いっそ“若手”議員を積極登用してみては 【政眼鏡(せいがんきょう)-本田雅俊の政治コラム】

小泉進次郎氏が農相に就任したことで、ニュースもワイドショーもコメ問題ばかりを取り上げるようになった。確かに主食の価格は家計を直撃するが、高騰しているのは何もコメだけではない。にもかかわらず、これだけ脚光を浴びるのは間違いなく「小泉効果」だろう。農林族や農林省、農協を“抵抗勢力”に見立てるところなどは、さしずめ“小泉劇場 シーズン2”だ。
環境相に抜擢されたときには「気候変動問題はセクシーであるべきだ」「プラスチックの原料って石油なんですよ」「おぼろげながら浮かんできたんです」といった不思議な“進次郎構文”や“ポエム”で嘲笑を招き、「メッキがはがれた」(閣僚経験者)などと陰口をたたかれた。だが、まだまだ記者の質問に正確に答えられないといった“弱点”はあるものの、この6年近くで、政治家としてかなり成長したと見られている。
永田町では今でも“老壮青”の基準は年齢ではなく、当選回数だ。だから、44歳の小泉農相は世の中的には“若手”の部類に入っても、衆院当選6回生は永田町では立派な“中堅”議員と見なされる。逆に還暦近くで初当選を果たすと、年齢的には“ベテラン”でも、永田町では“若手”の域からは出られず、使い走りや雑巾がけを強いられる。
こうした当選回数に基づく年功序列人事で、自民党、さらには政界全体の活力が失われていることは否めない。たとえ才能があっても、当選回数を重ねなければひのき舞台に立てないようではまさに宝の持ち腐れで、実にもったいない。小泉氏の場合、純一郎元首相を父に持つ世襲議員であり、早くからスポットライトを浴びてきたから例外中の例外だ。
むしろ“栴檀(せんだん)”に育つ可能性のある“双葉”を探し出すこと、つまり将来性のある人材の目利きこそ、各党のリーダーの重要な責務だろう。岸田文雄氏は首相として必ずしも大きな足跡は残さなかったが、例えば当選3回の小林鷹之氏を経済安保相に抜てきしたことなどは評価される。「なかなかやるじゃないか」との声にも押され、小林氏は昨年、総裁選に挑んだし、これからますます頭角を現すだろう。
昨年の衆院選で大幅に議席を減らしたものの、今の自民党の“若手”の中にも逸材はいる。人の評価や見方はまちまちとはいえ、あえて自民党の中で極めて高い評価を得ている4人の2期生を挙げるならば、鈴木英敬氏(三重4区)、尾崎正直氏(高知2区)、神田潤一氏(青森2区)、塩崎彰久氏(愛媛1区)になるのではないか。いずれ彼らの名前の頭文字をとって「SOKS」と呼ばれるようになるかもしれない。
かつて自民党では、派閥の領袖が次世代のリーダーを育てた。そうした帝王学にはそれなりのメリットもあったが、今や派閥そのものが基本的に存在しない時代だ。そのため、たとえ“若手”でも、自らの見識と人望で仲間が集まりやすくなっている。のみならず、実力の面でも、決してベテラン議員に引けは取らない。「彼らは部会での発言も秀逸で、周りが自然と納得する」(自民中堅)という。
トランプ氏が大統領を務める米国を引き合いに出すことにはいささかためらいもあるが、これまでも連邦政府の閣僚の中には州知事経験者は少なくない。一定の行政経験があれば“即戦力”として登用されるのだ。先ほどの4人のうち2人は知事経験者であり、総理大臣はともかくも、通常の大臣であればすぐに務まるはずだ。いや、単に年功序列で就く者よりも、はるかに力量を発揮するはずだ。
石破茂首相は人との交流が苦手なため、自民党内の“栴檀”が見えていないのか、それとも、あえて見ようとしていないのかは不明だが、小泉氏ばかりを重んじるのではなく、自民党の総裁として有望な“若手”の起用を図るべきではないか。そうした人事を断行すれば内閣支持率が大きく上昇するだけでなく、自民党も政治も間違いなく変わることになる。
石破氏は本来であれば首相になれなかったのだから、この際、何にでも挑戦してみてはどうか。首相を辞めてからでは何もできなくなる。
【筆者略歴】
本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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