【#佐藤優のシン世界地図探索104】"仁義なき戦い"に"総長賭博"...。映画でひもとくウクライナ戦争の構造
いまのウクライナ戦争を理解するには、この『仁義なき戦い 代理戦争』は必見
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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佐藤 ウクライナ戦争の構造を理解するには、映画が参考になります。
――...といいますと、具体的に何を参考にするのですか?
佐藤 3本の映画です。ひとつ目が深作欣二監督、菅原文太主演の『仁義なき戦い 代理戦争』です。「仁義なき戦い」シリーズの3作目ですね。
――それがウクライナ戦争とどう関係するんですか?
佐藤 映画の大筋は、上部団体の指示で抗争している菅原文太が、最後にいよいよ突撃して、広域団体との戦いに発展するという話でした。
しかし、その広域団体の人間から「お前とも色々と縁があるから本当の事、教えたろか? もう、上同士は手を組んでいるんやで。だから、仲良うしてくれへんかな?」と言われるんですよ。
――すさまじい!
佐藤 そして菅原文太は「お前の周辺で戦っている奴らは皆、裏返っている」「やると言っているのはお前だけやで。全滅や」と伝えられます。
――ということは、菅原文太と同じ立場にゼレンスキーがいると。いまの世界情勢は『仁義なき戦 代理戦争』なんでありますね。
佐藤 そう、構造は『代理戦争』と同じです。それからもうひとつは『博奕打ち 総長賭博』です」
――鶴田浩二が主演の映画ですね。
佐藤 『総長賭博』はヤクザ一家の総長が倒れ、その後継問題を描いた作品です。いま、トランプ米大統領とプーチン露大統領の間で"総長賭博"が行なわれています。そして、その総長賭博の賭場に入って来て、「俺も賭けさせろ」と主張しているのがゼレンスキーということです。
この状況に際して石破総理は「わかりません、見(けん)に回らせて頂きます」という形を取りました。これは、見ているだけの傍観者ですね。
――その石破総理の行動は正しいんですか?
佐藤 当然、正しいですよ。総長賭博なんて、もしその勝負に入ってどちらかに勝ってしまったら、とんでもない話になります。だから、そういった状況のキーワードは「見に回る」です。
――そこに入っては駄目だと?
佐藤 はい、そうです。
――しかし、ゼレンスキーは入っていった。
佐藤 ゼレンスキーは鉄火場の様子を見て、トランプに「お前、こんなところに張ったらダメじゃねえか」と忠告しているんです。
日本の人々が理解していないのは、2月末に行なわれたトランプとゼレンスキーの首脳会談の場にあがった「感謝」の要求です。
「お前、感謝したのか?」と言うトランプに対して、ゼレンスキーは「俺はした」と主張していましたが、あれはズレています。
つまりトランプは「感謝が足りない」と言っているわけです。そして、足りてるか、足りていないかを判断するのは、アメリカ側なのです。
――量と行為、「やった」「やらない」をちゃんと分けないといけない。
佐藤 そうです。だから「感謝しているのか?」と言われて「感謝した」と言ったところで、会話にならない、言葉が通じてないわけですよ。
――だからトランプは怒りまくった。
佐藤 その通りです。日本のメディアや評論家は「30日即時停戦案」に関しても、全部間違えていますよね。「30日即時停戦案」はあくまで"案"であり、ウクライナとアメリカが考えたもの。ロシアが最初から合意しているわけではありません。
あくまで「30日即時停戦案」は、市場における最初の言い値です。だから、そんなの動くに決まっているんですよ。
それを日本のメディアは「ロシアが拒否した」と報じていますが、ロシアは交渉を拒否したわけではありません。結局、エネルギー施設の攻撃禁止が決まりましたが、「この案はちょっとね」「それでは案を変えて、エネルギー施設だけ攻撃しないという形でいかがでしょうか?」「いいよ、すぐに命令出すから」と交渉があったわけです。
ちなみに、ここに至るまでにゼレンスキーと全く相談していないはずです。
――それはまたなぜですか?
佐藤 ルビオ米国務長官が「核大国間の代理戦争だ」と認めたからです。代理戦争は依頼人と代理人がいます。そして、その代理人は依頼人の指示を超えてはなりません。
――この場合ウクライナは?
佐藤 ウクライナは代理人であり、アメリカが依頼人です。だから、アメリカが止めると言ったらウクライナは戦争を止めないとなりません。その逆も然りです。それが、代理人と依頼人の関係です。
――代理戦争の構図と関係がわかりました。
佐藤 だから、身もフタもない話になってきているわけですよ。
――確かに。
佐藤 そしてトランプのいう安全保障、これがまたすごいですよね。
戦争地帯の両側には大量のレアアースが埋まっていますが、「それをロシアとアメリカで掘るから99年貸せ。実際に穴を掘るキツイ仕事はウクライナ人がやって、上がりは俺とプーチンで分けるから」という類のことを考えていると私は見ています。
――素晴らしい依頼人であります。
佐藤 そして、イギリスが軍隊を送ると言ってきたら「そんなもの、安全保障にならない」という態度ですから。
こういった非常に建設的な提案がトランプからあったわけですから、プーチンも「いいね、アメリカの紳士どもとは話が噛みあわなかったからな」となるわけですよね。
――とても、わかりやすいです。
佐藤 それから、これまで"対決の場"だった国連が"歩み寄りの場"になってきました。
まず、ウクライナと西側諸国が出した案、つまりロシアを非難する案にはアメリカが乗らず、ロシアが侵略や主権侵害しているという言葉は一切除くという案をアメリカが出します。こういう方向で、国連を変えていくつもりでしょう。
さらに、国連安保理にもアメリカから「この紛争をとにかく解決しましょう」と提案しました。すると、中露が賛成する一方で、根性無しの英仏は拒否権を行使するのにビビって棄権しました。それで、誰もまとまると思わなかった安保理決議が出ます。
これはとてもめでたい事で、国連安保理決議に基づいて、解決していく枠組みができるわけですよ。
――素晴らしい。
佐藤 こんな事は誰も予想できませんでした。しかし、たったひとりだけ、予測した人がいました。池田大作創価学会第三代会長です。
――2023年1月11日に発表された「ウクライナ危機と核問題に関する緊急提言『平和の回復へ歴史創造力の結集を」での池田氏の以下の発言ですね。
《そこで私は、国連が今一度、仲介する形で、ロシアとウクライナをはじめ主要な関係国による外務大臣会合を早急に開催し、停戦の合意を図ることを強く呼びかけたい。その上で、関係国を交えた首脳会合を行い、平和の回復に向けた本格的な協議を進めるべきではないでしょうか》
佐藤 そうです。だから、現在の流れは池田氏の言う通りです。
――これは、神の光を浴びている人にはわかると。
佐藤 そう、池田氏にはわかっていました。池田大作の言う通りの流れになっていますからね。
トランプもプーチンも池田大作氏の予想した大枠の中で動いています。それに反逆しているのがゼレンスキーです。それは、キリスト教の価値観にも、仏法の価値観にも反しています。
ゼレンスキーの動きはニヒリズムに基づいています。つまり、全ての肯定的価値観に反しているから、敗北は当然となります。
――神の光に溢れて、実際に現場は『仁義なき戦い』になっています。
佐藤 いやいや、いまは死ぬけれども、これで平和が訪れます。
――『仁義なき戦い 代理戦争』では、菅原文太が最後の突撃に行く前に、大広域団体の人から忠告されて戦争にはなりませんでした。しかし、現実は戦争になっています。
佐藤 そして3本目の映画が、1970年公開の日本映画『激動の昭和史 軍閥』です。
――戦争映画であります。
佐藤 小林桂樹が主人公・東条英機を演じていますが、東条英機が天皇の御前で御進講をするシーンがあります。
――天皇の御前で、戦況をご説明する大切な儀式ですね。
佐藤 そうです。昭和20年2月26日。このシーンが素晴らしいんですよ。
【映画のワンシーン】
東条英機「この程度の空襲はまだまだ、モノの数ではございません。近代戦といたしましては、ホンの序の口であり、真の戦いはこれからでございます。
(中略)
日本民族は最後の土壇場に至りますと、決死の勇を奮起し底力を発揮するという、類まれなる資質を有しております。戦局は切迫しております」
映像は、空襲の後の日本のある都市を写し、黒焦げの焼死体が累々と並ぶ。そして、市街地はガザ地区のように完膚なきまでに破壊されている。
東条英機「揺るぎない信念を堅持して、戦い続ける限り、勝利への道は必ずや開かれると確信します」
そこで東条英機の台詞は終わり、次のシーンでは『ピカッ! ドーン!!』と原爆が爆発。そのまま『監督 堀川弘通』とタイトルロールに入り、映画は終わる。
――核爆発。これで終わりと。
佐藤 いまのゼレンスキーは、絶対にこの雰囲気だと思いませんか?
――非常に近い気がします。
佐藤 トランプは玉砕とか、そういった精神が嫌いなんですよ。だからいまゼレンスキーに対して、「十二分に戦っている。お前たちにもうカードはない。お前はいま変なカード遊びをしている。それは数百万人を殺す第三次世界大戦というカードだ」と忠告しているわけです。
――核兵器が欧州で数百発連続爆発する第三次世界大戦が起きる......。
佐藤 そうです。
次回へ続く。次回の配信は4月18日(金)を予定しています。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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