人類の夢「球速170キロ」、もはや夢ではない【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第168回
投手の球速について語った山本キャスター
5月24日のロッテ戦で、西武の今井達也投手が自己最速を更新する160キロを記録しました。日本人投手では滅多に見られる数字ではありませんから、球場のファンは大きくどよめきました。160キロとは、それほど特別な数字なのです。
私の感覚ですが、10年ほど前までは球速150キロを超えれば「速球派」と呼ばれていたように思います。しかし近年では、160キロ超えも当たり前、とまではいかなくても、珍しい光景ではなくなりました。
大谷翔平選手、佐々木朗希投手、千賀滉大投手といった現役メジャーリーガーだけでなく、元ヤクルトの由規さんなど10人以上の日本人選手が160キロ超えを記録しています。
日本球界で最初に160キロを投じたのは、元横浜(現DeNA)のマーク・クルーン投手でした。未知の数字に、ファンや関係者が騒然としたことを覚えています。
海外に目を向ければ、160キロ以上のボールを投げる投手は多く、170キロが出るのも時間の問題かもしれません。「あれ、過去に170キロを記録した投手がいなかったっけ?」。そう思った方もいるんじゃないでしょうか。
現在レッドソックスに所属すアロルディス・チャップマン投手は、15年前の2010年に105.8マイル(170キロ)を記録しています。ただ、これは過去の計測方法で記録された数字で、当時のシステムでは数キロ上ブレして記録されることがあり、公式として扱うべきかどうか、という意見があるんです。
MLBでは2015年から、軍事技術である追尾レーダーの技術を応用した「スタットキャスト」が導入され、球速測定の数値はより正確になりました。私が担当していた番組でも、MLBの公式歴代最高球速はエンゼルスのベン・ジョイス投手が2024年に記録した105.5マイル(169.8キロ)と伝えていたので、「170キロを出した投手はまだいない」という言い方もできます。
部屋着はもっぱら野球絡みな山本です。
ちなみに、「球場によって球速が違う」という声も耳にします。日本だと「神宮球場は実際の球速よりも速度が速く表示される」という伝説があるそうですね。計測機材や気象など、まったく同じ条件で計測できるわけではありませんから、球速が違ってくる可能性も否定できませんね。
他にも、マウンドとの相性、球場の雰囲気など、さまざまな条件が加味されるのでしょう。ファンの声援が後押ししてくれるホームスタジアムでは、より球速が出やすいということもあるのかもしれません。
ちなみに元ロッテの黒木知宏さんによれば、海風でお馴染みのマリンスタジアムは変化球がよく曲がるので、上下左右に変化する球を軸に、他球場とは違った配球を考えていたそうです。速球派の投手が、どこの球場で最高球速を出したかに注目すると、各球場の傾向が見えて面白いかもしれませんね(球速が出やすい球場がある、という情報をお持ちの方は教えてください)。
プロ野球やMLBの平均球速はどんどん上がっています。記録が大幅に向上した大きな理由は、科学的トレーニングが飛躍的に進化したからだと考えられます。昔は常識だったことが今では非常識であるように、トレーニングの世界も日進月歩で変化を遂げています。
この先も球速は上がり続けるでしょうし、170キロも数年内に達成される可能性もあります。そうなってくると、「速球派」とは160キロ以上の投手を指す言葉になるのでしょうか。
球速を見ると、野球という競技がいかに進歩し、レベルアップしてきたかよくわかるというお話でした。最後に、みなさんの記憶に残る速球派投手を教えてください。私はもちろん五十嵐亮太さんです!
それではまた来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作
記事提供元:週プレNEWS
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