映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「海辺へ行く道」
アートという海へ、一筋縄ではいかない道を探す
海辺へ行くのは簡単だ。坂道を曲がりながら下ればいい。そこはアーティスト移住支援を掲げた街。怪しげなアーティストたちをはじめ、さまざまな大人と子どもが暮らしているが、詐欺師や借金取りも現れて何やらおかしなことに——。三好銀の同名コミックを映画化した「海辺へ行く道」は、出会いと冒険、コメディとサスペンスを混ぜ合わせた夏色をスクリーンに塗っていく。
主人公は14歳の奏介(原田琥之佑)で、美術部員なのに演劇部のために絵を描き、新聞部のために取材する。そんな漂流ぶりが物語の基調色となるようだ。彼の美術仲間(蒼井旬)は制作のさなか、「ミメーシス」と口にする。「模倣」を意味する語で、現実の再創造というべきアートにつきまとう概念。ここから映画の底流では、ミメーシスをめぐる考察が進むのだろうと観る側は直感する……。もちろん過度の〝絵解き〞は禁物で、何よりもまず、興味深い登場人物たちに目を奪われていくことに。新たに町へやってきたアーティスト(村上淳)、彼に家を紹介する不動産業者(剛力彩芽)、そしてアーティストを追う借金取り(菅原小春)。アーティストと恋仲になった不動産業者は、借金取りを逃れるための奇策を思いつく。それは、三次元空間を二次元で偽装する「騙し絵」を使った手口なのだが、ここでミメーシスつまり模倣というテーマが頭をもたげるようだ。さらに言えば、それを二次元のスクリーンで追う観客は、いったいどんな次元に接しているのか? 横浜聡子監督の映画世界に楽しく翻弄される。
第75回ベルリン国際映画祭では、子ども映画が対象となるジェネレーションKplus部門で特別表彰されている。さて、子どもたちはどんな次元を通ってアートの海へ行くのか。
文=広岡歩 制作=キネマ旬報社(『キネマ旬報』2025年8月号より転載)
「海辺へ行く道」
【あらすじ】
アーティスト移住支援を掲げたのどかな海辺の街。14歳の美術部員・奏介と仲間たちは、夏休みにもかかわらず演劇部や新聞部の手伝いで忙しい。周辺には何やら怪しげな“アーティスト”たちがウロウロしている。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が次々と舞い込み、それぞれ秘密を抱えた大人たちを伴った思いがけない物語が始まる──。
【STAFF & CAST】
監督:横浜聡子
出演:原田琥之佑、麻生久美子、高良健吾、唐田えりか、剛力彩芽、菅原小春 ほか
配給:東京テアトル、ヨアケ
2025年/日本/140分/Gマーク
8月29日より全国にて順次公開
©2025 映画『海辺へ行く道』製作委員会
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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