人口減でミャンマー難民の誘致検討 【平井久志×リアルワールド】
韓国本土で最も人口が少ない慶尚北道英陽郡(キョンサンプクトヨンヤングン)が人口減少を防ぐためにミャンマーの難民約40人を誘致することを検討し、論議を呼んでいる。
英陽郡は今年2月現在の人口が1万5271人だが、これは島部自治体である慶尚北道鬱陵郡(ウルルングン)を除いては韓国本土で人口が最も少ない自治体だ。2006年1月末には1万9989人だった人口が1万5千人を割る直前にまで減少した。最近は毎年約25人が誕生しているが、年間で約300人が死亡しており、このままいけば今年末には1万5千人を割り込む可能性がある。高齢化も進み、60歳以上の人口が全体の約75%を占めている。
そこで英陽郡では国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、家族構成員が4人以上のミヤンマー難民10家族を誘致することを検討中だ。英陽郡は「難民再定着試験事業を推進し、ミャンマー難民約40人を定着させ、住居や教育、雇用などを支援したい」とし、廃校などを活用して難民を受け入れることを計画中だ。「人口減少を防ぐためには、どんなことでもやる。地域が消滅しないように最善を尽くす」としている。
英陽郡では人口増加のために今年から「結婚費用支援事業」や「青年夫婦づくり事業」などの支援を拡充し、出産奨励金を増額するなどの対応も取っている。
ミャンマーでは21年に軍事クーデターが起き、数百万人の難民が発生している。タイなど近隣諸国へ避難しているが、深刻な生活難に直面している。このため、UNHCRでは第三国での安定した再定住を支援している。
しかし、ネット上では「韓国人の生活も苦しいのに難民の面倒まで見なければならないのか」、「難民の中にテロリストがいたらどうする」、「公務員はとんでもないことをする」、「定住せずにソウルへ逃げたらどうする」などといった声が上がっている。
一方で「再定着難民はわれわれと共に地域社会をつくり生きていく隣人だ。新しい隣人を迎える意味のある決定」と評価する意見もある。
韓国では、人口減に直面している自治体の中には、刑務所、火葬場、廃棄物処理場など地域住民が設置を嫌う施設を誘致する動きも出ている。こうした施設を誘致すると補助金や住民向け施設設置などの特典を受けることができるからだ。
韓国では3月に英陽郡を含む慶尚北道や慶尚南道(キョンサンナムド)、蔚山(ウルサン)で大規模な山火事が発生し、被害面積は過去最悪規模の東京23区の1・67倍の10万4千ヘクタールに達し、31人が死亡、住宅約3300戸が全焼した。
そうした中で、慶尚北道盈徳郡(ヨンドクグン)でも3月25日午後に山火事が発生した。海沿いの同郡景汀3里(キョンジョンサムリ)には約80世帯が暮らしている。同日午後11時ごろ、インドネシア国籍のスギアントさん(31)らインドネシア船員たちは1軒1軒回って寝入っている住民に「山火事です。起きてください」と叫んで回り、高齢で動けない住民を背負って約300メートル離れた村の防波堤まで避難させた。90代の住民は「彼がいなかったら、私たちは死んでいた」と感謝した。
これがメディアで大きく報じられると、韓国政府は住民の避難を助けたインドネシア国籍の3人に「特別寄与者在留資格」という長期在留資格を与えることを決めた。過疎で高齢者しかいない漁村で、若い外国人労働者がいたことで大きな惨事を防いだ。
韓国では農村の男性たちの国際結婚で外国人移住者が増えたが、過疎の進行で、各自治体はさらに新たな選択を模索している。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 17からの転載】
平井久志(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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