国鉄、JR西日本、いすみ鉄道を走り続けて60年のキハ52が引退 記念イベントに550人大集合(千葉県大多喜町)【コラム】

また一つ、昭和の名車が姿を消しました。千葉県房総半島の第三セクター・いすみ鉄道(い鉄)のキハ52形気動車。自動車の車検に当たる全般検査が2025年3月いっぱいで期限を迎え、い鉄はやむなく引退を決断。2025年4月27日と5月11日、「ありがとうキハ52 125営業運転終了記念イベント」を、本社や車両基地のある大多喜駅で開催しました。
【参考】いすみ鉄道、キハ52 125号車の営業運転を終了
https://tetsudo-ch.com/12999699.html
キハ52 125は1965年製。国鉄、JR西日本では越美北線(福井県)、大糸線(長野、新潟県)で活躍。2010年の引退で、い鉄に譲渡され、2011年4月末から主に観光急行列車として房総の里山を走り抜けました。
い鉄は2024年10月の線路トラブルで半年間以上、全線運休が続きます。本線走行で引退を飾れなかったのは残念ですが、通算60年間にわたりファンに夢を届けた〝昭和の鉄道遺産〟にエールを送りつつ、最後の活躍の場を与えた、い鉄や関係の皆さまに敬意を表したいと思います。
筆者は5月11日のイベントを取材。本コラムでは、ラストランの模様とともに、ローカル線の近代化をリードした、キハ20系近郊形気動車の軌跡を追います。
(記念イベントは、5月10日も開催予定でしたが荒天で中止、6月15日に延期されました。詳細はい鉄ホームページでご確認ください)
走る姿見られて大満足!

い鉄の運休で大多喜駅(ネーミングライツでデンタルサポート大多喜駅)は、鉄路では〝陸の孤島状態〟。それでも外房線大原からの代行バスのほか、路線バス、高速パスでやってきたファンで、駅一帯は大にぎわいでした(マイカー駐車場も用意されました)。
当日の来場者、撮り鉄が多いのは当然として、子ども連れファミリーも目立ちます。お父さん(お母さんも?)が鉄道の話を語り、子どもたちが目を輝かせて聞き入ります。ジュニアからシニアまで、年齢制限なしの鉄道の底力が伝わります。

記念イベントの主なメニューは、駅ホームでのキハ52への体験乗車や写真・動画撮影です。い鉄はファンサービスで、ヘッドマークを総動員。お気に入り画像は、スマホの待ち受けやパソコンの壁紙としてキハ52の思い出を永久に伝えます。
走行は大多喜駅構内の数十メートルですが、一年ほど前まで本運行していただけに現役感十分。「本線走行なしは残念だけれど、駅構内だけでも走る姿を見られて大満足」と多くのファンは話していました。
SLを引退させた敵役かも

ここからキハ52小史。国鉄気動車は電車のように○○系で明確に分かれておらず(特急気動車はキハ81系、82系などですが)、キハ52が含まれるキハ20系気動車も便宜的区分。キハ20、キハ21、キハ22、キハ25、キハユニ26は20系ですが、間に入るキハ23とキハ24は後継のキハ45系です。
確かに国鉄気動車、急行用キハ58系から通勤用キハ35系までほぼ自由に編成を組めるので、系統はあまり意味がないような気もします。「編成美がない代わり、急行用と通勤用が連結運転されるなど、いわば〝何でもあり〟が気動車の魅力」と語るファンもいます。
1957年に登場したキハ20系の用途は一応近郊形気動車。戦後10年間、SL+客車列車が幅をきかせていたローカル線を、先行のキハ10系気動車とともに無煙化・近代化しました。SLファンにとって、愛するSLを引退に追い込んだ敵役なのかもしれませんね。
キハ52は1958年にデビュー。キハ20、キハ25など他のキハ20系が全長20メートルなのに対し、2エンジンのキハ52は一回り大型の21.3メートル。ドア間の窓は6個で、キハ20やキハ25に比べ一つ多くなっています。


キハ52+キハ200が房総を行く!?
い鉄では姿を消したキハ52ですが、ご当地・千葉県では同形車が現役です。同じ房総半島を走り、終点の上総中野でい鉄に接続する小湊鐵道のキハ200形。デビューは1961年で、国鉄キハ20系に重なります。
そもそも小湊がキハ200を新製したのは、五井で接続する国鉄内房線の気動車に連結して県都・千葉に乗り入れるため。実際、1963年夏には千葉駅に顔を出しました。
キハ52引退でかなわなかったものの、想像の世界で(鉄道模型ファンの方はご自身の鉄道で)、い鉄キハ52+小湊キハ200を編成して、大原~大多喜~上総中野~五井を直通運転させるのも一興かもしれません。
「昭和の国鉄車両に魅力」(大学生ファン)
記念イベントに戻って、来場者に感想を聞きました。キハ52の座席で乗り心地を確かめていたファン。千葉県流山市からやってきた大学生です。
友だちから話を聞いてイベントを知りました。好きなのは「昭和の国鉄車両」。2025年は昭和でカウントすれば「昭和100年」。しかし、時代は平成から令和へと変わり、国鉄生まれ車両も希少種になりつつあります。
熱心なファンの方なら山口線のキハ40気動車、加古川線の103系電車などを思い浮かべるかもしれません。
本サイトのホットニュースでは、JR東海から三重県の三岐鉄道に譲渡されてデビューする5000系。JR東海の211系電車です。老優(失礼)健在といったところでしょうか。
【参考】三岐鉄道、新型車両「5000系」導入発表 JR東海から譲受した211系どう変わった?
https://tetsudo-ch.com/12998028.html
ファンの大学生が語る、い鉄の印象は「里山を走る鉄道」。長く運休状態が続きますが、「必ず運転再開してほしい。また乗りに来ます」と語ってくれました。
「必ず運転再開します」
最後に、い鉄の吉田貴文地域連携推進本部副本部長から本サイトをご覧の皆さまにメッセージをいただきました。
「長く運休状態が続き、沿線やファンにご迷惑、ご心配をお掛けし、申しわけありません。そうした中で、われわれの背中を押してくださたのが皆さまのエール。社員手づくりで印象に残るイベントを考えました。まだ多少時間はかかるかもしれませんが、必ず運転再開します。もう少々お待ちください」
引退したキハ52は静態保存される予定ですが、保存方法などは現在のところ未定だそうです。
記事:上里夏生
記事提供元:鉄道チャンネル
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