アメコミの映画版はこうあるべき! ヒーローが山奥の田舎で魔女退治 『ヘルボーイ/ザ・クルキッドマン』
飯塚克味のホラー道 第127回『ヘルボーイ/ザ・クルキッドマン』

これまでギレルモ・デル・トロ監督による2作品、その後、ニール・マーシャル監督によるリブートを経て、4本目の映画版となる新たなヘルボーイがやって来た。ヘルボーイとは。1994年にダークホースコミックで生まれたマイク・ミニョーラによるアメコミのスーパーヒーローだ。全身が赤で、頭の角が2本折れているビジュアルはインパクト抜群で、日本人にとっても赤鬼のイメージにつながり、どこか親近感を覚える。設定としては第二次大戦時、敗戦濃厚なドイツが、怪僧ラスプーチンの力を借りて地獄の入り口を開けて、形勢逆転を計画するが、その時、地獄からやって来たのがまだ赤ん坊だったヘルボーイだったという訳だ。アメリカ側に引き取られたヘルボーイは、秘密エージェントとして超自然的な問題に立ち向かうというのが基本のストーリーラインだ。
映画版は2004年にギレルモ・デル・トロ監督が、ロン・パールマンを主役に配し、評価を得て、続編も作られた。その後は2019年に原作者のマイク・ミニョーラが監修として入り、デヴィッド・ハーパー主演で再映画化。悪役にミラ・ジョヴォヴィッチが出演するなどしたが、デル・トロ版ほどの評価は得られなかった。そして今回の作品に至る。マイク・ミニョーラは今回、脚本で参加している。
話は、1959年、アメリカのアパラチアにある山奥で、ヘルボーイと、仲間の女性エージェント、ボビー・ジョー・ソンが、魔女に出会い、恐るべき戦いを強いられるというものだ。冒頭、タイトルが出る背景の画からして、不穏な空気が流れていて、以前の映画版よりホラー色が相当強くなっている。中でも教会で籠城するヘルボーイたちが、墓場から蘇える死者たちに襲われる場面は、ジョージ・A・ロメロとジョン・カーペンターが合体したかのようなタッチで、ホラーファンならたまらないはずだ。

本作で監督を務めたのはジェイソン・ステイサムの出世作でもある『アドレナリン』(2006)のブライアン・テイラー。『GAMER』(2009)や『ゴーストライダー2』(2011)『マッド・ダディ』(2017)など、いずれもやりたい放題の映画だったことを思えば、本作はむしろ恐怖描写にシフトして、抑え気味に感じるかもしれない。ヘルボーイを演じるのはホラードラマ『ストレイン 沈黙のエクリプス』(2014)や『デッドプール2』(2018)のジャック・ケシー。チェーンスモーカーで、どんな敵にもひるまない、今のヘルボーイを作り出している。物語の鍵を握る村の青年トム・フェレルには『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)のジェファーソン・ホワイト。女性エージェントのボビー・ジョー・ソンにはアデライン・ルドルフが扮し、有名スターこそいないが、個性的な面々が映画を盛り上げてくれる。
映画を観ていて思い出すのはPOV映画の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』やロバート・エガース監督の『ウィッチ』(2015)だろう。いずれも森を神秘的に描き、魔女伝説が物語に自然と絡んでくる。昼と夜、地上と地下など舞台の設定も臨機応変で、ビジュアル的な楽しさも欠かさない。
そして何より嬉しいのが、上映時間が99分と短いことと、昨今の他のアメコミ映画のように風呂敷を広げ過ぎず、話がきっちり完結する点だ。誤解を恐れず言えば、TVシリーズの1エピソード、あるいはスペシャル版的なサイズ感で、変な方向に向かっていかないのがとてもいい。「アメコミの映画は、これでいいんだよ」と、久しぶりに思わせてくれるのだ。コンパクトだが、ホラー映画の魅力が詰まった本作を、ぜひ映画館で楽しんでもらいたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
ヘルボーイ/ザ・クルキッドマン
2025年7月4日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
コピーライト :© 2024 HELLBOY PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.
記事提供元:映画スクエア
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