ国際線運賃』を低廉な価格で提供しているのでしょう」
利用に当たって気をつけることはないのだろうか。
「最大のリスクは乗り継ぎです。主な乗り継ぎ空港となる北京、上海、広州などは規模が大きく、乗り継ぎに際して厳しい保安検査がある。1時間半程度の乗り継ぎ時間ではリスクが高い。
遅延などで乗り継げなかった場合、乗り継ぎ旅程を含んで発券された航空券であれば、航空会社は後続便に振り替えてくれますが、後続便が満席だと翌日の便になることもある。そうなると、短期の旅行では予定が大幅に狂います。
そうした事態に備え、より早く目的地に着ける代替便への振り替えなどを航空会社と交渉できる英語力があることが望ましいでしょうね」
カラクリの大筋はわかっても正直不安が大きい激安中華FSCの航空券。これで旅をするとどうなるのか......。
それを確かめるべく、9月上旬に実際に東京とバンコクを往復することにした。
航空券は、価格比較サイトやOTA(オンライン旅行代理店)のサイトをチェックし、最終的にOTA大手「トリップドットコム」で中国東方航空の航空券を購入した。
利用便は鳥海氏のアドバイスに従い、乗り継ぎ時間は4~5時間と余裕を持ったスケジュールとした。どちらも上海経由で成田空港とバンコクのスワンナプーム空港を往復。サーチャージや手数料込みで3万180円という破格だ。
往路は朝10時55分発。都内の自宅を朝イチに出れば大丈夫で、定刻どおりならバンコクで遅くなりすぎない時刻にホテルに着く。
復路は現地時間22時前にバンコク発、真夜中の上海浦東国際空港に到着。そこで翌朝まで5時間出発待ちという長時間の乗り継ぎが懸念点だが、成田着は昼12時50分と、移動に不自由のない時間帯だ。
航空券の発券後、中国東方航空の日本版サイトでオンラインチェックイン。事前座席指定も完了して、あとは出発当日を待つのみだ。
支払額3万180円のうち、運賃部分はわずか7940円。どうやって利益を出しているのか不思議だ
出発当日の朝8時、成田空港着。中国東方航空は、オンラインチェックイン済みでも搭乗券を受け取る必要があるためカウンターへ。
カウンター前にはすでに多くの人が並んでいたが、「オンラインチェックイン済み」の列にはほんの数人だけ。カウンターが開いたのは8時15分で、数分後には荷物を預け、搭乗券を受け取れた。
成田空港でのチェックイン待ちの列。オンラインチェックイン済みの列はスムーズだった
搭乗した機材はエアバスA321-200で、エコノミークラスのシートは、最近のJALやANAほどの広さはないが、一部のLCCのように膝がつかえる狭さではない。ただ、個人用モニターなどの設備はない。
出発はほぼ定刻。機内食はビーフとチキンから選択可能で、筆者はチキンを選択。十分においしかったが、一緒に頼んだビールがまったく冷えていなかったのは残念だ。
成田-上海での機内食。予想よりも味は上々、しかし一緒に頼んだビールはぬるくて興ざめ
往路の上海行き搭乗機の足元。筆者は身長170㎝だが足を組む余裕はない。バンコク行きはさらに狭い
上海には定刻より30分ほど早く到着。標識の案内に従い、途中ターミナル内シャトルへの乗車も交えて進むと、迷うことなく乗り継ぎ保安検査場に着くことができた。
だが手荷物のチェックが厳しく、時間がかかる。自分の前にいた同便で到着した日本人男性は、モバイルバッテリーについてあれこれ聞かれ、最終的にはその場で放棄した。
自分のモバイルバッテリーもスペックを慎重に確認され、持ち込みOKとなる。小容量であれば問題ないようだ。
上海浦東空港での乗り継ぎには保安検査が必要。モバイルバッテリーは容量が160Wh以上のもの、不明なものはいや応なく没収されてしまうので要注意
バッテリー持ち込みは審査が厳しいという情報を得ていたのでテープで端子を絶縁し、ジッパーバッグに入れて機内へ持ち込み
上海浦東国際空港のフリーWi-Fiはこの端末でパスポートでの認証が必要。プライバシーの観点から利用はやや不安なのが正直なところだ
上海からバンコクまでは、上海航空の運航によるコードシェア便となる。機材はボーイング737-800で、成田からの機材よりもシートピッチがさらに狭い。
3人がけの通路側席を事前指定できた自分はそこまでつらくなかったが、平均的な身長の男性でも、ひとり旅で窓側席か中央席となると、かなり窮屈に感じるだろう。
そしてこの機体にも個人用モニターはない。4時間超のフライトだけに、せめてフライトマップで現在地を確認したいが、天井備えつけの共用モニターも、中国の観光プロモーションなどを映すだけで、現在地の手がかりは皆無。
着陸40分前の降下に際してのアナウンスで、ようやくバンコクまでの距離が把握できた。
バンコクでは預け入れた手荷物の受け取りに時間がかかったが、ロストせず無事受領。往路は順調な旅程だった。
■問題はやはり乗り継ぎリスク?帰国日の昼前、スマホに着信履歴があることに気づく。発信元は航空券を購入したトリップドットコムだ。
続いて中国東方航空からもメールが届く。「悪天候に伴う時間調整のため、出発が1時間遅れる」とのこと。先の電話も同じ内容だろう。
メールには追加費用なしでの払い戻し、時刻変更も可能とあったが、上海での乗り継ぎ時間には余裕があり、出発遅れで乗り継ぎの待ち時間が短くなれば逆に歓迎だ。よって予定どおりの便に搭乗。
出発は遅れるものの、チェックイン時刻は同じということで、スワンナプーム空港に19時半に到着。カウンターで荷物を預ける際、「搭乗は22時15分から」と案内を受ける。
上海までの便は深夜便で、機内食は出ない。そこでターミナル1Fのフードコートで腹ごしらえする。ここは空港ながら、市価に近い値段でローカル料理が楽しめる穴場だ。
おなかを満たした後、出国審査を受け、免税店などを回りながら搭乗ゲートに向かう。
ボーディングブリッジには乗るべき飛行機が着いている。往路に上海-バンコクで乗った便の折り返しとなるボーイング737-800だ。
ただ、カウンターで案内された22時15分はおろか、23時を過ぎても搭乗が始まる気配はない。そして「準備ができ次第、搭乗開始です」とだけ、案内がある。結局、搭乗開始は23時30分、飛行機が飛び立ったのは0時30分と、2時間半もの大幅遅延だった。
バンコク-上海便では、規定以上の手荷物を持ち込む乗客が多い。すぐそばに荷物を収めるには、早めの搭乗が必須
上海での降機は5時30分。ただ、成田行きの出発は9時5分なので時間はある。往路と同じくシャトルで移動して、乗り継ぎ保安検査場で厳しいチェックを受け、出発ロビーに出たのが6時30分だった。
ベンチに座ってスマホにダウンロードしておいた動画を見ているうちに搭乗時刻となる。成田までの機材は大型機のエアバスA380-900だ。
こちらのシートピッチはかなり余裕があり、JALやANAと比べても遜色ない。個人用モニターもある。ただ、動画コンテンツは中国語と英語のみ。日本語字幕はない。
上海-成田便の機内には、個人用モニターがあり、エンタメもあった。ただコンテンツは中国語と英語のみとなっている
そして9時10分、機体はほぼ定刻に動き出すが、ここで事件が発生。中国語のアナウンスの後、自分の横を通り過ぎて機内後方に急ぐ複数のCA。何かと振り返ったら、白人女性が座席で激しく痙攣している!
機体は誘導路上で止まり、中国語と英語で「お客さまの中にお医者さまは......」のアナウンスが流れ、そばの座席にいた乗客が「私、看護師です」と手を挙げるという、テレビドラマのような展開。
白人女性は機内後方に運ばれ、「医師が乗り込んで診察する」と改めてアナウンスがある。医師の診察後、その女性は同行者と共に降機。再出発の時刻は11時を回っていた。
以降は順調な飛行で、機内食と共に頼んだビールも、今度はしっかり冷えていた!
そして成田空港へはスケジュールより3時間ほど遅れた15時50分に到着。預け入れた手荷物も問題なく受領、不安だった「成田-バンコクほぼ3万円の旅」は終了した。
■細かいストレスを無視できればアリ!?さて今回の旅を振り返って、果たして「中華FSCでの激安バンコク旅」はアリなのか。
結論を先に言えば、「条件付きでアリ」だと思う。
機材によってシートは狭く、エンタメ設備もないが、それでも機内食は(深夜便を除き)無料提供されるし、飲み物もいつでも頼める。
乗り継ぎは面倒だが、バンコクまでLCCの狭いシートで、しかもより高い運賃を払って移動することを考えたら、中華FSCのアドバンテージは十分にある。
もちろん、利用に当たり、細かいストレスがたまるのは避けられない。
搭乗待ちの列に並んでいても、当たり前のように割り込んでくる乗客がいる。機内に規定以上の荷物を持ち込む乗客が多いため、搭乗で出遅れると自分の座席周辺の荷物棚はすべて満杯になる。
航空機が着陸し機体が停止すると、CAのアナウンス前に多くの乗客がわれ先にと立ち上がり、収納棚から荷物を下ろし、無秩序状態で出口に進み始める。
今回のように大幅な遅れがあっても、細かい案内がないのもストレスだ。
また、機内エンタメがほぼないこと、上海の空港では無料Wi-Fiの利用にパスポートでの認証が必要、かつ閲覧できないサイトがあることなどを考えると、スマホに動画をダウンロードしておくなど、暇潰しの策も必要だろう。
そして今回は天候と急病人という、航空会社に責任のないところでの大幅遅延となったが、やはり乗り継ぎ便は、直行便に比べ遅延リスクが増えると感じた。
往路復路とも、乗り継ぎ保安検査場を抜けて出発ロビーまで、かかった時間は降機からほぼ1時間。やはり乗り継ぎ時間が1時間半では定刻どおりの到着でもかなりギリギリ。遅延への保険をかけるなら3時間は欲しい。
遅延で予定どおりに乗り継げないことも考慮すると、「バンコクで2泊」といった超短期スケジュールで利用するのは避けたほうがよさそうだ。
なお、この「往復3万円」運賃がいつまで続くかは不明だ。「安くバンコクを楽しみたい」「飛行機の運賃を抑え、豪華なホテルに泊まりたい」なら、今がチャンスかも。
取材・文・撮影/植村祐介
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