フィンランド初の漫才大会を制した"いとこ漫才師"!「ヒュペコニン・マンザイ・キルパイル」初代王者・OHO(オホ)
「ヒュペコニン・マンザイ・キルパイル」初代王者・OHO。(左から)ツッコミのダンスク(Dansku)とボケのアーポ(Aapo)
あまたの芸人がしのぎを削る賞レース戦国時代。北欧のフィンランドでも新たな王者が誕生した。6月7日に開催された同国初の漫才コンテスト「ヒュペコニン・マンザイ・キルパイル」で初代チャンピオンに輝いたOHOだ。
優勝ネタの映像が日本語字幕付きで公開されると、再生数が1週間で20万回超えの大バズり!!〝北欧発・新世代漫才〟はいかに生まれたのか? 話題のふたりに独占インタビューを敢行した!
■参考にした漫才師はNON STYLE――優勝おめでとうございます! 今の気分は?
ダンスク もちろんすごくいい気分です。何より、このコンテストに参加できたことがとてもうれしかったです。
アーポ 素晴らしい大会が開かれたことに、フィンランドの漫才コミュニティの一員として誇りを感じます。
――優勝ネタのテーマは?
アーポ 「ファミリー層も見に来る漫才コンテストなのに、ボケが大人向けの〝アダルト漫才〟をやりたがる」というテーマでした。ツッコミは「それはやめたほうがいい」と思っていて、じゃあ何を披露するのかふたりで言い争う、という展開です。
――そのネタはおふたりで書いたんですか?
アーポ 僕が〝アダルト漫才〟のアイデアを思いついたのでまず台本を書いて、そこからふたりで大会に向けて形にしていった感じですね。
ダンスク 僕が書くこともあるのですが、今回のネタは彼が主に書いたので、クレジットは彼にあります(笑)。
5組の個性派コンビが火花を散らした初のフィンランド漫才大会。見事、大会を制したのはOHO!
――漫才を作るに当たって参考にした「教科書」のようなものはありましたか?
アーポ 英語の字幕がついている日本の漫才の動画を調べては片っ端からすべて見て、そこからインスピレーションを受けました。
――特に誰の漫才?
アーポ NON STYLEが面白かったです。彼らは素晴らしい漫才デュオだと思います。僕らの漫才とはスタイルが違うけど大好きです。
ダンスク 漫才形式のコメディはフィンランドのコメディとはかなり違うのに、彼らの漫才は僕らでも理解できて、すごく面白かったです。
――ちなみにどのネタ?
ダンスク エレベーターに閉じ込められるやつかな?
――かなりディープ!(笑)。NON STYLEはフィンランドでも人気になれると思いますか?
アーポ なれると思います! 一番直感的に面白さがわかりましたから。
――対戦相手となったほかの4組の参加者はどういう人たちだったんですか?
アーポ フィンランドで活動するスタンダップ・コメディアンの方が何人かいましたね。あとは日本文化の大ファンで、日本に関係のあるものならなんでも好き、という参加者もいました。
ダンスク この大会自体、アニメ系イベントのワンステージとして開催されたので、観客にもアニメファンや日本好きの人がたくさんいました。
6月7日、フィンランド南部にある都市ヒュヴィンカーで実施されたアニメ・マンガのイベント「Hypecon(ヒュペコン)」のステージの一部として、フィンランド初の漫才コンテスト「ヒュペコニン・マンザイ・キルパイル」が開催された
アーポ とはいえ、出場者全員が漫才を始めたばかりだと思います。この国の漫才シーンはまだ大きくないので。僕らも人前で漫才を披露するのは2回目のことでしたから。
ダンスク 日本文化系の音楽イベントで一度、漫才を披露したんです。
――では、今大会の反響の中でうれしかったコメントはありましたか?
アーポ やっぱり「面白い」と言われるのが一番うれしいです。特に日本の方が「面白い」「本当の漫才みたい」と言ってくれるのは格別ですね。漫才がなんなのかをわかっている人たちですから。
ダンスク しかも、ポジティブなコメントばかりで本当にうれしいです。
アーポ あと、審査員が僕たちの技術面を褒めてくれたのもうれしかったです。僕らが面白いのはまぐれじゃないってことですから。
――大会の審査員はどういう方々だったんですか?
アーポ テレビ番組の作家などもやっているスタンダップ・コメディアンの方、日本をテーマにしたバラエティ番組などを制作している公共放送の局員さん、あと日本のユーモアについての本を書いたノンフィクション作家の3人でした。
審査員は、フィンランドのコメディアン、公共放送の局員、日本の専門家・作家の3人
――緊張はしましたか?
アーポ 僕は、緊張で前日はあまり寝られませんでした(笑)。でも、出番直前に邪念を消して「自分を信じろ」と言い聞かせました。
ダンスク もちろん緊張しましたが、ミスは許されないと思ったので、とにかく集中しました。そして最初に笑いが起きてからは、楽しんでやることができました。
――お客さんの笑い声を聞いてどう思いましたか?
アーポ とにかく安心しました。2ヵ月前からネタを書いて、それを何度も練習していると、よくわからなくなってくるんです。頭では「これは面白いはずだ」とわかっているんですよ。だって書いたときは面白かったんですから。
でも、どんどん不安になってくる。その不安が、お客さんが笑ってくれたときに「やっぱり僕は正しかったんだ」って吹き飛びました。
ダンスク 笑い声を聞いてエネルギーと自信をもらいました。「僕らのパフォーマンス、悪くないぞ!」って。何回も練習していたので、ネタは飛ばさずできました。
――練習はどのように?
アーポ 自分たちの漫才を動画に撮って、見直して、分析して、友達に見せたりしながら、どこがウケて、どこがまだ足りないのかを考えつつ、それに応じて修正をしていきました。10回撮って、どの回も同じようにパフォーマンスできているな、と感じてからステージで披露しました。
■フィンランドで漫才は流行する!――おふたりはコンビを組む前から友達だったんですか?
アーポ 僕たちは友達ではない、ということをはっきりさせておかなきゃいけないね。だって僕たちはいとこ同士だから(笑)。フィンランドでは親戚を「友達」とは絶対に呼ばないんです。
ダンスク それもジョークにしています。「僕らは友達じゃない。いとこです」って。
アーポ だからお互いのことは赤ちゃんの頃から知っています。人生の始まりからね(笑)。物心ついたときからふたりでずっとジョークを作ったりしています。
アーポ(Aapo)本名、Aapo Alare。2005年5月1日生まれ。コメディ以外に音楽制作も行なうエンターテイナー
――練習していてケンカとかはなかったですか?
ダンスク 特になかったですね。波長が合うというか、コメディのセンスが似ているんです。意見の違いがあったとしても、最終的には彼に任せます。彼のほうが、何が面白いのかわかっているので、そこは争いたくない(笑)。
――漫才をしていて難しいと感じたこと、逆に楽しいと感じた点を教えてください。
ダンスク 難しいと感じたのは、自分が面白いと思うものを、多くの人が面白いと感じるものへ変えていかなきゃいけないこと。僕のユーモアセンスがちょっと変わっているので、自分が面白いと思ったものをそのままやったら、誰も笑わなかったりするんです。
ダンスク(Dansku)本名、Daniel Selin。2005年11月25日生まれ。『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』が好きなアニメファン
アーポ 今回は大会だったというのも少し難しいと感じました。「多くの人を」「一番」笑わせなければいけないわけで、台本もパンチラインでいっぱいにしなきゃいけない。
つまり、たくさんの笑いを限られた時間の中に詰め込んで、さらに全部をマックスの状態に持っていく必要がある。とても難しいことでしたが、楽しくもありました。この漫才一本をうまく書けたことは、今後コメディを書く自信にもつながると思います。
ダンスク 最初はふたりで笑って作っていたものが、お客さんを笑わせるネタになっていくのは不思議な体験でした。
アーポ ジョークを考えて、大会に向けて練りながら過ごすというのは、最高のつるみ方のひとつだと思います!
――先ほど「漫才は笑いが詰め込まれている」と話していましたが、それはフィンランドのコメディと違う点?
アーポ 漫才のスピードと激しさは、フィンランドのコメディとの大きな違いだと思います。僕たちの漫才は少しフィンランドのスタイルに寄せています。スピードもそれほど速くないですし。それでもフィンランドの基準では速いほうだと思います。
ダンスク 初めて日本の漫才を見たときに、しゃべるのがとても速くて、「日本では皆こんなスピードでしゃべるのかな」と思ってました(笑)。今では速くしゃべっているから面白い、というわけではないことはわかっていますが。
――次の漫才のアイデアはありますか?
アーポ はい。次のライブが決まっているので、そこで披露する新ネタを練習しています。そのネタはどんどん改良して、仕上げたいと思っています。最初の2本をイベントにガッツリ合わせて書いてしまったのは失敗でした。再利用できないですから。なので、新ネタはその反省を生かして作りました。
昔からふたりがよくつるんでいるという、家族が共有するサマーコテージから取材を受けてくれた
――新ネタはどこでもできる営業ネタってことか! フィンランドで漫才は発展・進化していくと思いますか?
アーポ そう思います。僕らが漫才をやり続ければ、フィンランドの人たちが漫才にアクセスしやすくなると思うんです。
そして、フィンランドの人を本当に笑わせる漫才のネタを作ることができれば、フィンランドのコメディアンもインスパイアされて挑戦すると思う。そうしたら漫才がローカライズされていくはず。
漫才って、とても便利で素晴らしい形式のコメディだと思うんです。ふたりの人間が舞台上でしゃべるだけなので、イベントやライブでやりやすい。それなのにキャラクター性もあって見やすい。
ダンスク フィンランドのコメディでは、舞台上にふたり以上立っていることが珍しいんです。たいていはひとりでスタンダップ・コメディをやる。演者側としても、相方と一緒だからステージに立つハードルも低くなると思います。
――おふたりは今後も漫才を続けていきますか?
ダンスク もちろん!
アーポ はい。コメディを書くのも披露するのも好きですし、それをこの最高のいとこと一緒にパフォーマンスする。それが一番楽しいことだと思っていますから。
●OHO
2024年8月結成。OHO(オホ)というコンビ名の由来はフィンランド語のフレーズ「Oho!(オホ!)」。「わぁ!」や「えぇ!」のように、フィンランド人が驚いたときに自然と使う日常的な言葉
写真提供/Kazuhiro Nakamoto Fuugis
記事提供元:週プレNEWS
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