トランプ得意のウソ? "第6世代戦闘機"F-47がガチなら多くのデメリット!?
第6世代戦闘機F-47のレンダリング画像(CGイメージ)。煙や照明は、見せたくない機構を見せないための演出か
第6世代戦闘機「F-47」を公開し、開発契約をボーイング社と結んだと発表したトランプ。「俺の大統領任期中に米空軍に配備する!」と威勢よく言ったけど、それ本当に存在するの? 派手好きな彼のいつものでまかせじゃなく? そこで、航空機のスペシャリストを直撃! 近い将来実用化されたら、世界はどうなる?
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■飛んでる写真はないが実在はするはず!3月21日(現地時間)、トランプ大統領は、第6世代戦闘機を自身の"第47代大統領"にちなんで「F-47」と命名し、開発契約をボーイング社と結んだと発表。レンダリング画像(CGイメージ)も初公開し、「大統領任期中(2029年1月まで)に米空軍に配備する!」とブチ上げた。
しかし、これまで散々あることないこと言い放ってきた彼のことだ。そもそも事実なのだろうか?
世界中で戦闘機を撮影しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は「5年前くらいから実証機が試験飛行をしているというが、飛んでいる様子をとらえた写真が出ていないのが不思議」と語る。
「まず、10年ほど前にアメリカ空軍の次世代航空支配(NGAD)計画が始まり、旅客機でもおなじみのボーイング社と、戦闘機を開発製造してきたロッキード・マーチン社は受注を争ってきました。
この計画のために両社が造った2機の実証機は、2019年と22年にそれぞれ初飛行を行なっており、その後、数百時間の飛行実績を積み重ねてきたそうですが、写真がどこにも出ていないのです」
やはり怪しい気がするが、柿谷氏は「それでも実機は完成しているはず」と言う。
自身が第47代大統領であるため、F-47と命名したトランプ。大統領が戦闘機に名前をつけるのは異例のことだという
「10年くらい前から、08年に退役しているはずのF-117ステルス戦闘機が飛んでいる様子が頻繁に見られるようになったんです。後に米空軍は、研究開発などに同機を使用中と発表しました。
推察するに、F-47の実証機を操縦するテストパイロットの飛行訓練のために、形状や飛行特性の近いF-117を使っているんじゃないかと考えられます。そして、5年ほど前に始まった実証機そのものの飛行訓練は秘匿のために、夜間に行なっているんでしょう。
10年前から研究開発が始まっているんだとすれば、100%実機は完成しているはずです」
では、トランプが出したこの画像がCGなのはなぜ?
「何かの理由でまだ見せたくないだけだと思います。煙で覆われており、なおかつ後ろ側を見せていないので、エンジンに可変ノズルがあるかどうかも今は見せたくないのでしょう」
■F-47を購入? F-3を開発?航空自衛隊那覇基地302飛行隊隊長を務め、外務省情報調査局への出向経験もある杉山政樹氏(元空将補)も、「あるかないかでいえば、あるはず」だと話す。
「これだけトランプが大々的にプレスリリースをしているわけですから、実証機は存在しているでしょう。しかし、現時点ではまだ開発段階の実証機ですから、それを実戦に使う戦闘機にできるかどうか、そこは正直疑問です」
実証機まで飛ばしているのに、どうして「疑問」なのか? 前出の柿谷氏はその理由のひとつに、今回の意外な決定を挙げる。
「まず、世界最強と呼ばれるF-22や、日本にも配備され始めたF-35を開発してきたロッキード・マーチン社ではなく、ボーイング社が採用されたのは驚きです。大統領が47代目だから名前に『47』を冠するのも同じくらい驚きでしたが......」
F-47の主契約企業に指名されたのは、これまでF-22やF-35を開発してきたロッキード・マーチン社ではなくボーイング社だった
その上で、前出の杉山氏は、"1社"より"1ヵ国"で開発することに疑問を呈す。
「アメリカがF-22を凌駕(りょうが)するような、他国が追随できないような第6世代戦闘機を開発する態勢に入った、という噂は10年前から聞いていました。
その頃、日本製の支援戦闘機F-2の後継機、通称F-3の開発計画があったが、アメリカは相乗りできなかった。そのため、そのF-3計画は日本、イギリス、イタリアの3ヵ国にサウジアラビアも参画する方向で進んでいますが、一方のF-47は1ヵ国で造ろうとしています。
ちなみにF-35はアメリカ、イギリス、イタリア、オランダ、トルコ、カナダ、オーストラリア、デンマーク、ノルウェーの9ヵ国が参加する国際共同計画で造られました」
開発国が1ヵ国だけであることは、多くのデメリットにもつながる。杉山氏が語る。
「第6世代戦闘機の要素とは、無人機を随伴させて空戦を任せながら全体を管制し、自身はそのネットワークの中心で、長射程のミサイルを搭載するウエポンキャリアーとなること。この特性が、いくつかの不利益を引き起こすと予想されます」
その、不利益とは?
「まずひとつは、そもそもの開発経費。先ほど説明したように、1機で1個編隊をコントロールできなければならないのが第6世代戦闘機です。そのため、一機一機の開発ではなく、戦闘システムの全体像を見据えて研究開発をする必要がある。それには相当な技術と経費がかかると予想されます。
次に、ネットワークの齟齬(そご)の可能性。第6世代戦闘機は複数の無人機をコントロールするような高度なネットワークを駆使します。
例えば、そこに旧式の戦闘機を一緒に入れたいとなっても、その高度なネットワークに適応できなければ、無人機に『敵』と判断され、攻撃されてしまう可能性がある。要するに共闘できる飛行機が限られてしまうのです。
例えば、他国と協力するとなっても、その国が第6世代戦闘機を持っていないと、アメリカはせっかく造ったF-47を出せないかもしれない。つまり、まずは他国にF-47を売る必要があるわけです」
日本、イギリス、イタリアが共同開発している第6世代戦闘機、F-3のコンセプトモデル(サウジアラビアは参画を検討中)
しかし、どの国とも共同で開発していないため、購入してくれる確証はない。いつも戦闘機を買ってくれる日本にもF-3計画がある。
「まあ、トランプのことなので『おまえらのF-3開発がうまくいかないのならば、俺のところのF-47開発に乗っかれよ。その代わり金はこのくらい出せよ』というディールを仕掛けてくる可能性は十二分にあります」
特に狙い目なのは資金力のあるサウジだろう。
「アメリカは今、ウクライナやイスラエルとパレスチナの和平交渉の舞台にサウジを選んでいます。あれは、サウジを"中東の盟主"にしてあげることで、中東をまとめ上げられるようにしたいからでしょう。例えば先にF-47が実用化されれば、サウジはそっちを買って、F-3は買わないでしょうね」
そうなると、F-3開発計画は資金難に陥るかもしれない。一方で前出の柿谷氏は別の見方をする。
「サウジは今、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインが共同開発したユーロファイタータイフーンと、アメリカ製F-15を使っています。その流れでいえば、F-47もF-3も買うかもしれないです」
では、日本は?
「日本は在日米軍強化計画中止の代わりに、トランプのディールでF-47を買わされるでしょうね」
2014年、米空軍は研究開発などにF-117を使用していると発表。F-47と飛行特性が近いために、テストパイロットの訓練を日中はF-117で行ない、実証機の秘匿の訓練は夜間に行なっているのかもしれない(撮影/柿谷哲也)
やはり、日本は買うはめになるのか......? 杉山氏は、「どうせ研究開発にお金がかかってしまうなら、むしろそっちに乗っかってもいいかもしれない」と話す。
「これは完全に私の独自の考えですが、もしF-47がすでに完成目前ならば、F-3の開発をやめて、F-47に乗り換えてもいいんじゃないですかね。今までもアメリカから戦闘機を買っていたわけですから。
トランプは、同盟国には10%性能を落として売ると言っています。一見、不公平なディールに見えますが、アメリカから買う武器は以前から10~20%性能が落とされていいるのが当たり前でしたし、もう使っていない新古品を買っていたりもしたわけですから」
日本がF-47を買えば、アメリカにとっては一石二鳥だ。儲かる上に、中国が動きづらくなるからだ。
「なので、中国はかつてF-22のときにもやったように、対米議会工作などを行なってでも、日本を含む東アジアにF-47が配備されないようにするでしょうね。
今回の発表内容がどのくらいウソなのか、どのくらい本当なのかにかかわらず、中国は第6世代戦闘機の開発に大金をつぎ込むことになるでしょう。そう考えれば、トランプの今回の発表は案外うまい外交とも言えるのかもしれません」
第6世代戦闘機開発を巡る世界のレースは、ますます苛烈を極めそうだ。
取材・文/小峯隆生 写真/アメリカ空軍 時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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