刀もバットもクラブもただ引っ張るだけではうまく扱えない 3つに通じる“先を走らせる”動きとは?
昨年でツアーから撤退した上田桃子やルーキー・六車日那乃などを輩出する「チーム辻村」。丸山ゴルフセンターで練習する元プロ野球選手の杉浦亨との会話がきっかけで、プロコーチの辻村明志は刀、バット、クラブに通ずる先を走らせる動きを思い出したという。
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チーム辻村の本拠地のひとつ、丸山ゴルフセンター(千葉県船橋市)に、いつも熱心に練習している男性がいます。レフティから打ち出されるボールは勢い良くネットに突き刺さり、周囲のお客さんが動きを止めるほど。打席の主は杉浦亨さん。かつてプロ野球ヤクルトスワローズで活躍した強打者です。 杉浦さんは1970年ドラフト10位で、当時のヤクルトアトムズ入り。後に野手に転向、主力選手として定着しますが、そのきっかけとなったのが当時、打撃コーチで、後に監督となる、ボクの師匠でもある荒川博先生の指導だったそうです。もっとも、「当時はまだ若かったし、荒川さんの言うことの半分、いや十分の一も分からなかったよ」と杉浦さんは笑いました。
それはともかく最近になって杉浦さんが、テレビのボクのレッスン番組を観て、「ツジさんの言っている意味が、ようやく分かってきたよ」と、言ってくださったことがあります。それは体の回転のことで、インパクトまで胸がボールと正対することの重要性、(右打ちの場合)ダウンでの左サイドの早い段階での開きが、あらゆるミスを引き起こすという内容でした。
杉浦さんは、かね尺とそれを入れる鞘という、自作の“刀”を作り、ボクのレッスンで理解したという内容を実演してくれました。要約すると力任せでも、剣を持った側の右肩が早く開いても、また腕と体が一緒に回転しても、剣は鞘から抜けないことを示していました。「剣はここで斬らなきゃならないじゃないですか」と、杉浦さんが指さしたのは、かね尺の先。日本刀だと切っ先三寸と呼ばれる部分で、武士はこの先端の約1センチ(三寸)で人を斬るのだといいます。
杉浦さんによれば、野球のバットやゴルフクラブは振るものではなく、ヘッドを走らせるもの。そして杉浦さんが実演したこの動きに、ヘッドを走らせる動きのヒントがあるのです。半身になって息を吐き腹を凹ませ。 荒川道場と呼ばれる先生の自宅で、王(貞治)さんをはじめとする門下生が、日本刀で藁の束や天井から吊るした新聞紙を斬る練習風景を見たことのある人も多いでしょう。荒川先生は野球の指導に、剣術の体や道具の使い方を取り入れたことはよく知られています。
ボクもそれを応用した練習を、スランプに悩む優勝経験のある選手にさせたことがありました。クラブを肩幅ほどの長さに切り(ヘッド側を切断)、グリップ部分を使います。つまり剣です。鞘は塩化ビニールの筒。剣を左手に鞘を右手に持って、トップの形を作ります。その状態から切り返し、剣を鞘からスムーズに抜く動きを徹底して繰り返しました。ちなみにスランプで悩んでいたその選手は、翌年、復活優勝を成し遂げています。
なぜこのような練習をさせたかといえば、トップの切り返しでどうしても先、つまり手や肩、時にヘッドから動き出すクセがあったからでした。その原因はリキミでしょうが、その結果、トップは浅く、切り返しは速くなり、ダウンスイングでクラブが遠回りするのです。こうした動きはほとんどのアマチュアに見られます。もし皆さんが行うならば、右手は鞘のようにシャフトを包み、左手はグリップを持ちトップを作って、左手を下げながら下半身から切り返す動きを繰り返すといいでしょう。
この練習のヒントとなったのは、荒川先生の言葉でした。「藁の束を(刀で切るのに)力任せに腕だけで振ろうと思えば、藁に食い込んですぐに刃こぼれしてしまう」。切っ先、つまりヘッドが走らない、というわけです。これも荒川先生の受け売りですが、真剣はただ引っ張っても鞘から抜けないそうです。この時、半身になって息を吐き、腹を凹ませるのがコツなのだとか。
実はこれもボクは、トップの切り返しに応用できる技だと思っています。というのもクラブが飛球線後方に動きながら、下半身から動くのが切り返し。つまり、これがいわゆる“一瞬の間”と呼ばれるもの。そこでボクは「ダウンスイングで胸椎(胸)は、腰の回転の3倍ゆっくり回すイメージで」と教えるのですが、これは腰の回転が止まってもトップからまだ胸や肩、腕やクラブが回る“間”を作り出すためです。切り返しで腹を凹ませる動きは、かなり高等で究極の技術のような気がします。杉浦さんとの会話で荒川先生のことを思い出し、同時に打撃の神髄に近づけたような気がしました。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子、六車日那乃らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』846号より抜粋し、加筆・修正しています
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