あの「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフ「バレリーナ:The World of John Wick」をアクション監督・スタン トマン川本耕史が徹底分析!【キネマ旬報9月号】
アクション映画のあらたな表現“銃(ガン)フー”、そのまま打倒極に移行できる距離での銃撃戦を生み出した「ジョン・ウィック」シリーズ初のスピンオフとなる「バレリーナ:The World of John Wick」。本作の主人公イヴは、伝説の殺し屋ジョン・ウィック=キアヌ・リーブス同様、自身を一流の暗殺者として育て上げた組織に反旗を翻す。そして父の敵を討つため世界を転戦するのだ。演じるのは「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(21)で注目されたアナ・デ・アルマス。チャド・スタエルスキからレン・ワイズマンが監督を引き継いでいる。
ヒロイン・アクションであるこの映画の魅力に多方向から迫るキネマ旬報9月号の特集から、ここでは23年の「ジョン・ウィック:コンセクエンス」でファイトコレオグラファーを務めた川本耕史による誌上コメンタリー(取材・文は映画ライターの井上健一)の一部をお届けする。
14 年の「ジョン・ウィック」一作目は‟アクション映画における銃の距離感“を変えた。そう川本は語る。
「それまで銃撃戦といえば、物陰に潜んで相手を狙うような撃ち合いが多く、接近したら銃口を突きつけて終わり……というのが普通でした。そんな中、『ジョン・ウィック』は、お互いに手の届くような距離でリアルな銃撃戦をやって見せたんです」
シリーズの革新性をそう語ってくれた川本にまず見てもらったのが、床も壁もすべての内装が氷に覆われた豪奢なクラブの場面。アナ・デ・アルマス演じるイヴはカンフーをあやつる黒スーツのアジア人たちと戦いを繰り広げる。彼女はここで、身体に密着したノースリーブのドレスをまとってのアクションに挑戦している。
「たとえば階段から派手に転倒する、斜面から滑り落ちるといったアクションを演じるために、本番と同じ設計の場所を用意し、事前にくり返し練習したはずです。衣裳が薄いため、身体を保護するパットを入れられないので、氷に見える柔らかいウレタンほかで床を作るなどの工夫も必要だったでしょう。同時にこの作品がうまいのは、アクションに入るまでの演出です。この場面、イヴは敵と対峙する前に、着ていた分厚いコートを脱ぎ捨てるんですよね。それによって肌の露出が強調され、硬い氷上でのアクションの危険性を演出するわけです」
プロの視点からアクションシーンの組み立て方を分析する川本。本作で最も印象に残ったのが、クライマックスの火炎放射器のアクションだと言う。
「主人公と敵が共に火炎放射器を持って対峙する。『どうするのかな?』と思ったら、撃ち合いになるので驚きました(笑)。拳銃と違って火炎放射器は、相手に向かって飛ぶ炎が目に見えるので緊迫感も出る。すごいアイディアです。そしてその炎をよけてかわすのか!という(笑)」
「人間に火がついている部分は、実際にファイヤースタントがやっていると思います。そこに、CGの炎を追加したのではないでしょうか。くわえて、登場するスタントの数がものすごい。この規模で撮影するには、膨大な時間がかかったと思います。安全性を考慮し、何十回とミーティングを重ね、リハーサルもしっかり行った上で、慎重に本番に臨んだはずですから。家も燃えているので、何台もの消防車がスタンバイしていたに違いありません」
アクション映画の楽しみ方が、また変わってくる。そんな川本によるコメンタリーにくわえ、本特集ではレン・ワイズマン監督のインタビュー、本作の世界観を表現した漫画家・田中むねよしによるイラストとテキスト、映画評論家・江戸木純のレビューも掲載。「アクションのお祭り」「現代のアクション映画の最高峰」が公開される8/22に向けて、ボルテージは高まるばかりだ……!
川本耕史(かわもと・こうじ)
大阪府出身。アクション監督・スタントマン。2013 年よりユーデンフレームワークスに所属。担当した映画に「マンハント」(17)「スーパーティーチャー熱血格闘」「邪不圧正」(18)「キングダム」(19)「るろうに剣心/the beginning」「るろうに剣心最終章The Final」「レイジング・ファイア」(21)「ジョン・ウィック:コンセクエンス」(23)他がある
「バレリーナ:The World of John Wick」
監督:レン・ワイズマン
脚本:シェイ・ハッテン
撮影:ロマン・ラクールバ
美術:フィル・アイヴィー
編集:ニコラス・ラングレン ジェイソン・バレンタイン
音楽:タイラー・ベイツ ジョエル・J・リチャード
出演:アナ・デ・アルマス、アンジェリカ・ヒューストン、ガブリエル・バーン、ランス・レディック、カタリーナ・サンディノ・モレノ、ノーマン・リーダス、イアン・マクシェーン、キアヌ・リーブス
原題:From the World of John Wick: Ballerina/2025 年・アメリカ・2 時間5 分
配給:キノフィルムズ
(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
■物語
孤児たちを集め、暗殺者とバレリーナを養成するロシア系犯罪組織“ルスカ・ロマ”。裏社会に轟く伝説の殺し屋、ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)を生み出した組織で、殺しのテクニックを磨いたイヴ(アナ・デ・アルマス)は、幼い頃に殺された父親の復讐に立ち上がる。しかし、裏社会の掟を破った彼女の前に、あの伝説の殺し屋が現れる……。
◎8 月22 日(金)よりTOHO シネマズ 日比谷ほか全国にて
記事提供元:キネマ旬報WEB
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