柏の地で愛されるミニシアター・キネマ旬報シアターが閉館の危機。クラウドファンディングに最後の望みを繋ぐ
近年、ミニシアターの閉館が相次いでいる。2022年には岩波ホールや飯田橋ギンレイホールが、その後も京都みなみ会館やチネ・ラヴィータ、また先日は、新宿シネマカリテが2026年1月での閉館を発表した。
そしてまたひとつ、閉館の危機に追い込まれているミニシアターがある。
千葉県柏市にある〈キネマ旬報シアター〉だ。2013年のオープンから、映画雑誌『キネマ旬報』のカラーをいかした編成で、数多くの作品をラインナップしてきたが、基幹設備の老朽化などにより、閉館の危機に追い込まれている。悩み抜いた末、今回、映画館継続のためにクラウドファンディングを始める決断をしたという、支配人に話を伺った。
キネマ旬報が映画館を始めたきっかけと今回のクラウドファンディングに至った経緯と思い
──キネマ旬報シアターをオープンしたのが2013年2月、時代的には映画館のシネコン化が急激に加速してきたタイミングだと思います。1980年代から2000年くらいにかけて起こったミニシアターブームに徐々に翳りが見え始めて、上映機材のデジタル化も進み、拡大するシネコンに対して、閉館する単館が目立つようになってきていました。
キネマ旬報は、雑誌として様々な視点から数多くの作品を記事として皆さまにお届けしているのですが、やはり記事を読むことに加えて、作品を実際にスクリーンで観てもらいたいという思いは常にあります。ただ、その場所がどんどん失われていく。であれば、その場所を自ら作ることはできないだろうか、という思いから、色々な方とお会いしお話していく中で、現在の場所、柏駅の旧映画館とのご縁をいただきました。
映画館が集中する都心から少し離れた場所であること、また駅に隣接していて気軽に足を運んでもらえる場所であることなどから、地域に根ざした映画館として、より多くの方に、これまで触れられなかった映画を、また映画を通して様々な体験を届けていくことができるという観点からも、良いご縁をいただけたと思っています。
映画館の運営は、もちろん雑誌作りとは全く異なるもので、試行錯誤の連続でしたが、おかげさまで本当にスタッフに恵まれて、ここまで12年半、途中にコロナ禍での休館もありましたが、ミニシアターならではの編成で、3,000作品以上の映画をお届けすることができました。
ただ、以前にあった映画館のオープンが1992年、30数年経った基幹設備の老朽化で、実は数年前から安定した上映環境が保てなくなってきていました。限られた予算の中で、時にはスタッフ自身の手で修繕するなど知恵と工夫の限りを尽くして何とかこの場を維持してきましたが、ついに限界を迎えてしまいました。
現在直面しているのは、ビルの屋上に設置してある『冷温水発生器』いわゆる冷暖房設備の新規交換、館内空調設備(送風機・空調ダクト)の全面入れ替え、電気系統(配電盤・安全装置など)の更新、各上映室に合わせた温度制御の最適化、加えて、デジタル上映機器の全機入れ替え、とかなり大がかりな工事になります。
これらすべての工事を行うのか、それとも閉館か、究極の2択を迫られています。もちろん、映画館を続けたいという思いは非常に強いです。ただ、一方でここまで大がかりで高額な工事を映画館単体で賄うことはできません。その資金を皆さまから募るということには、大変な葛藤がございますが、社内でも協議を重ね、他に選択肢がないという判断に至りました。
街の小さな映画館ではありますが、ミニシアターにはミニシアターでしかお届けできない体験があると思っています。映画を、また〈キネマ旬報シアター〉を愛してくださる皆さまに、この映画館を未来に残すために、応援いただけますと大変嬉しく思います。
クラウドファンディングに際しましては、心をこめた返礼品も作成して参ります。
みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。
現在、日本国内では年間約1,200作品の映画が公開されている。その多くはインディペンデント作品で、大手シネコンでは上映されないことが多い。ミニシアターでしか観ることのできない作品、ミニシアターでしか味わうことのできない空気、その空間。
できることなら、1館でも多く、残っていて欲しいと思う。
今回の〈キネマ旬報シアター〉の決断に、また同様の悩みを持つ全国のミニシアターにエールを送りたい。
記事提供元:キネマ旬報WEB
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