ドジャース「WS連覇」への道。1998~2000年のヤンキース以来となる大偉業へ!
(左から)山本、大谷、佐々木。「最強日本人トリオ」結成、リリーフに100億円以上投資で MLB30球団断トツの戦力!?
大谷翔平と山本由伸が鳴り物入りで加入した昨季、4年ぶり8度目の世界一に輝いたドジャース。オフも積極補強の手を緩めず、佐々木朗希をはじめとした逸材がズラリとそろう。今世紀に入ってからいまだ達成されていないWS(ワールドシリーズ)連覇を目指す旅路が今始まった!
■21世紀初の連覇へ! 必要な「金と才能」東京から始まったドジャースの2025年シーズン。目指すゴールはもちろん、2年連続の世界一だ。
1998~2000年に3連覇を果たしたヤンキース以降、どの球団も成し遂げていないワールドシリーズ(以下、WS)連覇という21世紀初の大偉業へ向け、佐々木朗希の獲得をはじめ、積極補強を敢行。"最強日本人トリオ"結成で日本での注目度がますます高まっている。
「MLBの歴史を塗り替えるほどの黄金期を本気で築く、という確固たる意志を感じます。結局、ポストシーズンで勝てるのは年俸総額の高いチーム。
ドジャースは昨季、MLB史上最高額となる10年1000億円超で大谷翔平を獲得し、投手最高額の12年463億円で山本由伸を獲得。このふたりの活躍で世界一になりましたが、今季はこの流れに拍車がかかりました」
こう答えてくれたのはMLBに詳しい本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。確かに、昨季リーグ優勝決定シリーズに進んだ4球団のうち3球団は、年俸総額がMLB30球団でトップ3(メッツ、ヤンキース、ドジャースの順)だった。
「投打のバランスや総合力など、戦力という点ではドジャースが頭ひとつ抜けています」
実際、ドジャースは昨季、ぜいたく税(年俸総額の規定を超えた球団に対する課徴金)として、史上最高額の約160億円を課されたが、オフの積極補強を鑑みれば、今季はさらに増額されるだろう。
「今まではアメリカ国内の市場を考え、戦力を均衡させてどの球団にも勝てる希望を持たせるのがMLBの意向だったと思います。
そこから一転、盛り上がりを見せる日本を含めた世界市場を見据えるため、サッカーのように世界的ビッグクラブをつくる方向へとかじを切った印象を受けます。
ドジャースはその流れに乗り、巨大マーケットの恩恵を受けてぜいたく税も気にしない積極補強に踏み切ったと言えそうです」
この積極補強のかじ取り役、アンドリュー・フリードマン編成本部長の名をニュースで耳にする機会も増えてきた。
「フリードマンは05年に28歳の若さでデビルレイズ(現レイズ)のGMに就任。低予算でやりくりしながらも、過小評価されている選手の獲得、ポテンシャルのある選手の魔改造など、優れた編成術でチームをつくり上げ、08年に球団初のリーグ制覇を達成。以降もポストシーズンの常連に引き上げた実績を買われ、14年にドジャースに迎え入れられました」
2014年オフからドジャースを支えるフリードマン編成本部長(左)。ロバーツ監督(右)との2頭体制で黄金期を築く
ドジャースでも当初は「弱者の戦略」を駆使し、年俸総額規定を大幅超過しない長期的経営を推し進めていたフリードマン。その流れが昨季、大谷と山本の加入で一変した。
「大谷との超大型契約も、まだMLBで一球も投げていない山本への破格の契約も、従来の戦略と一線を画すもの。その決断が奏功したことで、やはり最後にものをいうのは『金と才能』と判断し、より積極的な補強を推し進めることになったのでしょう」
編成本部長が変化したように、デーブ・ロバーツ監督にも変化が見て取れるという。
「以前はドナルド・トランプ米大統領からもSNSで批判されていた采配面が、どんどん滑らかになってきました。首脳陣自ら率先して成長した結果、昨季の世界一があったのだと思います」
■ライバルの力をそぎ弱点を補う投手補強オフの補強で特に注目を集めたのは、2度のサイ・ヤング賞経験を持ち、昨季はノーヒットノーランを演じた左腕、ブレイク・スネルの加入だ。ただ、サイ・ヤング賞受賞の2シーズン以外はすべて1桁勝利。23年にはリーグ最多与四球という気になる数字も残している。
「『四球が多い=制球力が悪い』では決してありません。最多与四球のシーズンも最優秀防御率に輝いているとおり、打たれるくらいなら四球でいいと割り切りができるタイプなんです。
ソフトバンクのリバン・モイネロに似ていて、少し荒れ気味でも甘いゾーンには投げない。伸びるストレート、スラッター、カーブ、チェンジアップを得意とするところもモイネロと似ています」
さらに、毎年故障者が絶えないドジャースにとって、スネルには最良の強みがある。
「ケガをせず、毎年コンスタントに登板できるのがスネルの魅力。ドジャースはケガさえしなければ最高の能力を持つ投手ばかりですが、実際には故障者を出す前提でワークシェアしていくイメージの編成になっています。
山本、スネル、昨季開幕投手のタイラー・グラスノーの3人は、シーズンを通して屋台骨を支える存在として期待されているはずです」
この3人を軸に、トミー・ジョン手術明けの大谷、トニー・ゴンソリン、ダスティン・メイのほか、故障明けでなおかつ今季37歳という年齢からフル稼働は難しいサイ・ヤング賞3度のレジェンド左腕クレイトン・カーショウ、同じく間隔を空けて登板することになりそうな佐々木らで先発ローテを回していくことになりそうだ。その中で、山本と佐々木に期待する内容は?
「山本は試合ごとに少し波がある点を改善できれば、サイ・ヤング賞争いができるかもしれない。佐々木はやはり100マイル(約160キロ)の球速と、完全試合を達成した当時に投げていたジャイロフォークを取り戻してほしい。ケガさえしなければ、将来的にサイ・ヤング賞を狙える逸材なのは間違いありません」
リリーフ陣の新戦力でお股ニキ氏が注目するのはタナー・スコット。昨季はパドレスで72試合に登板して9勝6敗11ホールド22セーブ、防御率1.75の好成績を収めた左腕だ。
「昨季抑えを任されたエバン・フィリップスが肩痛で出遅れているため、当面はスコットがクローザーになりそう。的確に補強するだけでなく、昨季の地区シリーズでも戦った、最大のライバルであるパドレスの戦力もそぐ戦略です。
リリーフに4年総額112億円は高額ですが、大谷が最も苦手にした投手を味方に引き入れたのだから、その価値は絶大です」
実際、昨季の地区シリーズで大谷はスコット相手に4打席4三振。天敵が仲間となる、実に有効な補強と言える。リリーフ陣ではほかにも、セーブ王の経験を持ち、昨季もレンジャーズで61試合に登板して33セーブを挙げたベテラン右腕、カービー・イエーツが加入した。
「昨季50試合登板のブレイク・トライネンは健在ですが、昨季途中加入の100マイル投手、マイケル・コペックは故障で開幕は絶望。昨季抑えを務めたフィリップスの出遅れも含め、シーズン序盤はイエーツが穴を埋めるイメージ。
菅野智之(オリオールズ)がかつて参考にしたこともあるほど良いフォークを持つ投手です」
■"潤滑油"を重宝! 野手補強の深い狙い一方の野手陣はどうか? チームの中核はもちろん、大谷、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンの"MVPトリオ"だ。
「大谷は打撃の状態を昨季から維持していて、フル出場なら打率3割、50本塁打クラス。投手復帰も目指す今季、打席数も盗塁数も減るでしょうが、それでも135試合出場で打率.320、48本、20盗塁は期待したいところです」
昨季、大谷に次ぐ33本塁打を放ったテオスカー・ヘルナンデスとは、3年約104億円での再契約に成功した。
「金額だけ見れば割高感があっても、人間的な良さも含めての評価のはず。昨季ポストシーズンでも勝負どころでダルビッシュ有(パドレス)から本塁打を放ったように、勝ち方を知るベテランです」
また、昨季途中加入ながらリーグ優勝決定シリーズで打率4割超と活躍し、MVPに輝いたトミー・エドマンとの契約延長は何よりの補強だ。
「3年連続25盗塁以上の経験があり、毎年のように2桁本塁打が期待できる。さらに、ショートもセンターも守れる。ベッツは1年を通してショートを守るのが厳しいかもしれないので、貴重な選手です。こういう潤滑油的存在がいると、チームは非常に助かります」
エドマンと同じくアベレージ型のマイケル・コンフォートともFA契約。さらに、クリス・テイラー、ミゲル・ロハスら内外野を守れる30代中盤のユーティリティ選手が脇を固める。
「WS制覇を目指すなら、シーズン序盤は一発攻勢の"ビッグボール"でも、ポストシーズンに向けて"スモールベースボール"の要素を徐々に加える必要があります。そのためにも細かい野球ができる選手を織り交ぜる重要性にドジャースは気づいたのだと思います。
そして投手陣は、シーズンでは打たせて取り、ポストシーズンでは三振やフライなど自力で抑え込める投球を増やす必要がある。WSを制するにはそのくらいの臨機応変さが求められます」
■ヤンキースに学ぶWS連覇の難しさ上述したようにWS連覇は98~00年のヤンキース以降、達成した球団がない。ならば、その最強ヤンキースの強さを解き明かすことで、連覇への鍵が見えてくるのではないか。
「3連覇の中でも、98年のヤンキースは114勝48敗、勝率.704の成績で地区優勝し、WSでも4連勝。完成度では"ビッグレッドマシン"と呼ばれた強力打線で連覇を果たした70年代のシンシナティ・レッズと並び称される、史上最高チームのひとつです」
強さを誇った主な要因は、"コア4"と呼ばれた生え抜きの偉大な4選手だ。
「ショートのデレク・ジーター、正捕手のホルヘ・ポサダ、先発のアンディ・ペティット、抑えのマリアノ・リベラ。後に全員が永久欠番となる4人を中心に、勝つための野球を徹底できるメンバーが集まっていました」
98年の打線は、首位打者バーニー・ウィリアムズをはじめ、2桁本塁打を放った選手が10人いたことだけでもその充実度がわかるというもの。さらに投手陣もすごかった。
「先発はエースのペティットが16勝、同年完全試合を達成したデービッド・ウェルズが18勝、翌年完全試合を果たすデービッド・コーンが20勝。
さらに、シーズン序盤は伊良部秀輝も活躍して13勝、キューバから亡命したオルランド・ヘルナンデスが12勝、先発とロングリリーフをこなすラミロ・メンドーサが10勝と2桁投手がズラリ。
リリーフ陣もリベラ以外にサイドスローのジェフ・ネルソン、左腕のマイク・スタントンと駒がそろっていました」
この漫画のような戦力を名将ジョー・トーリ監督がまとめ上げ、98年は圧勝。以降、少しずつメンバーを入れ替えながら3連覇を達成した。
「本当に強いチームとは、誰がすごいではなく、全員がすごいもの。何がではなく、全部がいいもの。その典型例が98年のヤンキースです。
日本で絶対王朝を築いたV9時代の巨人、90年代の西武黄金期、野村克也監督時代のヤクルトも同様で、絶対的な捕手を中心に全ポジションにほぼ穴がない。控えにも頼れるベテランがいるなど、メンタル的にも最強のチームだけが黄金期を築けるのです」
その最強ヤンキースとドジャースに共通項はあるのか?
「ヤンキースの"コア4"に対し、ドジャースには"MVPトリオ"がいる。2桁本塁打を打つ選手が何人もいて、控え野手にもベテラン、アベレージタイプ、勝負強い選手など、勝つために必要な選手がそろう点も似ています」
それでも連覇が難しい挑戦であることに変わりはない。
「一度勝つだけでも難しいサッカーの欧州チャンピオンズリーグで連覇するようなもの。近年でその偉業を果たしたのは2015-16シーズンから前人未到の3連覇を達成したレアル・マドリーだけです。
ヤンキースの3連覇同様、本当に奇跡的なチームだけができる快挙。そのためには、いかにケガ人を出さないか。いかに代えの利かない選手のピークを維持するか。とはいえ、地区優勝の可能性は限りなく高いですし、WS連覇に挑戦する環境も整っているので、期待しかないです」
その難しさを知ってか知らずか、大谷は昨季の世界一直後に「これをあと9回やろう」と宣言した。これまで数々の不可能を可能にしてきた男は、いったいどんな結果を残すのか。その挑戦は始まったばかりだ。
取材/オグマナオト 写真/時事通信社
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