「オオカミの家」の鬼才コンビ、レオン&コシーニャが贈る第2弾「ハイパーボリア人」が 待望のBlu-rayリリース!
長篇第1作「オオカミの家」(2018年)が第68回ベルリン国際映画祭でカリガリ映画賞を受賞し、日本でも大ヒットした、チリが生んだストップモーション・アニメーションの鬼才コンビ、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ監督。彼らの長篇第2作「ハイパーボリア人」(2024年)のBlu-rayが、9月10日にリリースされた。
女優の心理学者が辿る、さまざまな世界への大冒険
前作はストップモーション・アニメーションによる、ホラーとフェアリーテイルを融合させた作品だったが、今回は実写、影絵、アニメーション、人形、ゲーム、16ミリフィルムを全体にちりばめた、実験的な映画。第77回カンヌ国際映画祭の監督週間で初お披露目されて話題を集めた。
物語は、女優で臨床心理学者のアントーニア・ギーセンが、謎の幻聴に悩まされる男性の患者の訪問を受けたことから始まる。彼女が患者の話を友人の映画監督レオン&コシーニャに話すと、二人は幻聴がチリの外交官にして詩人のミゲル・セラーノの言葉だと気付き、それを元にアントーニア主演で映画を作ろうと提案する。
撮影が始まると、最初はヒトラーの信奉者だったミゲル・セラーノの人生が延々と綴られ、これにアントーニアが監督たちに文句を言うと、今度は彼女の前に政治家ハイメ・グスマンが現れて彼から指令が届き、失われた映画のフィルムを探せと言われる。フィルムを探してアントーニアがゲームの世界『パワーホール』に入り込むと、そこには可愛い鹿の姿をしたアバターのアラセリや、彼女の患者である幻聴を聞いた男がいた。そして彼らとの出会いによってアントーニアは南極の氷の下にある空洞地球へと入って行くことになる。このようにアントーニアの現実と精神世界、ゲームの世界を駆け巡る冒険を、レオン&コシーニャ監督は、さまざまな手法を駆使して描いている。
チリの現代史の暗部を絡めた、独自の世界観が魅力的!
「オオカミの家」はチリのピノチェト政権下に実在した、ドイツ移民が作った教団『コロニア・ディグニダ』にインスパイアされたダーク・ファンタジーだったが、今回もチリの現代史が作品の背景に色濃く反映されている。ミゲル・セラーノ(1917~2009年)はヒトラーは神の化身で、ベルリンで死なず、南極で生きていると唱えた実在の人物だし、映画の中では秘密警察の長官のような雰囲気を漂わすハイメ・グスマン(1946~1991年)も、ピノチェトの政権下で憲法の制定に尽力するなど、軍事独裁政権の精神的な支柱の一人だった。過去にチリを覆った彼らの偏った思想と、氷河期の前に地球を支配していて、その後は南極の氷の下にいるという伝説の巨人・ハイパーボリア人の存在をつなげて、独自の世界を構築している。
勿論チリの現代史を知らなくても、アントーニアの冒険談として楽しめるようになっていて、アーティスティックで実験的、社会性も帯びながら、語り口はエンタメ作品なので難解ではない。突然人形の姿で登場するレオン&コシーニャコンビの、傲慢な悪役ぶりがおかしいし、やたらとアントーニアに親切な鹿のアラセリも印象的。またアントーニアは同名の女優が演じているが、フィルム探しの任務を遂行しながら、一方では寝たきりの両親の世話をするために、必ず家に帰るエピソードが挟まれるのが異色。物語の主人公でありながら、親の介護をする娘であるところに、現実とフィクションが交錯する作品の不思議な魅力がある。
監督コンビの短編作品も特典映像として収録
今回発売されるBlu-rayには、各種予告篇が特典映像で付くのをはじめ、日本公開時に併映された短編アニメーション「名前のノート」(2023年)とそのメイキング映像を収録。「名前のノート」では、ピノチェト政権下で捕らえられ、行方不明にになった未成年者たちのことを嘆く、母親のモノローグがアニメーションと共に綴られる。消えた未成年者の名前が次々に読み上げられるラストが、切ない余韻を残す作品になっている。また初回限定特典として、公開時に劇場で販売されたものとは別バージョンのアセラリのアクリル・スタンドが付いてくる。こちらもレオン&コシーニャ作品のファンには、嬉しい特典だ。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
「ハイパーボリア人」
●9月10日(水)Blu-ray発売
Blu-rayの詳細情報はこちら
●Blu-ray 価格:7,480円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+特典映像
★特典映像★
・劇場公開時に同時上映された両監督のアニメーション短編「名前のノート」
・「名前のノート」メイキング映像
・各種予告篇
★封入特典★
・解説ブックレット
★初回限定特典★
・アラセリ(劇中に出てくるアバター鹿) アクリル・スタンド( *公開劇場で物販されたものとは別バージョン)
●2024年/チリ/本編71分+特典約18分
●監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
●脚本:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ、アレハンドラ・モファット
●出演:アントーニア・ギーセン、フランシスコ・ビセラル・リベラ
●発売元:WOWOWプラス 販売元:TCエンタテインメント
© Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films
記事提供元:キネマ旬報WEB
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