「元捕手」が重宝される時代が来る?【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第173回
元捕手について語った山本キャスター
ヤクルト内山壮真選手、オリックス頓宮裕真選手、日本ハム郡司裕也選手、ソフトバンク栗原陵矢選手。これらのリーグを代表する野手のみなさんに共通するのは、「元捕手」という経歴です。
厳密に言うと、今でも捕手のポジションにつく機会(や可能性)はあるので、「元」と言い切ってしまうのは語弊があるかもしれません。それでも、捕手としてよりも、現在のポジションのほうがよりよい成績を残しているのは事実です。
元捕手の選手はたくさんいて、私たちより少し上の世代では、名外野手として名を馳せた飯田哲也さん(元ヤクルト、楽天)がお馴染みかもしません。また、私が大変お世話になっている五十嵐亮太さん(元ヤクルト、ソフトバンク、メッツなど)も、小学校時代はキャッチャーの経験があるとか。
ちなみにメジャーを代表する野手、フィリーズのプライス・ハーパー選手も、高校時代は投手のほかに捕手としても活躍していたそう。枠がひとつしかない、特殊な捕手というポジションの難しさを感じます。
そもそも捕手に求められるものはなんでしょう。打撃、肩の強さ、リード......。攻守の能力すべてが揃っていれば文句なしですが、そう簡単にはいきません。
優先されるのは、リードや進塁を阻止する肩の強さだと思うのですが、もちろん打撃も重視されています。守備面が秀でていても、打撃面で課題があってスタメンを確保できない選手もたくさんいます。
数年前は、打撃面で苦しむ捕手も多かった印象もありますが、最近ではまた打力が求められるようになったように感じます。中には「捕手=強打者」というイメージを抱く方もいるかもしれませんが、それは過去のイメージによるものかもしれません。
その昔、捕手には体格のいい選手が配置される傾向がありました。コリジョンルールが導入される前は、本塁クロスプレーの際にランナーに当たり負けない体格の良さが必要とされていたからです。内山選手は身長172cmですが、そういった小柄な選手は"現代型捕手"と言えるかも。
内・外野のポジションの中では走力の重要性が高いとは言えませんから、パンチ力のある選手が好まれたのでしょう。それゆえ、捕手=強打者というイメージが定着したのかもしれませんね。
甥っ子の成長の早さに驚くこの頃。いつ神宮に連れて行こうか、その機を虎視眈々と狙っています。
しかし先述の通り、本塁での衝突を防止するコリジョンルールの導入により、決して体の大きな選手ばかりではなくなり、「捕手の多様化」が始まりました。守備、打撃のどちらかに特化した捕手も現れるようになり、攻守のどちらかに課題があっても、首脳陣が目を瞑(つむ)って使い続けることがあります。
我がヤクルトは中村悠平選手、古賀優大選手、松本直樹選手などを併用していますが、それぞれに特徴があるからこそ、固定できない。先発投手によっても捕手が変わることがありますが、その起用法がチームの成績に影響することも。
ただ、ドジャースのウィル・スミス選手のように、もともと打撃が評価されていた選手であっても、試合に出続けることで捕手としての能力を伸ばすことができます。そうやってひとりの選手を育てることも必要なのでしょうが、チーム事情が苦しいとなかなか難しいかもしれませんね。
さて、最初に挙げた4選手はいずれも打撃に優れた選手です。チーム状況による要因も大きいと思いますが、その打撃力を生かすためにコンバート、もしくは他のポジションでの起用が多くなったことで、飛躍のチャンスを掴みました。
元捕手の選手たちが内野、外野を守っている時にも、捕手としての経験が生かされているのかもしれないと思うシーンを目にすることがあります。
例えば、先日のヤクルトの試合。三遊間の難しい当たりで、ショートの伊藤琉偉選手と、サードの武岡龍世選手が微妙な間合いになってミスが生まれ、ランナーに進塁を許したシーンがありました。そこで三塁がガラ空きになっていたのですが、レフトの内山選手がすかさずカバーに入ろうとしたのを見た時に、内山選手が捕手時代に培った視野の広さゆえの好判断だったのでは、と感じたんです。
ベンチに捕手がいなくなって、あわてて野手がマスクを被ったという場面もまれにありますが、捕手はそれくらい特殊なポジションで、簡単にできるものではありません。その点、捕手経験がある選手がベンチにいるというのはとても安心感があるでしょう。内・外野+捕手の"二刀流"と言ってもいいですよね。
もし私が監督だったら、実力が拮抗する2人の選手のうち、どちらをベンチ入りさせるか悩んだ時には、捕手の経験のある選手を優先してしまうかもしれません。就職における資格のように、いつかドラフトの時には、捕手経験が重視される時代が来るのかも。そんなことを思いました。
それでは、また来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。